おばんですいわて

【作家に聞いてみました!】

いま、さまざまな小説のヒット作に「岩手」が登場しています。
そこで、去年出版された文芸書のうち、盛岡が舞台となっていた2人の作家さんに「なぜ岩手?なぜ盛岡?」なのか、それぞれコメントをもらいました。

「花木壮のひとびと」

【高森美由紀さん(青森県出身)】

「花木壮のひとびと」の舞台は、盛岡市の北上川沿いのアパートです。
高森美由紀さんのコメントです。

これまで盛岡を訪れたことは。その時の印象は?

旅行と取材、親戚に会いに訪れたことがあります。穏やかで、雰囲気が優しく、歴史を保っていながら、先進的、懐が深い印象を受けました。
飯岡駅の駅長さんがご親切な方で、駅舎内構造の質問にもご丁寧に答えてくださいました。
しょっちゅう転ぶんですが、そのときも後ろを歩いていた方が「大丈夫ですか?」と助け起こしてくださいました。
気さくで、親切な方が多いんだなあと嬉しかったです。

舞台を盛岡にしたことで作品への影響は?

読んでくださった方が、どういう印象を持たれるかは、その方に委ねられるのですが私が書いていたときは、優しく包み込むような雰囲気を醸し出したい、つまづいてしまった方や、盛岡を知らない方が、ノスタルジックさに、ほっこりした気持ちになる一助となれればいいなと思って書いておりました。

「ミステリークロック」

【貴志祐介さん(大阪出身)】

テレビドラマにもなった防犯探偵シリーズ、表題作の「ミステリークロック」は、密室殺人事件の謎解きの現場が、盛岡の郊外の山荘。「江刺りんごのアップルパイ」も登場します。
貴志祐介さんのコメントです。

岩手とのゆかりは?

ゆかりというほどのものはありませんが、私が日本ホラー小説大賞を受賞したときの選考委員のお一人が高橋克彦先生で、『黒い家』というタイトルも付けていただいたという御縁はあります。
また、かなり以前ですが、盛岡ファンタスティック映画祭に呼んでいただいたときに、美しい自然に囲まれた街と親切な人々に感銘を受けました。
冷麺が美味しかったのを覚えています。

岩手・そして「岩手県と文学」のイメージは?

やはり、宮沢賢治という巨人を生んだ故郷というイメージが圧倒的です。世間的には『銀河鉄道の夜』や『風の又三郎』などの方が有名かもしれませんが、賢治の真骨頂は『グスコーブドリの伝記』と『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』にあると思います。一読して、素晴らしいファンタジーであるだけでなく、厳しい自然と対峙してきた東北の人々の想いが伝わってきました。
また、『遠野物語』の舞台であることから、岩手は日本人の深い無意識を象徴する地という感覚も強くあります。妖怪というのは、我々の心の中に秘められた想いの具象化だと思いますので。

「ミステリークロック」の舞台設定を盛岡郊外とした理由は?

都市の郊外でありながら、山の上は別世界――ネバーランドという場所が欲しかったのです。また、携帯電話が圏外という場所が必要だったので……。

「江刺りんご」が登場しますが、どこかで味わったことがありますか?

そのまま食べたこともジュースを飲んだこともありますが、とても甘くて美味しかったです。実は、アップルパイは食べたことないのですが、絶対に合うはずだと思いました。焼きリンゴは酸味が強い方がいいのでしょうが、アップルパイは感動的な味になりそうな気がしましたので。

東日本大震災後に、東北・特に岩手のイメージがより強くなったことはありますか?

東北は、日本の原風景が拡がる場所だと思っています。南国の明るさもいいのですが、私は、東北の持つ、深く暗く、すべてを包み込むような闇にこそ惹かれます。阪神大震災の被災者として、東北から温かいご支援を戴いたことには感謝を持ち続けています。東北がたいへんな惨禍に見舞われた映像を見て、胸が潰れるような思いを味わいました。もちろんあり得ないことですが、万が一東北を見捨てるようなことがあったら、日本の未来はないだろうと思います。

これまでの作品では、「新世界より」の世界観は、牧歌的な一面と、全体的な不気味さが、東北や妖怪伝説の遠野などのイメージに重なるところもありますがいかがでしょうか?

『新世界より』では、日本そのものを凝縮した世界を描こうと思いました。特に、明るいユートピアと暗い闇の世界の対比――二重構造がテーマです。その意味では、東北が舞台でもよかったかもしれません。ぴったりな水郷の街があれば、きっと、そうしていただろうと思います。

【まだまだ続く文学熱】

岩手ゆかりの文学では、盛岡市在住の沼田真佑さんと遠野市出身の若竹千佐子さんが相次いで芥川賞を受賞。
そして、デビューから10年になる釜石市出身の柚月裕子さんの作品が「本屋大賞」で2位に選ばれるなど新進の作家たちの活躍が注目されます。

【岩手舞台の作品も多数】

物語の舞台や設定などに岩手が絡んでくる小説には多くの名作があります。
さかのぼれば、井上ひさしさんの「吉里吉里人」。
高橋克彦さんの「炎立つ」。浅田次郎さんの「壬生義士伝」などなど。
そして、最近の直木賞受賞作にも、「盛岡」や「南部藩」、宮沢賢治の「春と修羅」が登場するほか、門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」は宮沢賢治の生涯を父親の視点から描いています。
改めて、文学の中の岩手の魅力、発見してみませんか?

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