なぜ、再び町営に? 町と議会の対立と混乱 岩手 大槌町
- 2023年02月14日

「これからどうなるんだろう?」
「ちょうど慣れてきたところで(運営が)変わるのは心配」
取材をしていると「なぜここまで混乱しているのか。理由がわからない」といった声も多く聞かれました。
指定管理者制度のもと、利用客が順調に伸びているにもかかわらず、なぜ町は「指定管理」をやめて町営に戻すことを決めたのか。見えてきたのは町や管理団体側と議会のあいだの“深い溝”でした。
(NHK盛岡 釜石支局 記者 村田理帆)
町民の憩いの場で何が?
問題の舞台となったのは、町の文化交流センター、通称“おしゃっち”。
人口約1万人の小さな沿岸の町、岩手県大槌町の中心部にある施設です。
木造3階建てのスタイリッシュな建物は、2018年に完成。震災以降、誰もが集える場所があまりなかった住民にとっての憩いの場であり、町のシンボルです。
おしゃっちについて、町は運営コストの削減などをねらって2020年度から指定管理制度を導入。
町内の社団法人が町から委託を受け管理・運営を行っています。
しかし、ことし1月、町は2023年度から指定管理者制度を廃止し、町の直営に戻すと突然発表。波紋が広がりました。

大槌町 平野公三町長
「指定管理者制度の在り方について議会から理解をえられることができず、このまま来年度の契約を更新することが困難と判断したため」
“議会から理解をえられない” なぜ?
平野町長は会見で「運営団体に瑕疵はない」とも発言しました。
社団法人が運営を行うようになってから、センターの利用者数は町営だったときと比べ、1年間で約1万人増加。社団法人は数々のイベントを企画するなどして、にぎわいを生み出して、利用者からも、使いやすくなったと好評でした。

町も、「指定管理者制度を導入したことで、単なるコスト削減だけでなく、町の活性化にもつながった」としています。運営する社団法人の神谷未生代表は、運営するうえで心がけてきたことについて、次のように話しています。

運営する社団法人の神谷未生代表
「小さい子どもからお年寄り、地元の人、移住者、どんな人にとっても居場所となるような空間作りを、スタッフ全員で心がけてきました。イベントをたくさん行うことで、震災以降、途絶えてしまった交流の場を作ろうとイベントの開催にも力を入れてきました」
それなのになぜ、町は指定管理者制度の廃止を決めたのでしょうか?
いちばんの理由は、年々増える委託料にありました。

社団法人による指定管理が始まった当初の運営費は3582万円でしたが、その後、年々増加。
これについて議会は、「コスト削減をねらって指定管理者制度を導入したのに、委託料が増え続けるのはおかしいのではないか」と疑念の声をあげたのです。
委託料増加のなぜ?
そもそも、議会からの疑惑の目は、ここ1年くらい続いていました。
議会は、去年3月の定例議会で町が提出した、新年度の当初予算案について「指定管理委託料を増額する根拠があいまい」だとして否決。
さらに去年12月、電気料金の高騰を理由に町が委託料を390万円増額する補正予算案を提出しましたが、議会は反対多数で否決しました。
議会からは「運営団体を優遇するような予算編成をしているのではないか」といった声が相次ぎ、町は「このままでは指定管理者制度を維持できない」と判断し、やむをえず来年度から町の直営に戻すことにしたのです。
では、なぜ委託料が増えているのか?
町や社団法人側は、委託料増額の理由として「人件費」をいちばんの理由に挙げています。
利用者が増えた分、消毒などの作業量が増え、スタッフの確保がどうしても必要だというのです。
しかし議会側は、こうした町や社団法人の説明に納得していません。
大槌町議会の芳賀潤議員は次のように述べています。

大槌町議会 芳賀潤議員
「おしゃっちが賑わっているからといって、どんどん人件費を足していくのではなく、きちんと精査が必要だ。3年間の契約期間のなかで、いたずらに委託料が増えていくのは、いかがなものかと思う。また、町のほかの事業もこの団体が多く請け負っていて、この団体ありきで町の予算そのものが作られているのではないかと、疑いの目を向けざるをえない」
深まる溝
議会は、この社団法人に町の多くの事業が集中していることや、おしゃっちの委託料の決め方について問題視しています。
議会
「町は、この団体の要求をすべて飲み込む形で予算編成をしている。これは談合ともいうべきであり、違法ではないか」
これに対して町は違法性はないと主張し議論は平行線です。
町
「指定管理者制度とは、そもそも委託先と協議のうえ予算を決めるものだ。国の通知に基づいて協議をしていて、違法性はない。また、この団体にさまざまな事業が集中しているのは、たまたまだ」

町は、2月6日再び会見を開き、このなかで平野町長は、町側に違法性がないことを明白にしようと、公正取引委員会へ情報を提供したり、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(通称、百条委員会)を設置して、議会の主張する疑惑について調査してほしいと議会に求める発言を行いました。
百条委員会の設置は本来、議会主導で行うもので、当局側がこのような要求をするのは異例です。
議会側は「議会に対する責任転嫁だ」などと反発を強めています。
誰のための施設なのか?
運営が切り替わる4月まで残された時間は少なく、町はスタッフの雇用や、社団法人が行ってきたさまざまなサービスを引き継ぐなど対応に追われています。
町・社団法人側と議会がお互い歩み寄るような姿勢は、取材時点では感じられませんでした。
公的な施設の運営に透明性が求められるのは当然のことではありますが、町民が安心して施設を利用できるよう、早急に混乱を収束させてほしいと思います。