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高千穂から世界へ! 原木しいたけの販路を切り拓く経営者

  • 2023年02月13日

宮崎県で生産が盛んな原木栽培のしいたけ。スーパーでよく見かける菌床栽培のものに比べると価格は高いものの、食感がよく、うまみが豊かで人気があります。この原木しいたけを生産者からすべて買い取って販売する会社が高千穂町にあります。新たな販路を開拓しようと、海外輸出に乗り出すユニークな経営者の奮闘を追いました。

かぶり物?何者?実は、経営者です

記者に囲まれて取材を受ける、こちらの男性。

突然うしろを向くと。かぶり物をして、しいたけのPRを始めました。栽培地を案内する際にも。

男性の名は、杉本 和英さん。しいたけ農家ではありません。ある会社の経営者です。

杉本さんの会社は高千穂町にあります。ここには、地域の農家が次々とやってきます。

自分で育てて乾燥させた原木しいたけを持ち込むためです。これを買い取って販売するのが杉本さんのビジネスです。

農家の女性が向かったのは、事務所の窓口。しいたけは、その場で査定され、現金で買い取られます。

この地域では、クヌギの原木を使ったしいたけの栽培が伝統的に行われてきました。寒暖差が大きく、湿気が適度な森の中で自然のままに育った原木しいたけ。食感がよく、うまみも豊富で、「山のアワビ」とも呼ばれています。

会社では70年近く前の創業以来、農家が持ち込むシイタケを原則すべて買い取ってきました。そうすることで信頼関係を築いてきました。

杉本さん

農家は自分たちで作っているものをできるだけお金に換えたい。その思いをできるだけ形にしようとしている。

海外に販路を 突破口は"ビーガン"

買い取ったしいたけは、ここでパッケージ化され、全国に出荷されてきました。しかし、近年は国内での需要低迷に直面しています。買い取り続けるため、いかにして売るのかに頭を悩ませるようになりました。

杉本さん

僕たちは、生産者が持ってきたものは全部買いますと約束してやっているので、(需要が)少なくなったので少なくしか買えませんという言い訳は通用しないじゃないですか。そうすると、減った分を何かで補わなければいけなくて。

そこで7年前から活路を求めたのが、輸出です。海外の展示会に出展するなどしたものの、当初は、ほとんど引き合いがありませんでした。

そんな中でも、ある突破口が見つかりました。ドイツのイベントで、肉や乳製品などを一切口にしない「ビーガン」と呼ばれる人たちがしいたけに興味を示したのです。

杉本さん

ビーガンという人たちがいるということと、ビーガンの人たちがやたらにしいたけに興味を持つことが分かった。

その後も欧米のイベントでは、原木しいたけの肉のような食感やうまみが高く評価されました。海外での売り上げは年々増え、今では会社全体の1割に達しています。

さらに今、新たにターゲットにする国があります。インドです。宗教的な理由などから肉を食べない人が3億人を超え、世界で最も多いとみられています。

去年11月には、国の支援を受け、現地の日本大使館が開いた和食フェアに参加。

インドの国民食のカレーにしいたけを入れて振る舞うと、非常に好評でした。今後、有望な販路になるという手応えをつかんでいます。

さまざまな知恵で担い手不足を解消する

海外に販路を広げるため力を入れていることが、もうひとつあります。どのようにしいたけが作られているのか、情報を発信することです。収穫の様子などを撮影し、インターネット上で積極的に公開しています。

杉本さん

これが一番、みんなが見たくて見られないからですね。たぶん外国の人たちに興味を持たれるのは、やっぱり、どんな人が作っているかっていうところなんですよね。

原木しいたけの生産者は高齢化が進み、減り続けています。杉本さんは海外に販路を広げることが新たな担い手の確保につながると確信しています。

杉本さん

外国の人たちがこんなに魅力を感じて買っているよとアピールしながら、今度はおれも、ちょっと作ってみたいなと、やってくるのを待っているというか、まだまだこれから作っても大丈夫だというところを見せながら新しい担い手を見つけていかなければいけない。僕たちも力及ばずですけど、世界中に魅力を伝えていきたいなと思います。

取材後記

柳原記者

初めて取材をした時、かぶりものなんかして、いったい何者なんだろうかと思いましたが、取材を通じて、高千穂の原木しいたけをなんとか守っていきたいという熱意をヒシヒシと感じました。

滑川アナ

何戸ぐらいの農家が杉本さんの会社にしいたけを持ち込んでいるんでしょうか。

柳原記者

高千穂町や日之影町、それに隣の熊本県の農家、合わせて650戸ほどがしいたけを持ち込んでいます。原則すべて買い取ってもらえるという安心感から長年取り引きする農家が多く、中山間地域に住む人たちの貴重な収入源になっているようです。

柳原記者

一方で、生産者の高齢化が進み、担い手の確保が大きな課題となっています。このため、杉本さんは作業の負担を減らすためのアシストスーツを農家などに貸し出して使ってもらう実証実験を行っています。ほかにも、障害者の就労支援施設に伐採した原木を提供し、利用者の人たちにしいたけ栽培を担ってもらう取り組みも進めています。

滑川アナ

担い手の確保に、いろいろと知恵を絞っているんですね。一方、食品の海外輸出という面でも、県内の先駆者と言えそうですね。

柳原記者

杉本さんの会社は食品輸出に意欲的に取り組む模範的な企業として国から認定されています。私が取材していた時にも、取り組みを参考にしようと、ほかの企業の経営者が相談に訪れていました。

放置竹林の竹をメンマに加工して販売している延岡市の会社の経営者。ラーメンなどの和食人気の高まりで輸出を検討しているため、杉本さんからアドバイスを受けていました。

江原さん

海外展開を進めている中で、どこがツボなのかっていうところがまだまだ模索中です。本当にいろんな経験をされている杉本さんに教えていただきながら、もっと拡大させていきたい。

日本の農林水産物と食品の輸出額は去年、過去最高の1兆4000億円に上りました。農業県の宮崎県は今後も海外に販路を拡大できる余地は大きいです。杉本さんのような創意工夫で海外に打って出ようという人たちの取り組みを今後も伝えていきたいと思います。

  • 柳原 章人

    宮崎コンテンツセンター

    柳原 章人

    前任地は上海支局。日本語(関西弁)、英語、中国語の3か国語を話せます。

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