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“魚種の交代”に立ち向かう~秋サケ復活への模索

東日本大震災13年
  • 2024年03月08日

宮古市の鮮魚店に並ぶ魚。毛ガニ、子持ちナメタガレイ、カキ、キチジにマダラ。朝、魚市場に水揚げされたばかりのものです。三陸の豊かな恵みを感じます。 

一方で、店の人は変化も感じると言います。

鮮魚店
岩船良子さん

南の魚が当たり前のように捕れだして。
アナゴも真冬には捕れなかったのが、
捕れるようになってきました。

震災後の不漁“魚種の交代”が進む

岩手県の13市場の水揚げ量の推移です。震災があった2011年に大きく落ち込み、いったん回復傾向にあったものの、ここ数年は震災の年をも下回る深刻な不漁になっています。

宮古市魚市場の水揚げ量の内訳です。
特にサンマや秋サケが激減。一方でサバやイワシが増えています。
海水温の上昇に伴い、比較的低い水温を好む魚が減り、暖かい水温を好む魚が増える「魚種の交代」が進んでいるのです。
近年増えているサバは地元ではあまり利用されず、ほとんどが缶詰の材料として海外に輸出されているということです。

秋サケ復活へ 稚魚ふ化事業の現場は

年末年始の贈答用などで親しまれてきた新巻ざけ

震災前、秋サケは岩手県全体の水揚げ金額の3分の1を占めていました。イクラや新巻ざけなどに加工され、「南部さけ」として県民にも愛されてきた魚です。その秋サケの不漁は地元経済に深刻な影響を与えています。

震災、台風 繰り返し全壊する被害を受けたふ化場も

三陸沿岸北部、野田村にある下安家漁協には県内最大規模のサケのふ化場があります。
秋から冬にかけ川に帰ってきたサケから卵を採り、稚魚を育て翌年の春に放流します。
そして稚魚は北の海で育ち、3~4年たつと親サケになって戻ってきます。
ところが、このふ化場では2011年の東日本大震災、さらに5年後の台風10号と相次いで施設が全壊する被害を受けました。
沿岸各地のほかのふ化場でも繰り返し被害を受けたところがあり、そのたびに県全体で放流数が減少。サケ不漁の一因にもなったとされます。

2023年12月 下安家漁協のふ化場で

この日、捕獲できたサケは37匹。
災害のたびに施設を復旧させ乗り越えてきましたが、いま肝心のサケが戻ってこなくなりました。
それでもなんとかサケを増やそうと取り組んでいます。
できるだけ早い時期に採卵して飼育期間を長くとり、丈夫で大きな稚魚を育てます。一方でサケは高い水温が苦手なため、春の海水温や海流の状況を見極めながら放流のタイミングを決めます。
また、サケを増やす研究に役立てるために、うろこなどを採取しサケの年齢や回帰率を調べるもとになるデータを集めます。

下安家漁協
島川良英組合長

できることはやってきましたが、
帰ってくる魚を少しでも多くするという
目標を持ってやっていくしかないと思っています

“大きく強じんな稚魚” カギは「運動」と「食事」

2024年1月  岩手県水産技術センターでふ化した稚魚

現場と連携しながらサケの研究をしている岩手県水産技術センター。
サケが帰ってこない原因のひとつとして、放流された稚魚が高い水温とそれに伴うエサ不足から多くが死んでしまっているのではないかとみています。

2024年2月  飼育池に作られた水流のなかを泳ぐ稚魚

センターでは、この厳しい環境を乗り越えられる稚魚の開発を研究しています。
飼育池に人工的に水流を作り稚魚を泳がせ「泳力」を鍛えます。
また内臓脂肪が多い稚魚ほど「持久力」があると考え魚油などを加えたエサを与えています。運動と食事を組み合わせ、“大きく強じん”な稚魚を目指します。 

              通称「スタミナトンネル」 (試験用に飼育された1歳魚で撮影)

写真は「スタミナトンネル」と呼ばれる装置です。
パイプの中の水流の速さを調整し、稚魚がどのくらいの流れまで耐えられるか調べます。ここで秒速50cmチ以上の流れに耐えられる稚魚は、数日間、何も食べなくても同じ流れに耐える泳力を保っているものがいることが確認できたということです。エサが少なくても北からの海流に逆らい北上できるのではと期待されます。 

(岩手県水産技術センター 小川元 漁業資源部長)
なんとかサケを増やしてほしいという漁業者や水産加工業者の思いに応えたい。
(サケの減少は)不可逆的な現象の可能性もありますが、技術を途絶えさせればサケが戻ってきたときに復活できなくなります。努力を続けていきたい。

震災や台風被害を乗り越えてきた三陸沿岸の人々を苦しめている「魚種の交代」。地域の経済にとって新たな災害ともいえる深刻な問題に立ち向かっています。
(取材:盛岡放送局 和泉英己)

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