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宮崎名物/ご当地グルメ「天ぷらうどん」なんで魚のすり身?

  • 2022年10月20日

「宮崎の食・グルメ」といえば、チキン南蛮・地鶏・冷や汁などがありますが、今回のテーマは「うどん」。宮崎はプロ野球キャンプなどでスポーツ選手・著名人などにもファンがいる隠れたうどんの聖地なんです。
宮崎赴任6年目。静岡出身で「うどん」といえば「さぬきうどん」で育った記者が、宮崎独自に進化を遂げた「天ぷらうどん」の謎を取材しました。

うどん大好き・松井記者(筆者)

はじまりは視聴者からの質問

宮崎では「天ぷら=まる天」が当たり前ですが、県外出身の友だちは天ぷらうどんを頼んで「まる天」が出たきたことに驚いてました。全国的には「天ぷらうどん=まる天うどん」じゃないの?

私は大のうどん好き。「さぬきうどん」を食べるためだけに香川県を訪れたこともあります。朝ご飯は、ほぼ毎日がうどんで、宮崎でも色々なうどん店に行ってきました。この視聴者からの質問に答えられるのはきっと私しかいないはずと思い、「天ぷらうどん」の歴史を調査開始です。

まずは本当にそうなのか?宮崎の人に聞いてみることにしました。

「宮崎の人は天ぷらって言うやろね。天ぷらうどんで、えび天がのったやつが出てくるとは思わない」
「えび天がのったやつは天ぷらうどんじゃなくて、えび天うどん」
(県外から引越してきた人)
「えび天だと思って天ぷらうどん頼んだのにこれだったから、宮崎はすごいなって思いました。これが天ぷらなんだって」

宮崎市で聞いてみたところ「すり身揚げがトッピングされたうどん=天ぷらうどん」と認識をしていた人は20人中15人。その割合は驚きの75%となりました(調査には県外出身の人も含まれます)。

みなさんは店のメニューにある「天ぷらうどん」を注文したとき、どんなものが目の前に現れると思いますか?

うどん店に聞いてみた

しかし、なぜ「天ぷら=魚のすり身揚げ」なのか、謎は深まるばかり。答えまでの道のりは、九州しょうゆのようには甘くないようです。謎を解く鍵を求めて、まず向かったのは90年の歴史がある老舗うどん店です。

お店に入ると、お客さんが次々に注文するのは「天ぷらうどん」。確かに大人気。私もそんな人気の天ぷらうどんを頼んでみました。もちろん、魚のすり身の揚げ物が上にのっています。おなかがすいていたので何も気にせずあっという間に完食。おいしくいただきました。ごちそうさまでした。さて、午後の仕事も頑張ろう。

…ではなく、取材に来ていたんでした。気を取り直してお店の人に天ぷらうどんの謎を聞いてみました。

奥野千枝子さん(老舗うどん店の2代目)
そのルーツはよく分からない。私の小さい頃から、お魚のすり身の天ぷらが天ぷらうどんだったから。

歴史ある店の2代目でも分からない謎に迫ることができるのか。こうなったら体力勝負。宮崎のうどん店を巡りに巡りました。「天ぷらうどん」を食べ続けては話を聞くこと10日間。どの店でも有力な手がかりは見つけられませんでした。

たどり着いたのは「うどん学会」

「うどん」に専門家はいないのかと調べてみると「うどん学会」という団体を見つけました。この団体なら宮崎の「天ぷらうどん」の謎を解き明かしてくれるはずと思い早速取材。答えてくれたのは、岡山学院大学の准教授で食品の加工を専門で研究している学会の副会長の津村哲司さんです。

津村哲司さん(うどん学会・副会長)
「天ぷらうどん」ですり身がのったのは見たことないですもんね。そんなのはないなというのが正直なところなんです。その理由はわたしにも分かりません。

取材は進めるも、答えには近づけません。しかし、私も10日間で20杯近くの「天ぷらうどん」を食べてきました。これまで取材してきた情報を津村さんにぶつけるとみると意外な答えが返ってきました。

津村哲司さん(うどん学会・副会長)
うどん屋さんを始める段階で、衣をつけた天ぷらがそんなに食べられていなかった可能性はありますね。昔から食べてたのがすり身の天ぷらで、当然それを天ぷらうどんとして出したと。
その後、衣をつけた天ぷらが一般的になってきて、その天ぷらをのせて提供したときに、苦肉の策じゃないですけど、宮崎では海老天とかそんな名前をつけた可能性も考えられるかなと思います。あくまで昔から食べられてたのはすり身の天ぷらということじゃないんですかね。

なるほど。老舗のうどん店2代目の奥野さんもこんなことを話していたのを思い出しました。

奥野千枝子さん(老舗うどん店の2代目)
昔のメニューはそれこそ、天ぷらと卵とわかめうどん。それぐらいでメニューも本当に少なかったんですよ。お客さんもよく天ぷらうどんを頼んでいましたし。安くて手軽に手に入るし宮崎はお魚のすり身の天ぷらがなじんでいると思うんですよね。

1つの答えが見えてきたような気がします。

つまり、
1.宮崎では魚のすり身揚げのことを昔から天ぷらと言っていた
2.「天ぷら+うどん」だから「天ぷらうどん」とうどん店が提供。
3.人気を集めて定番メニューに。
こうして、天ぷらうどんは、いつしか「宮崎の常識」になったのではないかと考えられます。

宮崎うどんと川端康成

答えも出たので、今回の取材もここで終わりといいたいところですが、この「宮崎の天ぷらうどん」がかの文豪も驚かせたというエピソードがあるのです。その文豪が残した言葉はこちら。

「おやおや、これは天ぷらじゃありませんね。安いと思いましたよ。うまいじゃありませんか」
その文豪とは「伊豆の踊子」などで知られる川端康成です。

60年近く前に創作のための取材で宮崎を訪れた川端康成は「うどんを食べたい」と地元の人に伝えたそうです。

地元の人は「店は汚いですがとてもおいしい店と、味は少し落ちるがこぎれいな店どちらにしましょうか?」と投げかけます。すると川端康成は、間髪をいれず「あなたはおかしなことを言いますね。うどんを食べに行くのでしょう。おいしい方に決まっているじゃありませんか」と答えたそうです。

こんな川端康成の人柄をうかがえるやりとりのあと、向かったうどん店で注文したのが「天ぷらうどん」。そして、その天ぷらと宮崎のうどんのおいしさに驚いたようです。このエピソードを昨日のことのように語ってくれたのは、このとき川端康成をうどん店に連れて行った渡邊綱纜さんです。当時の様子を「夕日に魅せられた川端康成と日向路」という本にまとめています。

渡邊綱纜さん
おそらくあのとき、川端先生は汁を一滴も残さなかったと思います。最後の一滴まで食べて、とてもおいしかったと言われましたので、私もほっとしたんです。天ぷらうどんを川端先生と一緒に食べ、しかも本人がおいしそうに食べてくれたというのは私にとって大変な財産ですよ。心の財産。ちょっと大げさですけど。

宮崎の天ぷらうどんを巡っていたら、いつの間にか川端康成にたどり着いていました。文豪のエピソードにふれ、これまで宮崎の天ぷらうどんを食べてこなかったことを後悔しました。宮崎のグルメ、美味しいものはたくさんありますが、天ぷらうどんもまた、とても魅力的な背景がある地元グルメだとわかりました。

もし、エビの天ぷらがのった天ぷらうどんだったら、川端康成の人柄を垣間見れる逸話は生まれなかったと思います。

  • 松井嚴一郎

    宮崎局・記者

    松井嚴一郎

    うどんが大好き。宮崎生活6年目。

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