“宮崎牛”の野球グラブをWBCキャンプ地宮崎から米大リーグへ
- 2023年03月29日
いまや世界でも大人気、日本一の宮崎牛。肉ではなく革を「宮崎ブランド」として売り出そうとできたのが…野球グラブ。開発した社長の夢と野望を取材しました。
(NHK宮崎アナウンサー 道上美璃)
「野球×宮崎牛」⁉
「宮崎和牛の革」をつかった唯一無二のグラブを手がけるのは宮崎市のメーカー。
社長の山内康信さんが営む従業員30人ほどの小さな会社の挑戦は5年前に始まりました。
宮崎は畜産県ですから、牛がとれますしおいしいです。さらに日本一っていうのもありますから、そこをなんとか野球グラブとリンクさせてできないものかと考えました。
材料として使っているのがこちら。
最高級和牛として知られる“宮崎牛”です。
「和牛のオリンピック」全国和牛能力共進会では4大会連続で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞。中でも味の決め手の一つとなっている脂質が高く評価されています。
山内さんは、その革に目をつけました。
和牛の“革”ってどんなもの?
肉質のきめ細かさが特長の宮崎の和牛ですが、山内さんによると、野球グラブづくりに使う革にもそのよさがあるんだとか。
繊維が細かいので、引っ張ってもまた戻ろうとする力を発揮します。型崩れしにくい効果・特長があります。
一般的な野球のグラブは、革製品用に育てられた海外の牛革を使ってつくります。
これまでグラブづくりにはあまり使われてこなかった和牛の革。油分が多い和牛の加工には手間と高い技術が必要ですが適度な柔らかさもあり、実はグラブに向いています。
宮崎で育ち、宮崎で作られた「メイドイン・ミヤザキ」のグラブは、山内さんが宮崎牛のもうひとつのブランドとして自信を持って売り出す一品です。
ではなぜ、和牛の革はこれまでグラブの材料として使われてこなかったのか。 その理由の一つがこちら。
和牛の最大の目的は「おいしい肉」。「きれいな革」ではありません。
肉質に重きが置かれる一方で、革にはところどころ傷みがあるため、商品として使える部分が少ないのです。
最新の機械を導入
そこで山内さん、社運をかけてある機械を導入しました。
人生で一番の買い物ですね。
グラブづくりに必要なパーツの数は25。1枚の革を無駄なく使うため、画面上で配置していきます。いわば切り抜き用の設計図です。
しかし、ここで問題になるのがあの傷です。実はこの機械は、広げた一枚革の上に設計図を光で投影してくれるのです。
和牛特有の表面の傷はぎりぎり避けるように配置。
職人が1つずつ微調整することで、品質だけでなく見た目もよいグラブが作れるようになりました。
最新鋭のマシンが寸分の狂いもなく切り抜いていきます。
できあがったすべてのパーツは美しく、なおかつ革を無駄なく使い切ることができるのです。
これまで、和牛の革は国外に送られていたということを聞きました。地元も宮崎ですし、これをいかに活用していくか、1つ目標にしてきました。
試行錯誤を繰り返して完成したグラブの評判は上々。口コミを中心に広がり、あの松坂大輔さんも使っていました。
大きな挑戦「渡米」
今、山内さんには新たな夢があります。
世界最高峰、大リーグ市場への挑戦です。
その第1号となったのがこちらの選手。
サンディエゴ・パドレスに所属するドリュー・ポメランツ投手。ダルビッシュ有投手のチームメイトで、防御率1点台の実績もある中継ぎ投手です。
数年にわたる交渉が実り、ようやく大リーガーとの契約が実現しました。夢は膨らむばかりです。
職人たちにとっても大リーガーのグラブ作りは初体験。「必ず満足してもらう」と意気込んでいます。
ある程度縫う前に,、選手が投げている動画を見て、どういうグラブの使い方をするか把握した上で作業をします。選手がグラブを縦に閉じるのか横に閉じるのかなどの調整を行います。
願うは、もちろん…あの選手との投手リレー。
(パドレスで)ダルビッシュ投手が先発で投げて、その後にポメランツ投手が投げるというところがぜひ見たいですね。そのときにうちのグラブを使っていたら、本当に感動ですよね。
夢は膨らむばかりです。
小さなメーカーのビッグな挑戦。宮崎生まれのグラブが
世界の舞台でデビューする日はもうすぐです。
今まで築き上げたこのグラブづくりを宮崎の産業にするのが目標です。また、アメリカでも「和牛グラブっていうのが入っているぞ」と話題になり、アメリカのいろいろな州で和牛グラブがはやったらいいなと思います。お店を初めて丸20年、メーカーとして次の発展に向けての20年を頑張っていきたいと思っています。