いわてEYE
2021/05/19

“遠距離恋愛”地方企業の活路に

新型コロナウイルスの収束が見通せない中、どのようにビジネスを進めるか悩んでいる人にとって、ヒントになる取り組みかもしれません。
感染拡大防止のため、他県との往来が思うようにできない中、岩手県宮古市で行われているある事業が注目を集めています。
キーワードは“遠距離恋愛”です。

「恋人募集中」に「遠距離恋愛」

「恋人募集中」に「遠距離恋愛」。
宮古市役所の一角には、役所であまり目にすることがないことばが並ぶポスターが置かれています。

遠恋複業課in宮古

これはいったい何なのだろうか?市の職員に尋ねてみると・・・。

宮古市 地域創生交流推進室 中居裕美 室長

「市の事業で、遠恋複業課in宮古という事業になります」

遠く離れた地で暮らす人どうしが愛し合う、遠距離恋愛。
それをモチーフにビジネスを進めようというのが宮古市の「遠恋複業課」です。
また、この事業について、市が「複」業としているのは誤字ではありません。
一般には「副」業と表記しますが、複数の仕事を持つことが世の中に浸透してきたことを受けて、主・副の分け隔てなく、さまざまな仕事ができる可能性を考えて、「複」業としています。

この「遠恋複業課」という取り組みでは、さまざまな課題を抱える地元企業と、副業がしたい首都圏の住民を市が引き合わせます。
企業と住民は互いのスキルや商品に惚れ込むことで、離れた場所にいながらもビジネスを進めていきます。
離れて暮らす人どうしが思い合ってつながる様は、まさに遠距離恋愛そのものです。
当初は関係人口の創出を目指して始まった事業でしたが、新型コロナウイルスの収束が見通せない中で、物理的な距離を超えてビジネスでのつながりを構築できるとして、注目を集めています。

宮古市 地域創生交流推進室 中居裕美 室長

「コロナ禍でリアルでの出会いというのが少なくなってきていますので、この事業で出会いの場を創出してあげる。新しい刺激が地元企業のほうに与えることができれば、次のステージ、新たなステップに踏み出す、そういった事業になるのではないか」。

ことし3月、新たに”遠距離恋愛”での取引を始めた“カップル”がいます。
海藻の一種、アカモクの収穫・販売を手がける組合の代表理事、橋清隆さんと、都内で暮らす料理研究家の豊間根美幸さんです。
栄養士の資格を持ち健康にも役立つレシピをインターネットで発信しています。

岩手アカモク生産協同組合 橋清隆 代表理事

「就労までの流れや障害の特性なども含めて載せている。
お互いにとってウィンウィンの関係になるような取り組みをしていきたい」。

アカモク

カキの養殖棚に自生し、ミネラルや食物繊維など豊富な栄養素が特徴のアカモク。
去年は新型コロナの影響で、売り上げの3割を占める飲食店への販売がほぼゼロとなりました。

こうした中、アカモクの個人消費向けの出荷量を増やしたいと考えていた橋さん。
一方、豊間根さんも新型コロナの影響で、飲食店などで働く時間が減少し、少しでも副収入を得たいと考えていました。さらに、宮古市出身でもあり、震災後、地元の力になりたいという思いもありました。
こうして、お互いのニーズが合致した2人は、遠恋複業課を通じて、ことし3月からオンラインで取引をスタートしました。

この日は、若い世代にアカモクをPRするための新たなレシピの開発に向け、話し合いが行われました。
顔を合わせて話すのは初めての2人でしたが、どちらも宮古市出身ということもあり、ふるさとの思い出話などを交えながら、すぐに打ち解けていました。
そしていよいよ、豊間根さんが考案したレシピの紹介に入りました。

料理研究家の豊間根美幸さん

「お仕事で忙しい方とかもいるので、さっとゆでて混ぜてできあがるというところで」。

豊間根さんが提案したのは、アカモクに塩こうじなどを混ぜて作るドレッシングです。 彩り豊かなサラダにかけることでSNS映えも考慮されています。

料理研究家の豊間根美幸さん

「ティックトックなどのSNSで料理動画を見て、おうちで作るのがはやっている/そこにアカモクをぶっ込みたい」。

岩手アカモク生産協同組合 橋清隆 代表理事

「ぜひぶっ込んで下さい。やり方に制限はなく、どういうアプローチからでもいいので。
食べてみたい!」。

今回、提案されたレシピは正式に採用され、組合のホームページなどで公開されることになりました。
そして豊間根さんには、レシピが採用されるたびに組合から報酬が支払われます。

料理研究家の豊間根美幸さん

「岩手の宮古のアカモクを好きになってもらえるように、おいしいレシピを私が考えられたらいいなと思います」。

橋清隆さん

岩手アカモク生産協同組合 橋清隆 代表理事

「調味料としてアカモクが使えるシーンが見えましたから、そこは大きな広がりがあったという印象を受けました。情報発信がより響くんじゃないかな」。

コロナ禍の昨年度、この「遠恋複業課」を利用しマッチングが行われたのは6件。 地元の酒造会社が販路開拓をフリーのコンサルタントに依頼するなど、移動が制限される中でも広がりを見せています。

森永卓郎さん

経済アナリストの森永卓郎さんは、地域のしばりを越えて、多様な人材を活用していくことが、地方企業が生き残っていくためのカギになると指摘します。

経済アナリスト 森永卓郎さん

「実はビジネスと恋愛というのはものすごく密接で、新しい仕事をやってみたいという都会の人のニーズと、都会の若者を活用したい地方企業という、両方ウィンウィンの関係が築けます。距離が離れていても、一緒に仕事をしたり、あるいは交流をしたりというのができるようになったというのは、私は地方にとってですね、ものすごく大きなチャンスがやってきたと思います」。

離れていても、両者にメリットがあればビジネスは成立する。
”遠距離恋愛”にはコロナ禍を生き抜くヒントが隠されていました。

下京記者

盛岡放送局 宮古支局 記者

下京 翔一朗

2013年入局 千葉局、館山支局、盛岡局を経て、2017年から宮古支局。

鹿児島県出身ですが、東北の寒さにはすっかり慣れました。