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震災知らない子どもたち 避難看板に込めた思い

  • 2024年03月11日

    東日本大震災で最大18メートルの津波が押し寄せた、岩手県大船渡市三陸町の吉浜地区。
    ことし2月、避難場所へと誘導する新たな手作りの看板が設置されました。
    制作したのは、震災後に生まれた地元の小学5・6年生の児童。
    看板には、震災だけでなく、明治・昭和の大津波や、ことし発生した能登半島地震からの学びが込められていました。
    (盛岡放送局 記者 橋野朝奈)
     

    “奇跡の集落”吉浜地区とは

    吉浜地区は、大船渡市三陸町の海沿いに位置していますが、住宅地は海から少し離れた高台にあります。これは、明治三陸津波と昭和三陸津波で吉浜地区が甚大な被害を受け、当時の村長が住宅の高台移転を進めたことが背景とされています。先人からの「海沿いに家を建ててはいけない」という教えが代々守られ、2011年の東日本大震災では最大18メートルの津波が押し寄せるも多くの住宅が被害を免れたことから、「奇跡の集落」とも言われています。 

    “吉浜 奇跡の集落”と刻まれた石碑

    子どもたちの防災意識が看板づくりに

    その吉浜地区にある大船渡市立吉浜小学校では、下校時に津波発生を想定した訓練を毎年行うなど、防災への取り組みに力を入れています。
    去年9月には、5・6年生の児童が東京から訪れた大学生と一緒に、津波発生時の避難経路の点検活動も行いました。

    点検を通して子どもたちは、「経路が分かりにくい」「坂道で足元が危険」といった問題点に気づき、経路の方向や危険性を伝える看板の設置を自分たちで提案しました。
    「1人でも多くの人に、安全に逃げてほしい」という思いからでした。
    一人ひとりが看板のデザイン案を考え、そのうち4つの案が採用されました。

    木の板への下書きを終え、色塗り作業の日。
    グループに分かれてそれぞれが筆を持ち、絵の具で色塗りを進める中、あるグループで子どもたちの描く手が止まった時間がありました。

    聞こえてきたのは、「何か明るいんだよな…」という男の子のつぶやき。
    このグループの看板は、大きく描かれた津波が印象的なデザインで、その津波を何色で描くのか、悩んでいたのです。海の波のイメージと言えば、青色や水色を思い浮かべる人が多いかもしれません。
    子どもたち同士で意見を出し合い、青色に黒色や茶色を足して、深い藍色で津波を塗り始めました。

    看板づくりに取り組む子どもたちは、全員、東日本大震災が発生した2011年3月11日以降に生まれています。
    どのように津波の色を決めたのか、彼らに聞いてみると、こうした答えが返ってきました。

    「建物とかも流されているから、普段の海よりも少し茶色が混ざっているのかな」
    「津波の学習やいろんな動画を通して、こういう色かなって思った」
    「能登半島地震の映像をテレビで見て、こんな感じかなって」

    東日本大震災では黒い色の津波が防潮堤などを乗り越えて街に流れ込んでいく様子などが見られました。また能登半島地震の津波の映像も、いつもの海のイメージの色ではありませんでした。
    震災を直接経験していなくても、学校の授業などで、津波や地震について学んできた子どもたち。
    さらには、岩手県から遠く離れた石川県の被災地のことも思いながら、津波の色を考えていました。
    看板に込められた、子どもたちの防災への強い思いを感じました。
     

    看板設置 地域の思いは

    2月下旬、いよいよ看板設置の日。
    地区の避難場所へと続く道の脇に、それぞれの看板を設置しました。

    完成した看板と記念撮影

    子どもたちに、自分たちが作った看板をみて、感想を聞きました。

    「色もたくさんあるので、分かりやすいかなと思います」
    「この看板を見て、1人でも多くの人が逃げられればいいな」
    「地震が起きたらすぐに避難できるように、みんなも自分も気を付けていきたい」
     

    子どもたちのそばで、完成した看板を嬉しそうに見つめる男性がいました。
    吉浜地区に暮らす、菊地正人さんです。
    地元を守った先人の教えを若い世代に伝えようと、高台移転の歴史などの伝承活動に力を入れています。
    今回の看板づくりにあたっては、学校から依頼を受けて、看板の材料の手配や設置場所の調整など、全面的に協力していました。

    菊地正人さん

    「学校から話を聞いて、素晴らしい取り組みだと思いました。
     とても分かりやすい看板ができてよかった。
     震災を知らない子どもたちも、吉浜を守ってきた先人の思いを受け継いでいる。
     みんなで、地域ぐるみで、災害に遭わないようにしていくことが一番大事なんだね」

    明治や昭和の先人から、令和の今、小学校で学ぶ子どもたちへ。
    震災を直接は知らない世代にも、地域で長年培われた防災への意識は、脈々と受け継がれています。

      • 橋野朝奈

        NHK盛岡放送局 記者

        橋野朝奈

        2019年入局
        大阪局を経て2022年8月から現所属

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