変わる部活動 学校から地域へ
- 2023年07月20日

中学校の部活動の現場が大きく変わり始めています。
岩手県内でも進んでいる「部活動の地域移行」は、子どもたちや学校の教員だけでなく、地域の指導者や保護者も関わっていく、大きな改革といえます。
どういった取り組みで、どんな効果が生まれているのか。取材する中で、複数の課題も見えてきました。
(盛岡放送局 記者 橋野朝奈)
部活動の地域移行とは
そもそも「部活動の地域移行」とは何なのでしょうか。
国は「地域の多様な主体が運営・実施する地域クラブ活動によって、部活動を代替するもの」としています。少子化の中でも、将来にわたって子どもたちがスポーツに継続して親しむことができる機会を確保するとともに、学校の働き方改革を推進し、学校教育の質も向上させることが狙いです。
国は2023年度から、中学校の休日の部活動を中心に、段階的に地域移行を進めるよう方針を示しています。
岩手県内では、すでに葛巻町や岩手町、それに大船渡市などで地域移行が始まっていて、2023年度からは盛岡市、宮古市、大船渡市、西和賀町、九戸村が国の実証事業として取り組む事が決まっています。
少子化でもスポーツの選択肢を

大船渡市では、地域移行の一環として、「陸上教室」が開かれています。
大船渡市では、少子化の影響などで部活動の数が減少。市内にある4つ中学校には、いずれも陸上部がありません。教室は2022年7月にスタート。毎週日曜日におよそ20人の中学生が市内各地から集まります。指導するのは市の陸上競技協会に所属する元選手です。
教室に通う中学生
「小学生のときは、地域クラブで陸上をしていましたが、中学校に陸上部がないと知りサッカー部に入りました。それでも陸上がしたかったので、教室ができてからは部活をやめて、こちらに移りました。何でも細かく教えてくれる専門のコーチがいるので、自分のえられるものがとても大きいです」
教員の働き方改革
「部活動の地域移行」のもうひとつの狙いは、学校の教員の働き方改革です。
その効果が実際に出始めている現場もあります。
葛巻町では一部の部活動で、指導をスポーツ協会に委託しています。
町内の小屋瀬中学校の特設柔道部では、顧問の教員は指導にかかわらず、大会のエントリーなど裏方の作業を担当しています。
顧問の松浦武彦教諭は、部活動に割いていた時間を授業の準備などに有効に使えると、好意的に受け止めています。

小屋瀬中学校 特設柔道部顧問 松浦武彦教諭
「働き方としては助かっています。本来の業務の中心はやはり授業だと思うので、そういった部分に自分のエネルギーをよりかけられるというのは、あるべき姿なのかなと思います。
これまで勤務してきた学校では、土日はほぼ部活動や練習試合で、土日に休むというのがこれまでのキャリアの中でありませんでした。休みがあれば気持ちの面でもリセットできて、次の週から切り替えてまた働けるので、業務の効率化にもつながると思います」
町の教育委員会によりますと、部活動の地域移行で、教員の勤務時間の短縮といった効果も出ているということです。
負担の行く先は
葛巻町の特設柔道部の指導にあたるのは、地元のスポーツ少年団の中村花愛さんです。
中村さんは、3人の子どもを育てる母親で、日中フルタイムで仕事をした後に練習場に向かいます。
やりがいを感じる一方で、部活動の地域移行には課題も感じていると話します。

葛巻町特設柔道部 指導者 中村花愛さん
「子どもたち1人ひとりと関わる中で、悔しいこととか、結果がでたときにうれしいとか、そういうことを共有できることに今いちばんやりがいを感じてます。ただ、自分の子どもとの時間を置いてほかの子たちと向き合ってるので、そこは母親としてどうなのかなっていう部分はあります。部活動の地域移行は、先生たちにとっては残業時間もなくなって、とてもいいと思います。でも、やっぱり率直なところを言うと、ただその負担が先生から横に移動しただけだなというのは思います」
地域が主体の部活動では、指導者だけでなく、保護者の協力も欠かせなくなっています。
大船渡市の東朋中学校の野球部では、できることとやるべきことを学校の教員や保護者、指導者のそれぞれの立場で考えて、作業を分け合っています。
指導は地元のスポーツ少年団のコーチが、練習日の調整などの事務作業は保護者が中心となって行っています。

野球部の保護者からなる「育成会」の事務局長の金野貴浩さんは、日中に仕事をしながら、空いた時間でコーチや顧問の教員と連絡を取り合って、練習や練習試合の日程を決めています。

保護者 金野貴浩さん
「負担は多いですね。いろいろやらなきゃいけないことがあって、悩むことが多いです。
大変ですけども、先生たちも大変ですから、仕方ないのかなと。
子どもが自分の好きな競技で頑張ることができる環境を作るために、親も頑張らないといけないなとも思っています」
顧問の教員は、指導や事務作業のサポートにあたっています。

東朋中学校 野球部顧問 佐藤美菜子教諭
「保護者の方に負担を強いている部分もありますが、だからと言って自分ができるかと言われたらちょっと難しい部分もあります。どうしたらベストなのかが、なかなか分からないですし、負担をどう分け合っていいのかも分からないので。
まだしばらくは、お互い持ちつ持たれつでやっていくしかないのかなと思っています」
専門家「指導者確保と意識改革が課題」
岩手県の部活動の地域移行に関わる、岩手大学の浅沼道成教授は、地域移行をめぐる課題として「指導者の確保」と「1人ひとりの意識改革」を指摘しています。

岩手大学 浅沼道成教授
「指導者がそれぞれの地域にいるかというと、実はいない。それぞれ仕事を持っていたり、あるいは住んでいるエリアが都市部に集中していたり。その方が県内全体の地域に行けるかというと難しいです」
十分な指導者を確保するためには、指導者自身や周囲の意識を改めることと、予算的な行政などのバップアップが重要だと指摘します。
岩手大学 浅沼道成教授
「自分が指導者として、どういう役割を担うべきかというところの意識が変わってくると、恐らく少しずつ状況が変わると思います。“全国大会に出た時に指導者だった”というところに喜びを感じるだけではなく、“地域をスポーツで活性化していく、少しでも元気にしていく”というところに自分の役割があれば、やりがいを見いだして関わりやすくなると思います。そして指導者に対する評価を周囲が多様に見るようになれば、変わってくると思います。指導者への謝金についても、最終的には受益者負担というのは起こりますが、それに加えてどれだけ行政的・政策的なところから予算化ができるかというのも明確に示していく必要があります」
そして、地域の1人ひとりが意識を変えていく必要があるといいます。
岩手大学 浅沼道成教授
「今後この活動をどのように地域で支えていくかを考えなければいけない。もっと少子化が進み人口も減るので、“部活動の課題をどうやって地域で補ってあげましょうか”ではなく、一緒に考える。そういった意味で、今までと発想を変えないといけません。どのように自分たちのものにして進めていくかということを、われわれの意識の中に持っていき、視野を広げた形で検討してもらわないといけないと思います」