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‟畑の土”に炭素を貯めこむ!? 温暖化抑止で注目・綾町の農法

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  • 2023年05月02日

いま「持続可能な農業」が、世界の農業の行く末を占うキーワードとなっています。

2023年4月、宮崎で開かれたG7農相会合。
農業大臣声明では「持続可能」という言葉が32回も登場しました。

地球環境にこれ以上負荷をかけないため、温暖化の一因とされる温室効果ガスを「畑の土」に閉じ込めようという農業が注目を集めています。
有機農業の町として知られる宮崎県綾町で始まった取り組みを取材しました。
(アナウンサー 内藤雄介)

肌で感じる温暖化の影響

綾町の農家のみなさんです。
ハウスの中で「温暖化の影響」について話していました。

北野将秀さん(48)

10年前の記録を見ると、ニンジン🥕は8月11日に種まきをしていたんですよ。今は同じ時期にまくと、芽は出るけど全部枯れてしまうんです。暑さで。

長田章
さん(54)

うちも、レタス🥬の作付けの時期を年々ずらしています。そうしないと、どんどん早くでき出してしまうので。

小林正明
さん(30)

雨がものすごく降ったと思ったら☔、全く降らなくなって🌞。急に暑くなって🥵急に寒くなって🥶。極端な天気は、日常というか、異常気象じゃなくなっちゃったという感じは、すごくありますね。

北野さん

冬が寒いほうが野菜もおいしいのに、今年は気温が高かったせいで締まらない味になっている気も。こうした状況でいつまで農業が続けられるのか・・・。

そして北野さんは立ち上がった

温暖化への不安を感じる1人、北野将秀(きたの・まさひで)さん(48)。レタスをはじめ、ニンジン、ジャガイモ、ライチなど年間13種類の野菜や果物を育てています。

北野将秀さん

綾町の農家に生まれ育った北野さんは、関東で貿易会社を立ち上げ、アフリカや中東などに足を運ぶ生活を送っていました。そこで目にした世界の現実にショックを受けたといいます。

アフリカ タンザニアにて(2011年)
北野さん

海外で目の当たりにしたのは人口増加と食料の少なさでした。食べ物を作ることの重要性を感じたんです。足元を見たら実家は綾町で有機農業をやっていた。
これはすごい環境にいたんじゃないかと思って、ふるさとに帰る決断をしました。

綾町の土が持つ力

綾町は、全国に先駆け、50年前から有機農業に力を入れてきたことで知られています。町ぐるみで土づくりに取り組み、元気な野菜を育ててきました。

世界が注目!綾町・自然生態系農業の歴史
↑↑綾町・土作りの歩みはこちらから↑↑

町の農産物直売所にも新鮮な野菜がずらり

炭素が多い!?綾町の畑の土

そんな綾町の土が『知られざる力』を持っていることがわかりました。

北野さん

畑の土の成分、特に炭素の量を調べてもらったんですよ。
するとほかの地域と比較して、土の中の炭素の量が多かったんです。
大気中の炭素が原因で温暖化になっているという話がありますが、この土はその炭素を保有できるそうなんです。

温暖化の原因の一つとされる炭素は、二酸化炭素として大気中におよそ7500億トン存在しています。
かつては、大気中の炭素量はもっと少なかったのですが、産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を使う量が増え、大気中の炭素量が一気に増えたことが、温暖化が進行した原因と考えられています。

一方、土の中にはその倍の1兆5000億トンもの炭素が含まれています。つまり、大気中の炭素を土の中に移すことができれば温暖化対策になるわけです。

では、綾町の畑の土が炭素を含む割合が高いというのは、なぜなのでしょうか?

綾町の土に炭素が多い理由① 有機農業による蓄積

町を上げて有機農業に取り組む綾町では、長年多くの有機肥料で土を豊かにしてきました。

有機肥料には炭素(C)が含まれています。そのほとんどは土の中の微生物に分解され、1年以内に二酸化炭素(CO2)となります。

しかし、一部は長期間分解されず土の中に残ります。
それが年々たまっていき、量が増えてきたと考えられます。

綾町の土に炭素が多い理由② 微生物のチカラ?

もう一つ、微生物が影響しているという研究もあります。肥料の働きなどを研究している東京農業大学の中島亨(なかじま・とおる)准教授です。

東京農業大学 中島亨准教授

綾町の土には炭素だけでなく、微生物の量も多いという分析結果が出ています。農薬や化学肥料をできるだけ使わない『自然生態系農業』を長年続けてきたことが理由だと考えられます。

そして、‟微生物が多い土は炭素を長期間土壌中にとどめる”という研究結果があります。微生物が多い土は植物の生育に適した「団粒構造」になるのですが、その中に存在する炭素は分解されにくく、長期間土壌中に留まるというのです。そのため、綾町の土は炭素を多く含むのではないでしょうか」。

中島さんは、団粒構造の土は大雨などの際に流れにくく、土が流れることで炭素が逃げ出して行ってしまうことも防げるといいます。
町をあげて行ってきた有機農業の継続が、微生物を育み、炭素を多く含む土を作っているのではないか? 中島さんは研究を続け解明したいと考えています。

北野さんの‟土の炭素を増やす農業”① 耕し方を工夫

土壌中の炭素量が多いことの素晴らしさに気付いた北野さん。温暖化の進行を遅らせたいと、より多くの炭素を土の中にとどめる工夫をはじめています。

まず耕し方を変えました。以前より回数を減らし、掘り返す深さも浅くしたのです。本来、土の中に養分を行き渡らせるために欠かせない作業ですが、同時に微生物の活動を活性化させ、二酸化炭素が発生してしまいます。
北野さんは、作物の成長に影響を与えず、しかも二酸化炭素の発生も最小限に抑えられる、バランスのとれた耕し方を探りはじめました。

北野さんの‟土の炭素を増やす農業”② 緑肥を活用

北野さんが手にしているのは、マメ科の植物「ヘアリーベッチ」のタネです。
サツマイモを収穫した後の畑に蒔いて、次にレタスを植えるまでの間、育てる計画です。
これが空気中の二酸化炭素を減らすのに役立つといいます。

植物は空気中の二酸化炭素(CO2)を吸って、酸素(O2)を吐き出す「光合成」をしていますよね。
残ったCはどこに行くのかというと、植物の茎や葉に姿を変えているんです。

北野さんは、育ったヘアリーベッチを、刈り取らずにそのまま畑にすきこみます。こうした方法は「緑肥(りょくひ)」と呼ばれていて、植物はそのまま次の作物の養分になります。

更に、身体に炭素をためこんだ植物をそのまま畑に入れるため、土中の炭素量を増やすことも期待できるんです。
北野さんはより炭素を土に貯めこみたいと、緑肥の回数を増やし始めました。

土壌中の炭素の量が多いことは「一石二鳥」

国の研究機関で、長年、土壌炭素について研究する白戸康人(しらと やすひと)さんは、このような農業分野での温暖化対策に注目が集まっていると言います。

農研機構 気候変動緩和策研究領域 白戸康人研究領域長
白戸さん

世の中に温室効果ガスを減らす技術はいろいろありますが、農地に炭素を貯めるというのは、作物を作りながら温暖化抑止にも貢献できる一石二鳥の方法です。

また、二酸化炭素を出している人たちが「自社の排出をどこかの農地の吸収分で穴埋めしたい」と、関心を持ちはじめていると強く感じます。

今後の広がりへの課題

ただ、このような農法は手間やコストがかかるのも事実です。地球環境に良い取り組みとはいえ、生産者の努力頼みでは「持続可能」とは言えません。そこで、こうした取り組みを後押しする仕組みづくりが進んでいます。

①消費者の理解を得、負担してもらう
北野さんは土壌に炭素を貯めこむ農法で作った野菜に「新たな価値を感じてもらうブランディング」を行い、付加価値をつけて販売しようと計画しています。そこまでするのは、温暖化の危機感を消費者と共有したいからだと言います。

②「農地の二酸化炭素吸収量」を売買する
もう一つは、欧米などでは既に進んでいる仕組みで、農地が炭素を貯めこんだ量を「二酸化炭素の排出権取引」の分野で実際に売買するというものです。

排出権取引の仕組み

図の右側。CO2を出す企業などが、自分で削減しきれないことがありますよね。その場合、左側にお金を払って、自然などほかのところで吸収してくれる分のCO2を買い取るという取引がすでに行われています。これまで取引の対象となる自然は山林が主でしたが、近年欧米ではそこに農地が加わってきました。先ほどの白戸さんの話がすでに現実になっているんですね。

宮崎開催のG7農相会合でも
「炭素貯留」が話題に

日本でも仕組みづくりが始まっていて、北野さんのような農法もその対象になる可能性があります。そうなれば、農家の収入の柱の一つになり、炭素を貯めこむ際にかかった手間やコストを補ってくれると期待されています。

北野さんに、これからの思いを聞きました。

北野将秀さん

この野菜を食べることによって地球の環境を守ることにもつながるんだよと、多くの人に伝えたいです。これは現場で気温の上昇と温暖化の拡大を肌で感じている私たち農家の1つの責任なのかなとも思います。少しずつでもいいので、全国で農業をやっている人、農業に興味のある人などに輪を広げていきたいと思います」。

土の力について話を聞く筆者

取材を終えて
今回の取材を通じて、農業の未来に新たな可能性を感じました。
農業はいま、高齢化や人口減少で担い手不足が課題となっています。でも、北野さんのビジョンや欧米での排出権取引のように、土の中に炭素を貯めこむ農業にお金が支払われる仕組みが日本でも整えば、「作物を作りながら地球温暖化に歯止めをかけられる」ことに魅力を感じ、農業をやりたいという人たちが増えるかもしれません。
綾町のような取り組みが日本中に広がっていくのか、これからも取材を続けていきます。

  • 内藤 雄介

    NHK宮崎 アナウンサー

    内藤 雄介

    2002年入局。静岡-岡山-神戸-広島-東京アナウンス室で勤務。宮崎で農業取材を本格的に始める。日本の食を支える人たちの努力を伝えていきたい。

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