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岩手 奥州発・仙台行き 高速バス 遠回りのなぜ?

  • 2023年05月02日

ちょっと時間はかかりますが、運賃の安さが魅力の高速バス。
新型コロナの影響をもろに受けて、全国的に運休が相次ぎましたが、このところ便が戻りつつあります。
今月、岩手県奥州市でも、仙台駅とを結ぶ高速バスが復活したのですが、そのルートが、ちょっと不可解なんです。
高速バスなのに遠回り?
バス会社の“やむにやまれぬ事情”を解説します。
(盛岡放送局記者 髙橋広行)

ルートを見てびっくり

新たに誕生した高速バスは、その名も「水沢仙台線」。

奥州市水沢と仙台駅を結び、大人片道2600円。
東北新幹線の水沢江刺駅から仙台駅までと比べると、運賃はほぼ半額なのですが、ルートはこうなっていました。

奥州市から、金ケ崎町、北上市を経由し、ようやく東北自動車道に入り、仙台へ向かいます。

何かの間違いではありません。
この高速バス、目的地の仙台へと最短ルートで南下せずに、いったん北上してから、南下するのです。
なぜなのでしょうか。

バスを運行する「岩手県交通」乗合自動車部長の浦部和之さんに聞きました。

岩手県交通 浦部和之 乗合自動車部長

もともと岩手県交通では、奥州市と仙台を結ぶ高速バスを運行していました。
「江刺バスセンター」から市内5か所を経由し、平泉前沢インターチェンジから東北道に乗る「江刺仙台線」です。

青色が「江刺仙台線」 普通に南下していたが・・・

運行は1日2往復で、水沢から乗ると仙台駅までの所要時間は1時間55分。

利用者は年々少なくなっていましたが、新型コロナが追い打ちをかけ、おととし1月から運休が続いています。
ただ、このところ市民から再開を求める声が出ていました。

一方、北上市では、花巻市を出発して北上駅経由で仙台駅に向かう高速バス「けんじライナー」を運行しています(花巻市が宮沢賢治の出身地であることからその名がついています)。

平日1日1往復・土日祝日は1日2往復です。
もともと「江刺仙台線」より利用者が多かったことに加え、北上市では、半導体大手のキオクシアの工場立地が進み、いま特に若い世代の転入が増えています。
最近は、けんじライナーの利用者もコロナ禍前の6割程度にまで回復し、高速バスの需要もさらに高まると見込まれているんです。

やむにやまれぬ事情

ただ、岩手県交通からすると、売り上げの柱であった高速バス11路線のうち、一時最大で10路線が運休に追い込まれるなど、長引いたコロナ禍で厳しい経営が続きました。

さらに深刻なのが運転手不足です。
2009年の時点で正社員と嘱託社員を合わせて600人余りいた運転手は、200人以上も減りました。
燃料費の高騰も続いています。

浦部部長によると、「江刺仙台線」の単独での運行再開は採算ベースで見ても難しいと考え、より多くの乗客を乗せ、路線を維持するために今回のルートが“編み出された”ということでした。

北上市の人からすると、仙台行きの高速バスは増便となった形です。

この新たなバスの所要時間は2時間44分。
運賃はあまり変わりませんが、水沢から乗る客にとっては、従来ルートと比べると50分も余計にかかることになります。
(仙台からの下りも先に北上を経由し水沢が終点)

会社初の試み のるかそるか

事情はわかりましたが、だとしても、北上発にする訳にはいかないのでしょうか。

岩手県交通 乗合自動車部長 浦辺和之さん
「もちろん、それも検討しました。私どもの営業所が奥州市にあることに加えて、北上発・奥州経由にすれば、より多く見込まれる北上から乗るお客様の所要時間が長くなり、利便性が下がってしまいます。どちらを取るかで、こうしたルートに至りました。高速バスのルートで、いったん北上して南下するというのは我が社としても初めての試みです。社内外でさまざまな意見が出ましたが、路線を定着させることが最大の目標ですから、産業集積が進む地のお客様にも乗車いただくことで、それが実現できればと思っています」

運行初日、関係者によるテープカットが行われました。

奥州市民に話を聞くと・・・

利用者の会社員
「高速バスの復活、とてもありがたいです。きょうも休みで久しぶりに仙台の書店巡りをする予定なんですが、気軽に行けるのが何よりうれしい。ただ、ちょっと時間がかかるので、私としては以前のルートに戻して欲しいなあというのが正直なところです」

奥州市 小野寺隆夫 副市長

奥州市 小野寺隆夫 副市長
「はじめ、奥州から北に向かうと聞いたときは『え!なんで?』とちょっと驚きましたね。バス会社さんの話を聞いて、なるほどと。やってみないと、わからないなと。まずは、路線が復活したことをよろこびたいですし、新型コロナが落ち着いてきたことで、市民の移動熱も高まっているので、多くの人に乗ってもらいたいです。仙台の人が奥州に足を運んでもらうことにも期待しています」

従来ルートが運休していることをふまえると、多くの人が前向きな受け止めでした。
バス会社の苦渋とも、ユニークとも言える今回の判断。
少なくとも話題は大いに集めそうですが、定着できるか注目です。

運行初日の「水沢仙台線」
  • 髙橋 広行

    盛岡放送局 記者

    髙橋 広行

    埼玉県川越市出身。2006年入局。広島局、社会部、成田支局を経て、2019年から盛岡局。8歳と5歳の暴れん坊(甘えん坊)将軍の父親。みんな乗り物が大好きです。

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