5類移行で変わる医療体制
- 2023年05月08日

5月8日をもって新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、これまでの「2類相当」から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に変わりました。影響の大きい医療の提供体制を中心に、これまでとの違いをわかりやすくまとめるとともに、病院や保健所などの最前線での受け止めを取材しました。 (盛岡放送局 渡邊貴大)
新型コロナ5類移行で何が変わる?
新型コロナの感染症法上の位置づけが、これまでの新型インフルエンザなどと同等の「2類相当」から、5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行します。

感染症法上の位置づけが5類に移行するのに伴い、
▽医療費は外来での受診や入院の費用の一部が自己負担となり、無料のPCR検査もなくなります。
▽また、外出や営業の自粛などを政府や自治体が要請する法的な根拠はなくなりましたが、新型コロナに感染した場合、発症の翌日から5日間は外出を控えることが推奨されています。
▽このほか感染者数の報告も、指定の医療機関が毎日ではなく週1回行うことになり、県は感染者数の発表を毎週1回水曜日に行うとしています。

一方で、医療提供体制は患者を幅広い医療機関で受け入れる体制に移行し、
▽外来の診察については、4月末時点で県内438の医療機関で行ってきた体制を、10月以降は内科と耳鼻科、それに呼吸器科のすべてで診察できるよう目指すとしています。

▽入院についても、現在29の医療機関で合わせて460床のベッドを確保していますが、10月以降は県内76の医療機関で合わせて510床を確保する方針です。
これまで特定の医療機関で集中的に受け入れてきた新型コロナの患者を、県内の医療機関全体でまんべんなく受け入れていく体制に移行していくことになります。
変化が大きい医療現場での受け止めは
私たちの生活に直接関わる大きなポイントとしては、診察や入院に対応できる医療機関が増えることが挙げられます。
一方で、病院側が体制を移行するまでの猶予も必要となることから、9月末までに段階的に対応を拡大していくための移行期間が設けられています。
ただ、当然ながら病院側も問題なく受け入れられるのか、不安もあるとしています。

盛岡市津志田の川久保病院です。
これまで新型コロナについては、発熱外来での対応に限って行ってきました。
一方で、院内感染のリスクや、専属で対応にあたる職員を確保するめどが立たず、入院の受け入れについては行ってはいませんでした。

しかし、今回の5類への移行をうけ、新たにコロナ患者用の個室ベッド2床を用意することを検討しています。個室にすれば一般の患者と接触するリスクが減り、院内感染も防げると考えています。

川久保病院 田村茂院長
「病院として新型コロナをうつさないようにトイレや食事の生活スペースをしっかりと分けることで、他の入院患者さんが安心して過ごせるように考えました。コロナの患者とそれ以外の入院患者の両方が安全・安心に医療を受けられる体制としてこの病床数で考えています」
こちらの病院では、感染が流行したらベッドをさらに増やすことも検討していますが、これまでの感染拡大時の経験から想定通り運用できるか不安もあるとしています。
川久保病院 田村茂院長
「コロナが広まってしまうとですね、職員もやっぱりかかってしまうんですよ。医師や看護師がかかるとマンパワーが減るので、その分、入院に使えるキャパシティが少なくなる。本当に確保病床をうまく使えるかどうか。そこはちょっとその時の状況にならないとわからない」
医療機関ではこうした手探りの状態での体制の拡充が進められているのが現状です。
県も流行期の人手不足は危惧しており、重症化リスクの高い患者がいる医療機関には保健所が感染予防策をこまかく指導するとしています。
保健所「感染予防の指導や対策に注力へ」
5類移行で保健所の業務も大幅に軽減され、保健所は今後、指導や対策といった「本来業務」に集中できるようになります。これまで保健所の業務を特に圧迫してきたのが、入院患者をどこの病院が受け入れるのかという「入院調整」の業務でした。この調整が今後は、原則、医療機関どうしで行うことになります。

奥州市と金ケ崎町を管轄する奥州保健所です。
感染者が急増したこの冬の第8波では、50人あまりいる職員を総動員して入院の調整などにあたりました。

業務は入院調整だけではありません。自宅で療養する患者に異変がないか聞き取る「健康観察」も、クラスターが発生した際の感染ルートの調査も、行わなければなりません。
この冬は深夜まで業務に追われたり休日に出勤したりする職員も多かったといいます。
5類へ移行したことで、これまでよりも業務が限定され、今後は、感染予防の指導や感染を広げない対策に注力できるとしています。

奥州保健所 星進悦所長
「今後の予防対策は高齢者などハイリスクグループへの対応に集中できると思っています。医療機関や高齢者福祉施設でクラスターが起きない、もし起きた場合には即座に対応して二次感染等を防いでいくというのが今後の大きな仕事になるんじゃないかと思っています」
スムーズな移行に必要なことは
表向き、体制が整えられた形ですが、県の医師会が行った調査では、患者の受け入れについておよそ半数が「医療機関同士の調整で入院先が本当に確保できるか不安を感じる」という結果も出ています。
今回、県内のいくつか病院を取材しましたが、受け入れについて「他の病院の対応も見ながら考えたい」とする病院もあり、医療提供体制が目標どおりに広がるかは不透明な部分もあります。
この点について、県内で新型コロナの感染拡大初期から入院調整を指揮してきた岩手医科大学の眞瀬智彦教授に聞きました。

岩手医科大学 眞瀬智彦教授
「3年間コロナそのものを診療したことがない、入院させたことがないという医療機関がすぐに入院だとかを受け入れられるかというと、多分そうではないと思います。どの医療機関と相談すればいいか、どんな内容を共有すればいいかということが、今までやったことがなければ心配ですし、受け入れてくれるのかなというところは多分、照会する側からすればあると思いますね」
そのうえで眞瀬教授は、新たに患者を受け入れる医療機関に、自分たちも新型コロナを診ることが、地域医療を支えることになるんだという意識を、早く持ってもらうことだと指摘します。
岩手医科大学 眞瀬智彦教授
「やったことないことをやることはすごく不安があると思いますけど、1例2例と患者さんを診て治療していけば、こういう風にしていけばいいんだとかここがポイントだというのが多分、分かると思いますので、みんなでコロナを見ていこうという姿勢が大切なんじゃないかなと思います」

移行後のスムーズな入院調整を実現するための1つの手段として、ベッドの空き状況など、医療機関どうしの情報共有ができる国のシステム、「G-MIS(じーみす)」を有効活用することをあげています。国は5類移行に合わせて、全国の医療機関のベッドの空き状況などを一元的に把握できるシステムを整備し、こうしたシステムに日々、接すれば医療機関の意識づけも期待できるとしています。
取材後期
新型コロナは5類への移行で、法律上の扱いこそ変わりましたが、感染力が衰えたわけでも、重症化しなくなったわけでもありません。
医療機関や専門家からも「若い世代の症状は軽い場合が多いが、高齢者などは引き続き症状が重い人も多く、症状が2極化していることは忘れないでほしい」という声が聞かれました。
個人の対応としては社会活動の変化に合わせながらも、引き続き手洗いや場面に応じたマスクの着用など基本的な感染対策が必要です。