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ラグビー人口増やしたい!現役プロ選手の挑戦

  • 2023年11月17日

ラグビー教室 参加者は全員未経験!?

盛岡市でのラグビー教室

10月、盛岡市の小学校で開かれたラグビー教室。参加した放課後に児童センターを利用する
小学生15人は全員、ラグビーの経験はありません。
教室を企画したのは、ラグビーリーグワンディビジョン2の「日本製鉄釜石シーウェイブス」に所属する、中村良真選手です。ことし7月から、チーム練習の合間などに青森や岩手の各地を訪れ、未経験者を含む子どもたちにラグビーを教え始めました。

中村良真 選手

指導料は交通費も求めず、無料で行っています。きっかけは、将来のラグビー界への強い危機感でした。

“ラグビー県いわて”の危機

かつて「北の鉄人」とたたえられた新日鉄釜石。4年前、2019年のラグビーワールドカップ日本大会では試合も開催され、ラグビーにゆかりが深く、「ラグビー県いわて」をうたっていますが、競技人口の減少という危機に瀕しています。

4年前、ラグビーワールドカップの試合が行われ街じゅうが熱気に包まれた釜石でも・・・
ワールドカップの開催が決まってから機運が高まり、地元のラグビースクールに入る子どもが増加。
小学生を中心とした地元のスクールには、ワールドカップ翌年、過去最多の71人が在籍していました。

釜石のラグビースクール

釜石シーウェイブスジュニア 大畑勇 校長
「ワールドカップの日本開催が決まってからは、街じゅうがラグビー一色になっていった。子どもたちや保護者も自然と興味を持つようになったのだと思う」

釜石シーウェイブスジュニア 大畑勇 校長

しかしあれから4年。今は半数以下の33人にまで減ってしまいました。

釜石シーウェイブスジュニア 大畑勇 校長
「まだラグビー熱が冷めやらぬ中、コロナ禍に入った。活動を自粛せざるを得なかったことに加え、野球など違うスポーツがやりたいという子も出てきた。最初の入り口となる小学生以下の子どもたちに興味を持ってもらうことが一番大事だと思う。そこから中学、高校とつながっていくので」

ラグビー人口は、県内全体でも減少しています。この20年間で1000人近く減りました。

立ち上がった現役ラガーマン

中村選手は、こうした状況に歯止めをかけようと立ち上がりました。
青森県八戸市出身で、高校からラグビーを始めた中村選手。6年前、東京の大学を卒業後に釜石シーウェイブスに入団しました。プロに転向し、チームの司令塔・スタンドオフとして活躍しています。

中村良真 選手

中村良真 選手
「東北のラグビーの競技人口が深刻な状況になっていることを、岩手にいながら肌で感じていた。関係者から直接耳にしたり、高校生の大会でほとんどの学校が合同チームを組まないと出場できない状況を目にしたり。東北の小さなラグビー部からスタートして、東北に戻ってきた身として、何か自分がラグビーで地域に還元できることはないかと」

そこで企画したのが「訪問型ラグビー教室」です。

「訪問型」にこだわったのは、みずから小学校などに足を運び関心のない子どもにもラグビーに触れてもらうという狙いがあります。希望者を募り会場に集める「開催型」では、もともと関心があったり
既にプレーしている子どもしか集まらないと考えたのです。

スタートから4か月で岩手やふるさと青森で開いた教室は、およそ10回。
現役のプロ選手である今だからこそ、子どもたちに伝えられることもあると考えています。

中村良真 選手
「東北地方はリーグワンに所属しているのが釜石SWだけで、プロのラグビーチームを目にする機会が圧倒的に少ない。僕自身がラグビーのプロ選手の立ち振る舞いにすごく感銘を受けたことがラグビーにのめり込んだきっかけということもあり、現役のうちに教えることで、子どもたちへの影響力というのも大きくなるのではないかと」

教室の極意「全力で楽しんで」

中村選手が大切にしているのは、まずは楽しんでもらうということ。教室を始める前には、子どもたちにもそのことを伝えます。
「ひとつだけ僕からお願いがあります。ラグビーを全力で楽しんでください。難しいとか、できないとかは関係ない」(中村良真 選手)

教室の内容も、簡単なパスまわしやタックルの代わりに腰に巻いたタグを取り合うゲームなど、遊び感覚でラグビーに親しみをもてるよう工夫されています。

中村良真 選手
「ラグビーは怖い・痛い・危険というイメージがつきまとい、なかなか入りにくい。でも実はそうではないのだということを、伝えていきたい」

ラグビー選手にならなければ教員を目指したという中村選手。大学で保健体育の教員免許を取得していて、初心者に分かりやすい説明も心がけています。

参加した児童たち
「タグをとったり相手にボールを渡したりするのが楽しかった」
「中村選手、すごかった!」
「本当のラグビーをやってみたい」

仁王児童センター 坂下明洋 所長
「児童センターの目的というのが、子どもたちに多様な遊びや運動を経験させたいというところがあったので、今回お願いした。経験者じゃない、全く初めての子どもたちが楽しいと感じてもらえたら、そこから広がっていくんじゃないか」

東北の子どもたちにラグビーを

中村選手の目標は、岩手県内の全市町村を巡ること。今は小学生が中心ですが、今後は中学生など幅広い年齢層を対象に行い、ラグビーの競技人口の増加につなげていきたいといいます。

中村良真 選手
「ラグビーはすごく多様性のあるスポーツで、足が速いとか遅いとか、体が大きいとか小さいとか関係なく、仲間意識を持って取り組めるところが魅力だと思う。1人でも多くの子どもにラグビーを届けたい」

取材後記

取材した記者も、実はラグビーボールに触れたことすらなかった未経験者。釜石のラグビースクールで恐る恐る小学生に混じって「タグラグビー」を体験させてもらったのですが・・・これが楽しい!!中村さんが教室で大切にしている「楽しい」を入り口に、ラグビーにのめり込む子どもたちが増えていくのを期待したいです。(釜石支局 梅澤美紀)

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