宮崎日南線 秘境駅の名物! 謎の路面電車? 土橋アナ列車旅②
- 2022年10月24日

川南駅から串間駅までの列車の旅。パート2は油津駅で乗り換えてさらに南を目指します。鉄道愛好家などに人気のユニークな駅でも途中下車しますよ。
2022年9月の台風14号の影響で、執筆時現在、日南線は南郷~志布志間が不通となっています。JR九州によりますと、被災した場所は鹿児島県内ですが、折り返し運転を行うための設備がないため、南郷止まりとなっているということです。
(前回のつづき)
今回私が乗っているのは、午前9時10分に宮崎駅を出発する日南線各駅停車の油津行き。2両編成の列車は、海岸線の景勝地「鬼の洗濯岩」や緑豊かな山間を駆け抜け、10時31分終点油津駅のホームに滑り込みました。
日南線の油津駅といえば、そのユニークな駅舎で知られています。「赤ヘル軍団」プロ野球・広島カープのキャンプ地の最寄り駅ということで、駅舎がカープカラーに塗られているのです。
ド派手な外観と比べ、改札の中はというと・・・のんびりとした時間が流れるローカル駅でした。


ここで、さらに志布志行きに乗り換えです。エンジンの音を響かせながら、いざ出発進行!


山の中の人気駅!? で途中下車
油津駅を出て約20分。山間の小さな駅「榎原(よわら)」で途中下車することにしました。というのも、この駅は、旅人や鉄道愛好家の間ではとても有名な駅だと聞いたからです。

列車が行ってしまうと、鳥のさえずりと虫の鳴き声だけが聞こえる静寂な世界が広がります。この駅に止まる列車は上下合わせて1日16本しかありません。踏切のような通路を渡って、三角屋根のレトロな駅舎に向かいます。屋根を支えている柱は、よく見ると、古いレール!昭和23年から27年ごろに建てられたのではないかと推定されています。


キャラの住む駅!?
さて、この駅を有名にしているというモノを見つけに、無人駅の改札を通りぬけて待合室へ向かいます。

壁を見回していると・・・ありました!榎原駅の名物、駅のキャラクターの「ひなもりよわら」(通称よわらちゃん)のポスターです。

よわらちゃんが駅に登場したのは、今をさかのぼること20年、2002年のことでした。宮崎市在住の作者「よろづのかるみ」さんは、榎原駅の三角屋根の独特の建物や箱庭のような景色に魅力を感じ、当時流行っていた「駅ノート」を置こうと考えました。もともと鉄道とイラストが好きだったという「よろづのかるみ」さん。「もっと多くの人にこの駅に来てほしいと思ってキャラクターを考案しました。最初は駅の近くに榎原神社があることから、巫女さんをモチーフにしたイラストでしたが、しだいに想像が膨らみ、最近は『日南線にこんな駅員さんがいたら面白そうだな』という気持ちで新作を描いています」と話します。


駅ノートにあふれる榎原駅への思い
待合室の一角に、その「駅ノート」が置かれていました。次の列車までは、2時間半以上あります。旅人たちが綴った文章をじっくり読ませて頂きました。
まず驚いたのは、訪れた皆さんの住む街です。「愛媛から」「名古屋から」「群馬から」全国各地から、大勢の人がこの小さな駅を見るために訪れているのです。最近では、スマホを使った駅を巡るゲームの愛好者の訪問も多いそうです。

そして、認められた文面。「昔懐かしい気持ちにさせてくれました。いつまでも残ってほしいものです」「(2021年の大雨の)復旧に携わった方々への感謝の思いを感じました」書き込みはどれもやさしさにあふれています。この駅のたたずまいが、こんな感情をわき起こさせるのかもしれません。



列車の旅は"タイムトラベル"
小さな駅の大きな魅力を感じたところで、旅の再開です。遠くからカタンコトンというレールの音が響いてきました。次第にその音が高まり、ヘッドライトつけた気動車が姿を現します。志布志行き「快速日南マリーン」に乗りこみ、串間を目指します。

今回の旅で乗ったのは、どれも40年以上前に製造された車両です。今になっては固めの座席。窓の横には帽子や上着をかけるフックが。そして天井を見上げると、扇風機も回っています。
無心に眺めていると、父母に手を引かれて旅した懐かしい記憶が、リアルによみがえってきました。「売店で冷凍ミカンを買ってもらったなぁ」「このフックに亡き父が忘れ物をしたなぁ」「窓から帽子が飛んでいったなぁ」(笑)しばし思い出に浸り、楽しい時を過ごしました。


串間になぜか〇〇電車・・・?
川南を出て6時間半。いよいよ最終目的地、宮崎県最南端の串間市にある「串間駅」に到着です。

実は駅前に、もう1つ鉄道にまつわる見どころがあるということです。駅を出て散策してみると、あるはずのないものを発見!「路面電車」です。鹿児島や熊本と違って路面電車が走っている町のない宮崎県。おそらく宮崎県内で見られるのはここだけではないでしょうか?

この電車は串間に鉄道を通すことに力を尽くした地元の名士・吉松忠敬の功績にちなんで、町おこしの一環として設置されました。本当はJRの車両を買いたかったそうですが、値段が高すぎたため小ぶりな路面電車になったとか。
もともと広島の町を走っていたという電車。まさか南国の景色の中で余生を過ごすとは思っていなかったでしょうね。長く総合案内所として利用されてきましたが、道の駅のオープンに伴い案内所が移転し、現在今後の使い道を検討しているということです。

というわけで、宮崎を列車で縦断した今回の旅、いかがでしたでしょうか?。新たな発見があったり、物思いにふける時間があったり、鉄道に乗ったからこその素敵なひとときを過ごすことが出来ました。日南線は、取材後の2022年9月の大雨で被災し、南郷~志布志間が不通となっています。再びご紹介したような旅が出来る日が来ることを願っています。

旅を終えて・・・
串間駅の壁に子どもたちの絵が飾られていました。次の世代に鉄道や駅への親しみを深めてもらおうと募集した絵画です。

JR九州が公表している令和2年度の利用状況によると、日南線は田吉と油津の間が約5億6900万円、油津と志布志の間が約3億9800万円の赤字となっています。県や沿線の自治体は「乗って残そう」と利用促進を図っていますが、特に油津~志布志間は1日あたりの輸送量が171人とJR九州の路線の中で2番目に少なくなっています。2022年7月、国の検討会は利用者が一定の水準を下回る路線はバスなどへの転換も含め協議を進めるべきとする提言をまとめています。地域の足は今後どうなっていくのか、今回の取材旅行は改めて考える機会にもなりました。
