ページの本文へ

岩手取材ノート

  1. NHK盛岡
  2. 岩手取材ノート
  3. 防災士になったけど・・・

防災士になったけど・・・

「防災士の組織化」に課題
  • 2024年03月08日

     「名ばかりの防災士じゃ恥ずかしい・・・」。
     取材に対し、ある防災士はこう答えました。
     地域防災のリーダーとして期待されている防災士。ふだんは災害への備えなど、防災力を高めるための活動をし、災害が発生した時は避難誘導や避難所の設営といった実務も期待されています。
     しかし、当の防災士たちからは「活躍する場がない」「スキルアップをどう図ったらいいか分からない」といった声が多く上がっています。事実、私たち市民が防災士に求めることもそう多くはありません。
     国や自治体も後押しするなどして増やしてきた防災士。岩手県内でも東日本大震災のあと、人数はそれ以前の8倍以上に増えました。でもその人数に見合った防災力は本当に得られているのでしょうか。
     こうした疑問が出る中、防災士の中からも市民から本当に頼られる存在になろうという動きが出ています。                     (NHK盛岡放送局 粟田大貴・川原玲奈)

    防災士って?

     防災士は民間の団体が認定する資格です。「日本防災士機構」が認めた養成講座を受け、資格試験に合格し、さらに救急救命講習(心肺蘇生法やAEDを含む)を受ければ認定されます。
     阪神・淡路大震災の教訓などをきっかけに、2002年(平成14年)に創設されました。その後、自治体をはじめ、大学や企業でも養成の取り組みを進めた結果、2024年2月末時点で岩手県内では3719人が、能登半島地震が起きた石川県では9915人が認定されています。岩手県内の人数は、東日本大震災が発生した前の年・2010年3月末と比べると8倍以上です。
     防災士は、ふだんは災害への備えなど対策について理解を広める活動をしますが、災害が起きた時は避難誘導や避難所の設営といった役割も期待されています。
     ただ、こうした活動はボランティアで義務ではありません。なので、資格を取ったらそれっきりという人も少なくはありません。

     防災士の資格を取ったけど・・・

     

    久慈市の防災士 下舘佳光さん

     久慈市の防災士、下舘佳光さんは2年前、町内会から推薦され、市が開いている防災士の養成講座を受講。晴れて防災士になりました。しかし、この2年で防災士としてスキルアップを図ったりほかの防災士と連携する場はなかったといいます。

    下舘佳光さん
    「正直、資格取ったっきりでペーパードライバーのままだなと。普段、災害って起こりうることじゃないのでやっぱり継続してスキルアップしていかなければと思っていました。とはいえ、防災士に限ってのスキルアップの場というのはなかったです。名ばかりの防災士ではちょっと恥ずかしいなって思っていました」

     防災士の全国組織としては「日本防災士会」が、県内の組織としても「岩手県防災士会」があります。こうした組織は任意加入で、加入すると防災士としての知識や技能を向上させることもできます。
     ただ、入会金や会費などがかかるため、加入は一般的ではなく、県内で日本防災士会に入っている人は178人。県防災士会の正会員は82人と全体の数パーセントにとどまっています。
     防災士が増える一方で、資格をとった後の知識などをどうアップデートしていくかが課題となっています。

    動き出した防災士たち

     こうしたなか、久慈市では去年10月に防災士や消防OBでつくる「久慈市防災士連絡協議会」が立ち上がりました。

    「スキルアップ講習会」を開いた「久慈市防災士連絡協議会」のメンバー

     2月3日には、防災士の資格を取得したあとも知識や技能に磨きをかけていこうと、地元の防災士15人が集まって講習会が開かれました。

     下舘さんも参加し、消防のOBなどから、災害時の応急処置などについて実践的に学びました。

    下舘佳光さん
    「目からうろこのような話もばんばん出ましたし、すごく活気があってよかったなと思いました。聞いてプラスになることばかりでしたので、防災士としてもふんどしを締め直した感じです」

     「久慈市防災士連絡協議会」は、今後も人数を増やしながら市民を対象に訓練なども催していく予定です。

     久慈市防災士連絡協議会 笹森正明事務局長

     事務局長を務める笹森正明さんは、初めての講習会の開催に大きな手応えを感じつつ、今後は市などとの連携が課題になると考えています。

    笹森正明事務局長
    「これまで防災士のネットワークができておらず、活躍したくても難しい実態があったわけです。参加した防災士のみなさんに学んだことをそれぞれの地域に持ち帰ってもらうことで、われわれの目的も達成できると考えています。これからは市の防災危機管理課の方、消防署の方々と連携を取りながら、活動をさらに濃くしていきたいなというふうに思っております」

    防災士が防災行政に関わる自治体も

     防災士の数が増えるなか、資格を取ったあとの連携やスキルアップの場がなかなかない。県内でその課題にいち早く対応したのが二戸市です。

    二戸市防災士連絡協議会のメンバー

     2016年に県内で初めて防災士を組織化した「二戸市防災士連絡協議会」が設立されました。2月12日には青森県の大学を訪れ、消防の救助活動のサポートする手順などを学びました。防災士の活動の幅を広げようと、最新の救助技術やノウハウを積極的に取り入れ、年に2回、研修を行ってそれぞれの地域で行う訓練に役立てています。
     二戸市では東日本大震災後の2013年から防災士の養成講座を開き、3年間でのべ150人の防災士を育成しました。しかし、久慈市と同じく、「資格を取ったけれど連携したりスキルアップしたりする場がない」、「何からやればいいのか」という声が防災士たちの中から上がっていました。

    段ボールベッドを組み立てる様子

     そこで、「防災士の意識が薄れると、防災士の活動自体に支障が出る」と、消防OBや市の担当者が中心となり、「二戸市防災士連絡協議会」が立ち上がりました。以来、防災訓練で講話を行ったり、地域防災計画を話し合う会議に出たりと、市の防災行政への関わりも強めてきました。市との連携の深まりによって、現在は市が防災士の研修費用を補助し、職員も参加させています。
     市の担当者は災害発生時は市の職員も被災者になる可能性があり、被害が拡大するなかで住民の避難誘導や避難所の開設を行うため、地域の防災士の力は欠かせないと考えています。

    二戸市防災安全課 横舘英昭課長

    二戸市防災安全課 横舘英昭課長
    「地域の防災士や消防団員のみなさんが技術を磨くことによって、安心して暮らせるまちづくりにつながると考えています。今後も防災士と一緒に研修を重ねることで、スキルを高め、協調しながら被災時、発災時に活動できるようにコミュニケーションを図っていきたい」

     「二戸市防災士連絡協議会」の設立に関わった防災士の荒谷雄幸さんは、大きな災害がないなか、目に見える成果はないものの、この8年間の営みで、防災士も市民も、以前に比べて防災意識は高まっていると話しています。

    二戸市防災士連絡協議会 荒谷雄幸さん

    荒谷雄幸さん
    「防災士だけで単独でいろいろな活動・訓練ができるものではないと思います。そのためのバックボーンというか、市が予算化して活動しやすい体制を整えてもらっている部分についてはとても感謝しています。自分の住んでいる町内会単位でも、避難所の運営などをやってみようと、実際に訓練を展開して公表できる部分まではスキルを身につけていただけたと認識しています」

    防災士が力を発揮するカギは組織作り

     岩手大学の齋藤徳美名誉教授は「1月の能登半島地震でも地域で防災士を活用する体制ができていなかった。災害が起きたときに防災士が具体的にどうすればいいかという議論がなかなか進んでいない」と指摘。防災士にはまだまだ活躍の余地があるとしています。

    岩手大学 齋藤徳美名誉教授

     岩手大学 齋藤徳美名誉教授
    「防災士を養成してきたにもかかわらず、防災士が力を発揮する仕組みができていない」。

     齋藤名誉教授は「防災士は防災行政の手足になって動くようにならなければならない」として、①組織づくり ②能力のスキルアップ ③行政との連携が不可欠だとしています。
     ところがこうした組織がつくられているのは、県内33の市町村のうち、二戸市、久慈市と奥州市、岩泉町、矢巾町の5つの市と町だけでした。(3月10日は宮古市の崎山地区にもできる予定です)
     組織がないと、スキルアップも行政との連携もしにくく、結局ペーパードライバーのような防災士が増えるだけになってしまいます。 

    岩手大学 齋藤徳美名誉教授
    「防災士の組織化を進めたうえで、年に1回でも全員で訓練を行っていくことが重要だ。ただ、全部を一気にやるのではなく、1つずつ、地域の防災の協議のなかで動いていくべき。まず手をつけて、輪を広げていくことが大切だ」。

    取材後記

     取材のきっかけは、去年11月に久慈市で開かれた防災士養成講座でした。「地域の防災の力になりたい」。「仕事で培ったスキルを防災に生かしたい」。今回、取材で出会った防災士たちは1人1人、高い志を持って資格を取得したと語ってくれました。一方で取材からは、防災士が活躍するための環境が十分に整っていない現状が見えてきました。

     東日本大震災以降、県や市町村、それに大学など、多くの場所で防災力を高めようと防災士を養成する動きが続いています。「養成のその先」の課題についても引き続き、取材していきたいと思います。

      • 粟田大貴

        NHK盛岡放送局

        粟田大貴

        2021年入局
        警察・司法担当
        兵庫県出身。
        震災発生時は中学2年生

      • 川原玲奈

        NHK盛岡放送局 記者

        川原玲奈

        2023年入局
        岩手県金ケ崎町出身
        警察・スポーツ担当
        剣道四段

      ページトップに戻る