いわてびと
2021/05/12

酪農ヘルパー20年 木戸場真紀子さん

さまざまな分野で輝く岩手ゆかりの人を紹介する「いわてびと」。
今回は、葛巻町で「酪農ヘルパー」というお仕事をしている木戸場真紀子(きとば)さんです。
「酪農ヘルパー」は、一年中忙しく、休みを取りづらい酪農家に代わって、搾乳や餌やりなどを行っています。
いわば、酪農家の働き方改革を支えるお仕事です。
ヘルパーとして20年間、働いてきた木戸場さんの思いを取材しました。

【仕事は朝5時半から】

午前5時半

木戸場真紀子(43)さんが牧場を訪れたのは午前5時半。
連日、早朝から牛の世話にあたっています。
新緑の季節のさわやかな朝とはいえ、やっぱり眠い。
てきぱきと働く木戸場さんに、「朝早くてつらいなと思ったことありますか?」と質問してみると、「若いときは早く起きるのがつらかったんですけど、今はもう自然に目が覚めちゃいます」と、はにかみながら話してくれました。

ヘルパーの仕事

酪農家の休みの日に作業を代行するのがヘルパーの仕事。
この日は、健康診断を受けに行く酪農家から依頼を受けました。 最初に取りかかるのは牛舎の掃除です。
溜まったふんや牧草を手際よくリヤカーで運び出したあとは、牛のエサやり。
子牛にはミルクを作って与えます。

牛のエサやり
ヘルパーの仕事

続いて最も大事なお仕事、牛の搾乳です。
飼い主にしか心を開かない牛もいて、一筋縄にはいかないこともあるとか。
牛は半日も経てば乳が張り、搾乳をしないと病気になるため、早朝と夕方の1日2回、乳を搾らないといけません。
搾乳を終え、夕方からは次の現場へ。
木戸場さんが仕事を終え家路につくのは連日、夜の8時を回ります。
体力勝負の酪農ヘルパーの仕事を20年続けてきた木戸場さんに、町の酪農家たちは厚い信頼を寄せています。

皆川和也さん

依頼主の酪農家・皆川和也さん

「酪農ヘルパーは、牧場の人たちが病気やけがをしたときにすぐに来てくれるありがたい存在です。中でも木戸場さんは何でもこなしてくれるので全般的に任せられる存在で、一番信頼しています」。

【子育てで気づいた 酪農家の女性の苦労】

酪農家の女性

福島県出身の木戸場さん。
幼い頃から牛が好きで酪農に興味を持ったといいます。
茨城県の専門学校で学んでいた頃、実習先で酪農ヘルパーという仕事があることを知り、卒業後、葛巻町でヘルパーの仕事を始めます。
その後、2人の娘の出産を経験し、子育てをしながら酪農を続ける女性の苦労がわかるようになったといいます。

木戸場さん

木戸場真紀子さん

「子育てや家事は365日休みがなく、そのうえ牛のお世話も365日休みがない。だからこそ、自分もそうでしたがリフレッシュする時間が大事なんじゃないかなと思うようになりました。一度家から離れて旅行や買い物をしたり、映画見たりして気持ちをリセットして、また牛や子どもの世話をする。そんなオフの時間は本当に大事だなと思います」。

【担い手不足はヘルパーも同じ】

担い手不足

東北一の酪農の町・葛巻町でも後継者不足が深刻です。
酪農家の数は10年前から半分近くに減少しています。
後継者不足を解消していくためには、「休みがない」と言われてきた酪農の“働き方改革”が必要だと、木戸場さんは強く感じています。

酪農ヘルパー

しかし、町内103戸の酪農家に対し、木戸場さんをはじめ酪農ヘルパーの数は10人。
表の数字は、1日に出勤するヘルパーの人数です。全員が出勤する日も多く、連日大忙しです。

木戸場真紀子さん

「ヘルパーの数は全然足らないです。休みを回すにはあと3人くらいは必要かなと思います。そうすれば農家さんが今よりも休めるし、ヘルパーも休みが取りやすくなります」。

【受け継がれる思い 持続可能な酪農を目指して】

受け継がれる思い

木戸場さんは、1人でも多くの人にヘルパーになってほしいと、各地で講演会などを開き、仕事のやりがいを伝えてきました。
こうした努力の甲斐もあり、ヘルパーに加わってくれる若者もいます。
阿部結香(22)さんです。
木戸場さんたち先輩ヘルパーのサポートを得て、今では酪農家を支える貴重な戦力となっています。

阿部結香

阿部結香さん

「ヘルパーとして日々の作業を引き継いで、酪農家の方が貴重な休みの日に不安に思わないように過ごせてもらえたらなと思っています」。

酪農の担い手

岩手の基幹産業、酪農の担い手を絶やすことなく、将来につなげたい。
木戸場さんはその一心で、きょうも牧場で働きます。

酪農の担い手

木戸場真紀子さん

「今考えれば私も本当に大変でした。仕事が朝早くから夜遅くなので、子どもの寝ている顔しか見てないようなときもありました。2番目の子どもが農業高校に進学したのですが、私と同じ仕事をやりたいと言ってくれているので、苦労は無駄ではなかったなと思っています」。

矢野記者

盛岡放送局 記者

矢野裕一朗

2018年入局。警察・司法担当を経て、去年秋から県政担当。

趣味は草野球と日帰り入浴ができる県内の温泉巡りです。