インタビュー
2021/09/21

医療的ケア児支援法

難病や重い障害がある「医療的ケア」が必要な子どもとその家族を支援する初めての法律が、9月18日から施行されました。
なぜいま、法整備が求められているのか。
県内で取材すると、家族だけでは子どもを支えきれない現状が見えてきました。

斉藤楓ちゃん6歳。脳に重い障がいがあります。

この日、私たちが取材に訪れたのは深夜10時過ぎでしたが、眠る気配がありません。
2年ほど前からのことで、障がいの影響と見られています。
丸3日、眠らないこともあるといいます。

(母の斉藤名月さん)

「毎晩、泣いて、暴れて、動きます。
自分の指や、栄養剤をとるためのチューブを噛んでしまうこともあります」。

楓ちゃんの体につながれたチューブは、食事をとれない楓ちゃんが栄養を体内に取り入れる唯一の手段です。

起きている間は、外れないよう、常に注意が必要で母の名月さんと父親が、交代で夜通し起きていなければなりません。

おととし行われた全国調査では、医療的ケア児の家族の7割が斉藤さんと同じように慢性的な睡眠不足を感じていることがわかっています。

(母の斉藤名月さん)

「おとなしくしていればいいのですが、動くだけではなく泣き叫ぶ時もあるので…
私たちも寝られないので、おかしくなってしまう」。

今回施行された「医療的ケア児 および その家族に対する支援に関する法律」では、こうした睡眠不足に悩む家族らの日常生活の支援や、その家族からの相談を受け付け、情報提供などを行う施設の設置を国や自治体に求めています。

これまでよりも踏み込んで子どもや家族を支える必要があるとして行政の支援は従来の「努力義務」からより強い「責務」と明記されました。

さらに法律は、「目的」の1つに「家族の離職の防止」を掲げています。

矢巾町で両親と長男、3人で暮らす家族です。
3歳の長男は脳に障害があり、多くの時間をベッドで過ごしています。

日中、おもに長男の世話をするのは28歳の母親です。

特別支援学校の教師をしていましたが、出産のため、いったん仕事を離れました。

育休が終わったことし5月、職場に復帰する辞令が届きました。

しかし、仕事に戻ることはできませんでした。

学校で働く間、息子を預けられる施設が見つからないからです。

ことしに入ってから、複数の施設に問い合わせましたが、相次いで断られました。

いまは有給休暇などを使って職場に籍をとどめていますが、預け先が見つからなければ、来年春には「退職」となります。

教師の仕事に戻るためには再度、教員の採用試験を受けなくてはなりません。

(母親)

「息子と2人で家にいると、それはそれで楽しいのですが…
話し相手がいない、大人と話したいと思ってしまいます。
私はこのままずっと子育てをして、このまま同じ生活をしていくのかなと思う時がふとあって…。
やりたかったことを止めなきゃいけないのは、つらいです」。

親が仕事などの間、子どもを預けられる施設は不足しています。

県が把握しているこうした施設は、取材した時点で県内に10か所。

NHKは、これらの施設に1日あたりの受け入れ可能な人数を尋ねました。

その結果、一部の施設では障害や病気の程度によって人数に幅があるものの最大でも合計30人程度。

3年前の調査で県内には200人近くの医療的ケア児がいることがわかっていますが、受け入れられるのは、そのわずか15%にとどまっています。

新型ウイルスの影響で受け入れ自体を停止する施設もあり、医療的ケア児の親が仕事をするのは困難な実態がわかりました。

専門家は、法律の施行をきっかけに、社会全体で家族を支える仕組みを作っていくことが必要だと指摘します。

(岩手県立大学 実方 由佳 准教授)

「お家に入って子供とだけ関わることになるとお母さんは追い込まれてしまうんです。
『社会とのつながり』がどんどん絶たれてしまうので。
それを維持するための1つの手段が「職」だと思います。
『働く権利』のようなものが奪われている現在の状況に、社会全体で問題意識を持っていく必要があります。
次の課題はこの法律を具現化することで、形にしていく作業が肝になります」。

法律の施行はあくまでスタートラインで、どう施策に反映するのかが今後、問われていることになります。

特に沿岸部では預かりの問い合わせができる施設すら少なく、取材に答えていただいた親御さんたちは、岩手県内の「地域格差」も深刻だと話していました。

医療的ケア児の親にとって、働くことは単に収入を得るためのものではなく、社会から孤立しないための大切な「手段」でもあると思います。

自治体は、子どもを預ける施設や、そこで働くスタッフを増やすことができないか、家族と一緒に考えていって欲しいと思いました。

大山記者

盛岡放送局 記者

大山 徹

平成21年入局。県政を担当。

3児の父。

趣味は剣道と読書。

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