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岩手 陸前高田 ツバキで復興のその先へ 大学生の奮闘

  • 2023年01月30日

12年前の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市。大規模なかさ上げ工事と宅地造成、公共施設の再建やインフラの復旧で復興事業は完了し新たなまちづくりが進められています。
この陸前高田で、市の花になっているツバキを活用して新たな事業の創出や人材育成などに取り組んでいる地元出身の大学生がいます。
ツバキに希望を見つけ「復興よりその先にある新興」を目指す活動とは。
(NHK盛岡 大船渡・陸前高田支局 記者 村上浩)

PR役は大学生

“椿茶”をPR

2022年9月、全国の障害者施設の利用者や関係者が陸前高田市に一堂に集まり交流を深める大会が開かれました。メイン会場に設けられたPRブースの一角で、市の花になっているツバキを使った商品が販売されていました。地域に自生する湯履きの葉を障害者施設の利用者に採取してもらい、磨き上げてもらった葉を買い取ってばい煎した“椿茶”が特に好評でした。

レッドカーペット・プロジェクト理事 吉田雪希さん

PRに努めたのは陸前高田市出身で大学4年生の吉田雪希さんです。
商品開発や人材育成などの事業を展開する一般社団法人「レッドカーペット・プロジェクト」の最年少理事として商品を売り込みました。

飲んでもらった人の感想を聞く機会ってこういう販売会ではないとないから、すごくうれしいなと思いながら、いっぱいしゃべっちゃいます

 

ツバキの若葉

ツバキとの出会い

吉田さんは団体の代表で椿茶を製造する会社の社長やスタッフとともにお茶の材料となるツバキの葉を取りにたびたび山へ入り、許可を得た上で採取しています。

吉田さんが活動を始めるきっかけは大学1年のときに参加した沿岸部の起業家などを訪ねるツアーでの社長との出会いでした。背景にはふるさとの復興の先にある漠とした不安だったと言います。

復興って元に戻す意味が強い。陸前高田も自分が記憶してるのは震災前の駅前のシャッター街で、そういうところに戻ったとしても寂しいなって思った。復興という言葉が終わった先に何があるんだろうって、何かその先を探してたんですよね

何よりひかれたのが、「元に戻す復興より新興」という言葉と、ふだん当たり前のように目にしていたツバキからお茶を作るという発想でした。

椿茶を知ったときに確かに家の庭にも10本以上あるし、通学路にもたくさん生えてるし、当たり前すぎて気づかなかったというか目にもとめてなかったんですが、
それで商品、それもお茶というセンスがステキでいいなと思いました。
ツバキに関わることが復興でなく新興なんだというのが自分の希望になった

 

“師匠”の髙橋和良さん

“師匠”のまなざしは

吉田さんの師匠でレッドカーペット・プロジェクト代表理事の髙橋和良さん。「復興でなく新興」という言葉の背景には髙橋さん自身が感じてきた思いもありました。
震災前にIT企業に身を置いていた髙橋さん。海外を飛び回る中で痛感したのがコンピューターのOSにしても開発言語にしてもすべてが海外製のものに負けているのではないかという感情でした。震災後にこちらで物作りを始める際には素材は外国に頼らず地域のものをと考えていました。過去の苦い経験からの新興を目指す中でたどり着いたのがツバキでした。
そんな時に出会った吉田さん。何度も訪ねてきては教えを乞う姿にに戸惑いを感じましたが、次第に受け入れるようになりました。

来なくてもいいと言っても来るし、どやしても来るし困ったなと。
なんでそこまでと当初は不思議だったんですけど、もしかしたら震災が育てた子どもなのかも知れないなと。ちゃんと話を聞いてしゃべってあげなきゃないなというふうに思ったのがスタート。
何を見ているのかなっていうところ、復興とか新興とか彼女が震災後ってものに見てるコアの部分が自分でも感じていたことなので共感できることを言ってくる人だなと

出会いから3年が経ち、団体の理事も務める吉田さんの成長を感じ取っています。

ツバキのように根を深く張って、地域に根ざして花開く、そういうことを体現する人になって欲しい。
『私も吉田雪希さんみたいになりたいな』っていう人を作れるようになってもらえたらありがたい

椿茶 ここでも

吉田さんの活動は地元にとどまりません。この日、訪問したのはシーシャと呼ばれる「水たばこ」を売りものにした盛岡市のバー。この店には吉田さん自ら売り込んでこの夏から客に椿茶を提供しています。

盛岡市のシーシャバー店主・テラさん

後味がすごく面白くて初めて飲んだときに感動しちゃって。客からおいしいって率直によく言われます

シーシャはさまざまなフレーバーを楽しむことでリラックス効果があるとして若者を中心に人気が高まっているといいます。

シーシャと椿茶はちょうどよくどちらも邪魔しないような感じですごく合っている」「吉田さんはちょっとおとなしめの印象だったんですけど、椿茶の話になるとすごい熱心に教えてくれるからすごい勉強になる

お土産物以外のこういう飲食店で飲んでおいしいってなったらおかわりもできるしいいなと。色んな人に椿茶を知って欲しい

将来的にはツバキのフレーバーのシーシャを作れないか検討しているということです。

未来の自分?と交流

2021年11月1日に陸前高田市で行われたツバキの植樹会。卒業記念にと地元の中学生たちが、以前から団体を支援している日本財団ボランティアセンターが募集したボランティアに手伝ってもらいながら、苗木を植えました。

地元の中学3年生の卒業記念にツバキを植樹

苗木には生徒それぞれの名札がついていて、一緒に成長することになります。生徒たちは「自分の名前がついたツバキが育つことで赤い花びらのじゅうたんになってくれればうれしいです」とか「ツバキのように自分も代を重ねて大きい、良い人間になっていけたらなと思います」と感想を話していました。

中学生

自分の名前がついたツバキが育つことで赤い花びらのじゅうたんになってくれればうれしいです
ツバキのように自分も代を重ねて大きい、良い人間になっていけたらなと思います

 

中学生と交流

吉田さんも後輩たちに期待を寄せています。

もしかしたら何年か後にあのときすごく面白い話を聞いたなとなる可能性もある。自分の仲間になってくれる可能性は全員持っているのではないかな

2023年春の大学卒業後、吉田さんはツバキが本業になります

これから壁にぶつかることがあっても、諦めない人になりたい。自分の生まれ育った町が津波でこうなって今、復興とかごちゃごちゃしてる中で何かしたいっていうのはすごくある。自分の町がもっと楽しくなればいいし仲間が増えてくれればいい

【取材後記】

師匠の髙橋さんの会社が椿茶を納入している東京のホテルからは全国旅行支援の追い風を受けて、宿泊客などへのプレゼントやウエルカムドリンク用など椿茶の需要増から大量の注文があり、生産が追いつかない状況のようです。また吉田さんが理事を務める団体にはインターンとして本格的にツバキを学ぶ大学の後輩もいます。

震災の被災地では復興後のまちづくりを担う存在として期待される一方で、その先の未来に漠とした不安を抱いている若者も少なくないと見られますが、「一旗揚げるためにも仲間を増やしていろいろとチャレンジしたい」とひたすら前を向き続ける吉田さんの姿は頼もしく、老眼のオジさん記者には少しまぶしく見えたのでした。

  • 村上浩

    NHK盛岡放送局 大船渡・陸前高田支局

    村上浩

    1992年入局
    2012年から宮城・福島などの被災地取材を続け
    2020年から現任地

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