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夏祭りに響く「エイサー」宮崎のリトル沖縄・波島がドラマ化

  • 2022年08月19日

宮崎市の波島を舞台にしたラジオドラマ「HOME~宮崎の中の故郷(オキナワ)~」が8月20日(土)午後10:00~NHK-FMで全国放送されます。

出演は主人公の祥太役に名村辰さん、祥太の祖母で若き日のトミを演じるのは、日向市が舞台となった宮崎発地域ドラマ「ひなたの佐和ちゃん、波に乗る!」で主演を務めた池間夏海さん。ドラマの鍵を握るタケルを演じるのは津嘉山正種さんです。ドラマの見どころならぬ、聴きどころをお伝えします。

物語のあらすじ
戦時中、沖縄から宮崎に疎開してきた人々によって作られた“リトル沖縄”を舞台にしたドラマ。
人生の失敗を恐れ、仕事で成功することを至上命題とする25歳の祥太(名村辰)の元に宮崎の祖母トミの訃報が届いた。東京から宮崎に行くのすらタイムロスだと感じながらも渋々葬儀に参列。すると見知らぬ老人から態度をいさめられることに。その老人、タケル(津嘉山正種)は戦時中に身寄りを亡くし、宮崎市の波島地区にトミと共に疎開してきたという。自分には関係ないと聞く耳を持たない祥太。ところが、タケルが弾く三線の音に耳を傾けると、次第に景色が変わり…。祥太は1952年の波島に迷い込む。そこには、若き日のトミ(池間夏海)がいた―。

宮崎市の波島地区とは?

物語の舞台は宮崎市にある波島地区。ここはかつて「リトル沖縄」と呼ばれていました。太平洋戦争末期、沖縄での地上戦を逃れるため、多くの人がこの地に疎開。肩を寄せ合いながら生き抜いた歴史があります。

地区の公園には50年前の沖縄の本土復帰の際に植えられて地域のシンボルとなっている木もあり、お盆の時期にはこの公園で「波島まつり」が行われています。沖縄にルーツを持つ人たちでつくる同好会のメンバーが沖縄の郷土芸能「エイサー」を披露すると、周りの人たちも一緒に踊って夏の夜を盛り上げます。宮崎の「リトル沖縄」に響く沖縄のエイサーは、戦後70年以上たった今も受け継がれ、先人たちの思いを少しずつ引き継いでいこうという覚悟を感じます。

疎開したトミを演じた池間夏海さん

主人公の祥太はタケルが奏でる三線をきっかけに1952年の波島へタイムスリップします。そこで若き日の祖母・トミに出会い、戦争で故郷を奪われながら、人々と助け合い、たくましく生きる姿を目の当たりにします。

池間夏海さん(トミ役)
トミさんは戦争というとても辛いことを経験しているから、より小さな幸せを大事にできる人だと感じました。当時、日本中で沖縄から疎開した人々への差別があるなかで「悪いこともあったけど、そればっかりじゃなかったよ」というトミさんのセリフにはとてもたくましさを感じました。良いことも悪いことも人と人のつながりで乗り越えていくトミさんや波島の人々の姿が印象的です。

池間さん自身は沖縄出身で、学校の授業などで戦争について学ぶ機会が多かったと言います。そのうえで、沖縄の本土復帰50年という節目に、若い世代同士であっても戦争という恐ろしいことがあったことを伝えていくことが大事だと感じています。

“今”を生きる祥太を演じた名村辰さん

東京のメガバンクに勤める25歳の祥太は自分の損得を優先する性格で、波島で行われる祖母の葬儀にも渋々参加するほど。祥太を演じる名村さんも東京で暮らしていて、人に対して温かみを感じることが少なかったり、独りぼっちだなと感じることがあると言います。

名村辰さん(祥太役)
台本を読むまで戦争は自分とは関係ないと感じる部分もありましたが、祥太を演じて当時の波島に触れることで、すべて2022年の今につながっているのだと感じました。疎開した沖縄の人たちが悲しみや楽しさを共有できる場所として「波島」という居場所があった。そういう誰にでもある居場所やふるさとを感じるドラマになりました。

幼いころに沖縄戦を経験した津嘉山正種さん

タケル役を演じたのは津嘉山正種さん。かつて祥太の祖母・トミと波島で暮らしておりタケルが奏でる三線をきっかけに祥太が1952年の波島へタイムスリップするという物語の重要な役どころです。

津嘉山正種さん(タケル役) ドラマを通して伝えたいメッセージ
今起こっているウクライナの戦争もそうですが、どうして人は争い事ばっかりするのだろう。平和のことであるとか、人が人として生きていけるってのはどういうことかを感じてほしい。

そして、津嘉山さんは沖縄の本土復帰50年という節目についてもこう語りました。

津嘉山正種さん(タケル役)
「復帰50年」今あちらこちらで50年という声が聞こえてきます。ただ、50年だから何だ?という声はほとんど聞こえない。来年になったらこのけん騒も何て事なく収まるはず。きっと。そして、51年目が始まります。そんな形で過ぎてきた50年。ただの節目。空虚感だけが漂う復帰50年。せめてこの空虚感を吹き飛ばすきっかけに本作品がなればと思います。

制作スタッフからのメッセージ

新井まさみさん(脚本家)
今年5月に波島へ取材に行きました。戦中戦後、沖縄からの疎開者が何を食べていたか、どんな娯楽があったかなど、日々の暮らしの細部を脚本に反映させました。取材を通じて感じたことは、「ナイチャー(内地の人)には負けたらいかん」と団結し、沖縄の文化・風習を大切に守ってこられた波島コミュニティーへの憧れの念です。昔はどこにでも濃密な地域コミュニティーが存在し、近所の人はみな顔見知りで、だいたいが味方でした。かといって、適度なプライバシーのある生活を手放す気はないのですが、助け合いの精神は大人が子どもに伝え、養っていかないとすたれてしまうかもしれません。

尾崎達哉(演出・NHK宮崎)
私が宮崎に赴任した4年前、最初の仕事でたまたま訪れた場所が波島でした。その時、初めて宮崎の中に“沖縄”があることを知りました。戦争により理不尽に故郷を奪われるという悲しい過去を持ちながら、その悲しみを笑顔に変える方々の顔が鮮烈に自分の胸に刻まれたのを覚えています。そして沖縄本土復帰50年の今年、この町の歴史をこの町で生きてきた人々の強さを「ただの過去」にしないため何か残せないかと考え、ドラマを制作するに至りました。
主人公の祥太と共に1952年の波島に迷いこみ、「人を信じること」「人を許すこと」そして「自分を許すこと」、人々が本来持つ「尊さ」を感じて頂けたらと思います。

放送は8月20日(土) 午後10:00~10:50(全1回)<NHK-FM/全国>です。放送後1週間は聴き逃し配信があります。
番組HP:https://www.nhk.jp/p/rs/M65G6QLKMY/
聴き逃し配信(らじるらじる):https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=0058_01

【作】新井まさみ 【音楽】種子田博邦
【出演】名村辰 池間夏海
    山﨑遼太郎 小貫薫 田中冨士夫 牛島大明
    久保留凛 玉城匠 かみもと千春 道上美璃
    津嘉山正種

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