長く閉ざされていた宇宙飛行士への扉がいま、開こうとしています。
JAXAは実に13年ぶりとなる宇宙飛行士選抜試験の実施を発表。
これまで不定期に行っていた募集を、今後、5年おきを目安に実施していくとも発表しました。

さらに、これまでいわゆる理系出身者にしか応募資格がなかった試験は、今回、"学歴不問”に。より多様な人がまず最初のスタート地点に立てるようになったのです。新たな宇宙時代を担う宇宙飛行士には、どんな人が選ばれるのか。
(放送2021年12月16日)

【JAXAが掲げた“学歴不問”】

11月19日、JAXAは新たな宇宙飛行士選抜試験の詳細を明かしました。
今回JAXAが掲げたのは“学歴不問”。

応募条件は分野問わず社会人に相当する3年以上の実務経験と、身長や視力、聴力などの一定の身体的条件のみです。

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前回13年前の試験と比べると、自然科学系の分野での学歴や職歴の条件が撤廃され、文系でも応募が可能になりました。
JAXAは、学歴や職歴を応募の前提とするのではなく、選抜の過程で行われる試験で知識を問うことにしたのです。
さらに、身長制限も大幅に緩和。前回は、若い世代の日本人女性の平均身長とされる158センチ以上となっていたのが、今回からは149.5センチ以上になりました。
女性を含め、より多くの人が宇宙飛行士に応募できるようになったのです。

これまでJAXAが採用してきた宇宙飛行士は全部で11人。
歴代の宇宙飛行士は、技術者や医師、パイロットなどがその大半を占めてきましたが、今後は学歴も職歴も関係なく、より多様な人材が宇宙飛行士を目指すスタート地点に立てるようになりました。

そこにはJAXAの狙いがあります。

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「一番の狙いはたくさんの人に応募していただいて、たくさんの人の中から本当に優秀な人材を選んでいこうということです。前回までの募集だと、理系の大学卒という条件を設けていたがために、それを満たさず、門前払いのような形になってしまった人の中にたくさんの優秀な方がいたと思います。今回は隠れた素晴らしい素質・資質を持った方々に応募していただいて、その中からJAXAが次の世代の宇宙飛行士を選びたいと思っています」(宇宙飛行士 油井亀美也さん)


【待ち望んでいた文理不問】

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今回の募集に応募することを決めている藤永嵩秋さん(30)です。
文学部出身で、建設現場で施工管理の仕事をしています。

今回、文系にもチャンスが広がることを心待ちにしていました。

「今までは、理系を選択した人のみが目指せる道でしたが、自分のように文系に進んで、その後途中で自分の興味関心が分岐していく中で、宇宙の分野に関わってみたいと思うようになった人に初めて門が開かれることになりました。ついにきたなというか、時代が動き始めた瞬間だと思います。JAXAがやっと重い門を広げてくれたこと、これには大きな意味があると感じています」(藤永嵩秋さん)

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昔から、スキューバダイビングやスカイダイビングなど、とにかく「飛び込む」ことが好きだった藤永さん。
2年前、ふと空を見上げたのが“宇宙”を意識し始めたきっかけでした。

「今まで飛び込んでいくのが好きでしたが、宇宙に飛び込んだことないよな、と思いました。好奇心で宇宙に飛び込んでみたいと思ったのが、いちばん最初の単純なきっかけです」(藤永嵩秋さん)

これを機に、宇宙飛行士を目指している人が集まるコミュニティーに参加した藤永さん。
宇宙についてより深く調べていくうちに、誰でも宇宙に行ける時代への発展を支えていきたいと考えるようになりました。

夢の実現を目指して、いまは、選抜の過程で行われる自然科学系科目の試験勉強に打ち込んでいます。

「もし自分が宇宙飛行士になったら、自分みたいな文系でも宇宙飛行士になれたよというのを多くの人に見てほしいです。
 大目標は誰でも宇宙に行ける時代をみんなで作っていくこと。みんなで宇宙に行こうよと、その可能性を引き出す1人の存在になれたらうれしいです。潜水と施工管理という2つを合わせた1人の人材として、堂々と飛び込んでいきたいと思っています」(藤永嵩秋さん)


【身長制限の緩和に安ど】

高校生のうちから、宇宙飛行士の試験を受ける準備を始めている人もいます。

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高校2年生の藤本萌歌さん(16)です。
今回、身長の制限が大幅に緩和されたことに安どしたといいます。

「前回は、158センチまでしかだめで、私が今158.6センチなので、もう縮むと終わりみたいな瀬戸際にいました。
 今回の試験では、149.5センチまで下がったので本当にほっとしました」(藤本萌歌さん)

物心ついたときには宇宙の魅力に惹かれていたという藤本さん。
高校では天文部に所属し、いまは、宇宙を舞うチリ、“宇宙塵”について研究しています。

この夏、宇宙の起源に迫ろうと、大きなバルーンの実験装置の打ち上げに挑戦しました。
実験ではバルーンを成層圏まで飛ばし、チリを採取することを計画。

採取するための機体の部品は、自分たちで設計し、3Dプリンターで印刷。
カメラやGPS、モーター、そしてヒーターなどを組み込みました。
帰還用のパラシュートも自作して、実験を繰り返しました。

そして、ことしの夏休み。北海道まで足を伸ばし、ついに打ち上げました。

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残念ながらチリの採取はできませんでしたが、バルーンに取り付けたカメラが地球の輪郭を捉えていました。

「自分たちの手でここまでいけたんだと、ずっと余韻に浸っていました。本当にうれしかったです」(藤本萌歌さん)

遠いと思っていた“宇宙飛行士”への夢は、今回のJAXAの発表でぐっと現実に近づきました。

「宇宙は自分の将来そのものです。(13年ぶりの募集で)今回大きな指標というものができてくれたので、それに向かって頑張っていくだけかなと身を引き締めているところです。宇宙というものが“宇宙飛行士なんて無理だよ”ではなくて、気軽にいろんな人が目指せて、いろんな人が切磋琢磨できるような世界観になるとうれしいです。今回エントリーシートも書いてみようと思っていますが、自分がいまどんな能力を持っているのか、どういう気持ちで宇宙飛行士に臨んでいるのかを洗い直すいい機会だと思うので、それをうまく活用して自分と向き合いつつ、いろいろな能力を向上させていきたいです」(藤本萌歌さん)

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2人目の女性の日本人宇宙飛行士として活躍した山崎直子さんは、女性も含めて、宇宙でより多様な人材が求められていることの意味をこう話します。

「今までは“宇宙船ありき”で宇宙船に合わせた人を選ぶという時代でしたけれども、これからは多様な人が宇宙で活動できるようにするにはどうしたら良いか、(宇宙船の)設計の方に生かしていくフェーズになっています。そのためにはまず、知見が必要です。例えば、従来、アジア人女性のサンプルはとても少なかったですが、そうした多様な人が宇宙に行くことで、からだがどう変化するのか、どうすれば使いやすい宇宙船になるのかなど、さまざまな知見を蓄積することができます。そうした多様な知見の積み重ねが将来につながっていくと思っています。文理関係なく、これから自分でいろいろ学べるという伸びしろがある方、意欲がある方であれば大丈夫で、こんな人材がいいとかこんな人材が正解だと最初から決まっている訳ではありません。いまJAXAに足りないことを、どういう形で皆さんが高めてくれるかな、補ってくれるのかなというのを考えながら、一緒に対話しながら選考が進められていくと思います。なので、一緒に成長していけるような、そうした人がいて下さったら心強いと思います」(宇宙飛行士 山崎直子さん)

JAXAはおよそ1年かけてじっくりと試験を進め、2023年2月ごろに結果を公表するとしています。採用人数は若干名です。

今回の宇宙飛行士選抜試験をきっかけに、より多くの人の関心が宇宙に集まり、“誰でも宇宙に行ける時代”がさらに近づくことにつながっていくことを期待したいと思います。


取材:平山佳奈 記者

 

 

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