「NFT×ふるさと納税」 紫波町が構想する“デジタル町民制度”
- 2023年02月23日

・岩手県紫波町は、去年10月からオンラインゲームのキャラクターのNFT(Non-Fungible Token)をふるさと納税の返礼品に追加。900万円以上の寄付が集まっています。
・紫波町がNFTを活用する狙いは税収アップだけではなく、NFT保有者を「デジタル町民」として迎え入れ、町の関係人口を増やすこと。
・試験的に運用が始まっているNFT保有者と紫波町がつながるオンラインコミュニティでは、町の課題解決のためのアイデアが議論され、町の障がい者が制作するアート作品をNFT化しようというプロジェクトが実現に向かって動き始めています。
紫波町の新たなデジタル戦略「NFT×ふるさと納税」
岩手県の中部にある紫波町。
去年10月、町はふるさと納税の返礼品に“NFT”と呼ばれる新しいデジタル技術を用いた、あるオンラインゲームのキャラクターのデータを追加しました。

寄付額は67,000円から。この返礼品にこれまで約140人、額にすると900万円以上の寄付が集まっています。注目の理由は……。
町を取材すると、その狙いは税収アップにあるのではなく、NFTの特性を活かした「デジタル町民」という新たな構想にありました
新しいデジタル時代に自治体が取り組む町づくり戦略を取材しました
NFTとは?
最近よく耳にするようになった「NFT」という言葉。正式名称は“Non-Fungible Token”です。
これは、デジタルデータに「偽装不可能な証明書」をつける新しいデジタル技術。

一般的なデジタルデータは、“コピペ”が可能であるように、簡単にデータを複製したり、偽装したりすることができます。すなわち、価値をつけることが難しい。たとえば、ゴッホの代表作『ひまわり』であっても、画像データは容易にコピーすることが可能なので、本物と同じ価格で売買することはできないでしょう。

NFTは、そんなデジタルデータが「オリジナル」であり「唯一」であることを証明する技術です。
NFTはそれ自体をコピーすることができません。また、たとえ全く同じ内容のデータであっても、NFT自体は異なります。わかりやすく例えるなら、デジタル上のシリアルナンバーのようなもの。
この技術によって、デジタルアートの売買や投機目的の取引が可能になりました。

紫波町が制作したのは、このNFTを活用したオンラインゲームの紫波町版オリジナルキャラクターです。

このゲームは、ユーザーが使用するブタのキャラクターのデータがNFTになっているため、そのキャラクターの育成度合いや、レースの勝敗でデータの資産価値が変ります。

そして、そのデータは暗号資産に換金することが出来るという仕組みになっているんです。こうした仕組みが取り入れられているゲームを「NFTゲーム」と呼びます。
なぜ紫波町はNFTに注目するのか――“投機”から“証明”へ
紫波町が「NFT」に注目する理由は、単に税収アップを目的とするものではないようです。
役場で取り組みを担当する企画総務部企画課の森川高博さんは、NFTの「コピー」できないという性質を活かした新たなデジタル戦略を企画しています。

NFTというのは、コレクションアイテムとしてのアイテムが結構強いんですけども、代替できないデジタルデータということで、電子上の“証明”として活用出来るシステムなんですよね。ですので、これを活用して「デジタル町民制度」に結びつけていこうと考えています。
紫波町が進めている「デジタル町民制度」とは、ふるさと納税などを通じて紫波町のNFTを保有する町外の人を「デジタル町民」として認証し、町のサービスを受けたり、町政にも関わってもらおうという構想です。

ここで活用されるのがNFTの特性。NFTは偽装や複製ができないため、「証明書」として機能させることができます。NFTをデジタル上の「住民票」のような扱いにすることで、「デジタル町民」という制度を作ろうというのが紫波町が考える仕組みです。
同じような取り組みは、新潟県の旧山古志村などで試験的に実践されています。
紫波町の「デジタル町民構想」では、デジタル住民専用のお得に特産品が購入できるECサイトの立ち上げや、オンラインコミュニティの投票機能を活用し、自治体運営に関する議論や投票に参加してもらうことなどが計画されています。
デジタル技術を活用して、世界を含めた町外の人とつながり、町について知ってもらったり、関わってもらう、すなわち、関係人口を増やすことで人口減少という地方自治体の課題を乗り越えようという戦略です。

地域作りにおいて一番重要なのは人だと思っています。NFTをツールに使って、今回でいえばゲームユーザーさんとつながったり、これまでにつながったことないひととつながり、コミュニティを形成しようと取り組んでいます。
チャットを使ったオンラインコミュニティの活用
紫波町の「デジタル町民構想」はまだ計画段階にありますが、試験的に運用が始まっている機能があります。それは、専用のチャットシステムを活用したオンラインコミュニティの運営です。

紫波町のNFTを保有する人など、約340人がチャットに参加。ほとんどが町外出身だそうです。

町の困りごとや課題について共有し、アイデアを募っています。みなさん働いている方が多いようで、よく夜になるとチャットが動き出します。
実際に、実現に向かい動き出しているプロジェクトがあります。町の障がい者が制作するアート作品をNFTにしようというプロジェクトです。
紫波町の社会福祉協議会では、毎年障がい者が制作するアート作品の展覧会を開いていましたが、コロナ禍で来訪者が減り、一時はやめることも検討されていたとか。

そんな中で立ち上がったプロジェクトに、社会福祉協議会の事務局長、小田中修二さんも期待を寄せています。

NFTは多くの人に見ていただき支持をいただける機会がふえるので、楽しみに期待しています。

NFTを通じて、作品に触れてもらうだけでなく、取り組みそのものを知ってもらう機会が増えることが期待されます。
「デジタル町民制度」の可能性は、オンラインコミュニティを通して町外の人を巻き込むことで、いままでになかった新しい町づくりのアイデアが生まれる点にあります。
紫波町が構想するデジタル時代の町づくりは、まさにいま動き始めています。