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鉄のまちの消防団に訪れた危機

  • 2024年03月07日

 住民に最も身近な防災機関・消防団。東日本大震災でも1月の能登半島地震でも避難誘導や住民の救助に活躍しました。
 しかし団員の数が年々、減っています。県内では特に東日本大震災を経験した沿岸部での減少が顕著で、釜石市では震災前に比べて30%あまり減りました。この結果、火災の消火活動に出動できないケースも出ています。
 各地域にくまなく配置されてきた消防団。少子高齢化の中、このままの配置が続けられるのか取材しました。                                           
(盛岡放送局記者 川原玲奈・粟田大貴)


鉄のまちの消防団は…

 人口およそ3万人。面積は横浜市より広い440平方キロメートルの釜石市。かつては製鉄工場を中心とした“鉄のまち”として栄え、60年前には10万人近くが暮らしていました。
 このまちの安全を守る釜石市消防団は、団員数が532人(2024年1月末)。人口が10万人いた当時に編成された8つの分団を今も維持しています。ただ団員は減り続けています。東日本大震災が起きる前、2010年の団員数は795人。13年あまりの間に3分の1の団員がいなくなったかたちです。このため市は消防団の定員を2023年4月に600人に引き下げましたが、この定員も満たしていません。
 定員に対する団員数の割合=充足率が8つの分団の中で最も低いのが、甲子地区を管轄する第5分団です。団員数は46人。定員は85人ですので充足率は58%となります。管轄区域を6つに分けて第1部から第6部までの6つの部を設けていますが、第3部は5人、第6部は1人しかおらず、動かすのに3人が必要とされるポンプ車も動かせない状況です。新しい団員が入ってこないため高齢化も進み、最年長は82歳。平均年齢は51歳に達しています。

釜石市内で火災!そのとき消防団員は

 

1月22日釜石市内での火災

 この第5分団にことし1月22日、消防本部から出動要請が来ました。管轄区域に隣接する区域で住宅から出火。その区域を管轄する分団とともに第5分団にも出動してほしいというのです。
 ところが時刻は午前9時前。分団員の多くが会社勤めで、連絡を回しても職場を離れられないという団員ばかりでした。結局、3人以上の団員を集められず、ポンプ車を出せないために出動を諦めざるをえませんでした。
 消防団は消防署の消防士とは異なり、出動は義務ではありません。また釜石では直接の消火活動も消防署の消防士が行います。だから第5分団が出動できなくても消火活動は行われました。
 ただ、消防団が出動できないと、場合によっては初動が大きく遅れかねません。また、遠くからホースをいくつもつないで現場まで水を送らなければならないときは、消防団がホースとポンプ車を何台もつないで消火活動をバックアップしています。
 この火事では消防士の到着が早く、すぐ近くに川も流れていたため、消火活動への影響はなく、けがをした人などもいませんでした。ただ、消防団の存在意義が問われかねないケースとなりました。

第5分団 小久保謙治 分団長

第5分団 小久保謙治分団長

「以前であれば自営業とか専業農家の団員が多かったのですが、そうした団員が勇退して、今では会社員の団員がほとんどになってしまった」

団員のリクルートは?

新興住宅地となった松倉地区

 第5分団が担当する甲子地区は、海からもっとも近いところで直線距離で4キロあまり。県などが想定する津波の浸水域からは外れていて、中心市街地からもそう遠くはありません。このため、東日本大震災で被害にあった人たちが移り住み、若い世帯も多く暮らしています。決して過疎地域ではありません。ただ分団長の小久保さんは、こうした新興住宅地は古くからの集落に比べ、消防団の活動に消極的で新しい団員の確保が難しいと話します。 

小久保謙治 分団長

第5分団 小久保謙治分団長

「以前は近所の人と会うと話やあいさつをしていたのですが、新しい住宅が多くなってからは、あいさつもしない関係になってしまいました。地域の人に消防団についてのイメージが薄いのかなというふうに考えております。
 今後は地域に溶け込むということがすごく大事なことになりますので、まずは町内会の一員として、消防団があるということを認識していただいて、住民の方々との関わりを作るというところから活動を進めたいと考えております」

 さらに、釜石市消防団では東日本大震災の津波で、水門の管理業務などをしていた消防団員8人が逃げ遅れるなどして亡くなりました。小久保さんは、こうしたことが市民に「消防団は危険だ」という認識を与えてしまった側面もあると話します。 

第5分団 小久保謙治分団長

「現実に犠牲になられた消防団員もいますので、そういうことから消防団は危険、怖いという  イメージを持たれているところもあるのが正直なところです。そのためにもより団員の安全、確保という目的で訓練をしていく、危険な態勢にはさせないというところも分団長として危機感を持っております」

団員不足に地域消防は…

 消防団員の減少に歯止めがかからない中、消防団を管轄する釜石消防署は、人口10万人当時のままの消防団の編成を見直し、今後は段階的に縮小していく方針を決めました。8つの分団は維持しますが、その下の部については、2023年3月時点で37ありましたが、まず0人になっていた第7分団の4部を廃止。さらに1人だけになった第5分団の第6部も2024年3月で廃止するとしています。

去年消防団に行ったアンケート調査(一部)

 この方針を決定づけたのが去年、団員を対象に行ったアンケート調査です。
 管轄内に団員候補となる若者がいると答えた団員は23%にとどまり、分団や部を実情に合わせた形に再編する必要があると答えた団員が64%に上る内容でした。
 釜石消防署の駒林博之署長は、人口が減っているのに以前のままの編成を維持していくのはもう難しいと話しています。

釜石消防署 駒林博之署長

釜石消防署 駒林博之署長

「釜石市では毎年、地域会議をやっています。会議でも住民に説明し、消防団とも話し合い十分納得してもらってから計画を進めています。また例えば訓練のあり方も、サラリーマンの消防団員が増えていますので、団員が無理なく訓練できるようなやり方に変えていかなければならないと思っています。時間と労力がかかりすぎる訓練じゃなくて効率化した訓練、実態にあったやり方に変えていかなければならないっていうのも考えています」

岩手県内各地の消防団は…

 岩手県内各地の消防団の数を調べると釜石市だけでなく、すべての自治体で定員を下回っていました。ただ、消防団の定員は実情に合わせて都度都度、引き下げられていますので、震災前の2010年の人数と比べてみました。
 すると減少した割合が高いのは、いずれも沿岸部の自治体でした。

 自治体    減少率    2010年   2023年4月
①大船渡市  35.53% (1016人 → 655人)
②釜石市   33.58% ( 795人 → 528人)
③陸前高田市 32.07% ( 770人 → 523人)
④大槌町   31.01% ( 216人 → 149人)
⑤住田町   27.36% ( 413人 → 300人)

将来は専門分野に特化した消防団も

 こうした状況について、消防行政が専門の関西大学の永田尚三教授は、団員数の減少や高齢化は全国的な課題になっているとしたうえで、少子高齢化の中、ある程度、受け入れざるをえないと指摘しています。
 そして今後の消防団のあり方について、団員の減少を見越した2つの方策を示しています。
 1点目は消防本部自体の統廃合です。小規模な消防本部ほど初動などで消防団に依存している割合が高いとして、本部についても統廃合を進めて消防士、消防署員の人数を増やし、体制を強化する必要があるとしています。
 そして2点目、消防団については量よりも質を高めるべきだとしています。例えば特定の機能に特化した分団をつくるなど、各地区にくまなく配置してきた編成方針。それに消防団の役割自体も考え直す必要があると指摘しています。

関西大学 永田尚三教授 オンラインインタ

関西大学 永田尚三教授

「消防団にはいろいろな職業の方が入っている。例えば建築会社の方々は重機を操縦できる免許を持っているし、医療関係者というのは医療対応をすることができる専門能力を持ってている。        そういう能力をうまく活用できるような、いわゆる消防団の体制整備、これを進めていくことがすごく重要なのではないかと思う」

 社会構造も働き方も大きく変わっていく中、解決に向けては消防団だけでなく、消防組織や制度全般も含めた議論が必要となりそうです。

取材後記

 取材を申し込んだ日の話。小久保さんは震災当時の話をしてくれました。消防団として人命救助をしたあの日。長く消防団として活動してきましたが救助は初めての経験だったそうで、ほかの団員たちと何ができるのか、何をすべきか話し合ったといいます。
 「私たちが動けば助かる命があるかもしれない。誰かがやらなければ」
 これが同僚たちみんなの答えだったそうです。
 震災から13年。今も変わらない気持ちで地域を守る釜石市消防団。
 訓練を終え、私は第5分団第1部の皆さんにこの分団をどう思っているか尋ねました。すると、皆さんが口をそろえて言いました。
「このメンバーが自慢だよ」

取材に伺った第5分団第1部の皆さん
  • 川原玲奈

    NHK盛岡放送局 記者

    川原玲奈

    2023年入局
    岩手県金ケ崎町出身
    警察・スポーツ担当
    剣道四段

  • 粟田大貴

    NHK盛岡放送局

    粟田大貴

    2021年入局
    警察・司法担当
    兵庫県出身。
    震災発生時は中学2年生

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