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学校のトイレ いまも“和式” いったいなぜ? 岩手 盛岡

  • 2023年08月31日

「和式トイレが盛岡市内の小中学校に多く残っているらしい」
「入学前までには和式トイレの練習をする必要がある」
その話を聞いたのは8月盛岡に引っ越してきたばかりの記者。
和式トイレが多いのは本当?
なぜ学校に多く和式トイレが残っているの?
(盛岡放送局 記者 吉川裕基)

「和式トイレの練習が必要です」

あれは、盛岡に引っ越してきてすぐのことでした。
子どもの保育園選びのため盛岡市内のある施設を訪れました。

イラスト:クリストファー・アイゼンフィールドさん(盛岡市在住)

そこで担当者が見せてくれたのは、施設内にある子ども用トイレでした。

イラスト:クリストファー・アイゼンフィールドさん(盛岡市在住)

なぜ、担当者は子ども用のトイレを、あえて見せてくれたのでしょうか。

イラスト:クリストファー・アイゼンフィールドさん(盛岡市在住)

担当者「うちは全部洋式トイレなんです。小学校では和式が多いので、和式トイレの練習が必要なんですが…」

イラスト:クリストファー・アイゼンフィールドさん(盛岡市在住)

「和式トイレの練習が必要」。
いったいどういうことなのか、疑問に思い調べてみました。

イラスト:クリストファー・アイゼンフィールドさん(盛岡市在住)

平成の初めに生まれた私。和式トイレにお世話になった記憶は、ほとんどありません。自分でポーズを試しましたが、簡単ではありませんでした。

約4割が和式トイレ

これまで取材では何度も学校を訪問していたものの、トイレを使ったことはありませんでした。
今回の取材は教室や職員室ではなくトイレが目的。
子どもたちがいない夏休み期間に、教育委員会の案内でとある中学校を訪ねました。

さっそく、トイレの中を確認しました。

なんとも懐かしい感じがする便器がずらり。

この男子便所は4つの便器すべてが和式でした。
実はこの中学校では、夏休みを利用してトイレの工事が行われていました。

工事が終わったトイレは「洋式」に様変わりしていました。
ピカピカでしかも温水洗浄機能付きです。

盛岡市教育委員会によりますと、2023年7月時点で、盛岡市内の小中学校63校にあるすべての便器のうち、およそ4割はいまも和式だということです。
洋式トイレの工事が終わった小学校は4分の1ほど。中学校では1割程度です。

最近はあまり見かけることがなくなった和式トイレ。
いまの子どもたちはどう受け止めているのか、教育委員会の担当者に聞きました。

盛岡市教育委員会総務課 齊藤敏孝 課長補佐
「学校でトイレを初めてみてびっくりする子どもが多い。給食時にトイレのにおいがどうしても臭くて喫食に影響がある。トイレが洋式ではないので我慢する子どもがいると聞いている。和式トイレを使えるために公共施設で和式トイレを使えるところで試しにやってみるということは伺ったことがある。児童生徒が快適な学習環境の整備ということで洋式化は進めていかなければならない」

では、学校に和式トイレが残っているのはなぜか。
盛岡市教育委員会が理由として上げたのは建物自体の老朽化です。
半数以上の学校が建設から30年以上が経過。
老朽化した校舎の耐震工事に加え、暑さ対策などで空調設備の整備が優先された結果、トイレの改修は後回しになっているといいます。

“排便したい時にできないのは非常に悪影響”

取材を進めると、子どもの健康への影響を懸念する声もありました。
訪れたのは子どもの便秘外来を開設している盛岡市のクリニックです。
米沢俊一院長は、和式だからといってトイレを我慢しすぎると症状の悪化につながると指摘します。

子どもは未来もりおかこどもクリニック 米沢俊一院長
「学校のトイレでうんちできるかって聞くと嫌だという子どもが多い。便意があってそのときに排便しないと便はどんどん硬くなっていく。1回の便を我慢すると2回分の便がたまってしまう便が太くなる。排便したい時に排便できないのは非常に悪影響」

和式の便器のまわりからは多くの大腸菌が検出され、子どもたちの靴によって運ばれ、廊下や教室で床に手を付いたり座ったりすると感染症のリスクも高まるという民間企業の調査結果もあります。

さらに米沢院長は便秘だけでなく、子どものストレスにつながると考えられるため、トイレの改修を急いで欲しいと訴えます。

「(子どもの)精神衛生上、非常に問題がある。学校のトイレというのは明るくゆったりと安心してできるというようなトイレが子どもたちに非常に大事じゃないか」

自治体によって大きな差 理由は?

岩手県内の全33市町村の小中学校の、令和2年度の和式トイレの割合です。

【岩手県内の小中学校 和式トイレの割合(令和2年度)】
普代村  80.4%
九戸村  71.4 %
野田村  69.0 %
一戸町     62.4%
盛岡市  61.5%
紫波町  59.4%
岩手町  56.1%
奥州市  53.6%
遠野市  52.5%
久慈市  51.3%
宮古市  50.6%
田野畑村 48.9%
八幡平市 48.6%
大船渡市 47.4%
葛巻町  47.0%
西和賀町 45.9%
住田町  45.9%
洋野町  45.3%
北上市  41.0%
釜石市  40.4%
平泉町  39.6%
山田町  39.5%
大槌町  35.8%
一関市  32.3%
雫石町  32.1%
滝沢市  31.6%
二戸市  30.6%
矢巾町  29.0%
金ケ崎町  26.2%
陸前高田市 25.1%
軽米町   25.0%
岩泉町   22.8%
花巻市  10.7%

和式トイレの割合が、最も多かったのは普代村で80.4%。
これに対し、10.7%と最も低かった花巻市の教育委員会にその理由を聞きました。

花巻市教育委員会 教育企画課 白畑 浩一 課長補佐
「家庭のトイレ洋式化に伴い、和式トイレの使用経験のない子どもへの対応や特別支援学級に通う子どもへの配慮から、平成23年度から3年かけて、市内全小・中学校のトイレの洋式化を行った」

活発に議論を

文部科学省の元審議官で教育行政に詳しい京都芸術大学の寺脇研客員教授に学校のトイレの整備が遅くなっている原因について聞きました。

京都芸術大学 寺脇研客員教授
「教育の予算は子どもの学びと直接関係があるものが優先されるためトイレは後回しになっている。学校は避難所にもなり地域の顔。どんな場所にすべきか、活発に議論する必要がある」

  • 吉川 裕基

    NHK盛岡放送局 記者

    吉川 裕基

    2023年8月より盛岡放送局
    兵庫県出身 2度目の盛岡局勤務です。
    教育分野の取材に力を入れています。
    デジタルツールを活用した取材にも挑戦中

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