茨城県で7月4日、5日に行われた聖火リレー。
常陸太田市の聖火ランナー、井上峰子さんは、ポケットに父の写真を忍ばせて走りました。

「本物の聖火リレーを走ったと父に報告したい」と語っていた井上さん。
「本物の」に込められた思いを取材しました。

【村に聖火は来ないけれど】

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聖火ランナーを務めた井上さんの父、佐川武弘さんは、前回の東京オリンピック当時、常陸太田市に合併する前の旧里美村の村長でした。

前回の東京オリンピックでは、山あいのこの地域には、聖火リレーは来ませんでした。
「オリンピックの盛り上がりを、みんなで感じたい」
そこで佐川さんは、村独自の聖火リレーを行おうと考えました。

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ギリシャで採火された聖火に代わり、太陽光を虫眼鏡で集めて採火。
小学生から20代までの若い世代、16人がランナーとなって20キロあまりを走り、沿道からは多くの人たちが声援を送りました。

その様子は、この地域を舞台にしたNHKの連続テレビ小説「ひよっこ」でも描かれました。

【思い出は「本物」】

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独自の聖火リレーは、今も地域の人たちの記憶に残っています。

ランナーを務めた菊池竹一さんは、当時、小学6年生でした。
ランナーを応援しようと集まった、地域の人たち。
その盛り上がりに、菊池さんはドラマ「ひよっこ」を見るまで、自分が走ったのは本物の聖火リレーだと信じていたと笑います。

「結婚する時も、『聖火リレーのランナーとして走ったんだよ』って言っていたんです。『ひよっこ』を見ていたら、村独自の聖火リレーをやったという話があって、そこでようやく気が付いたんです。ああ、あれは村独自だったんだ、オリンピックじゃなかったって」(菊池竹一さん)

井上さんも、父の佐川さんから、繰り返しこのリレーのことを聞かされていました。
「晩酌をした時なんかはね、ちょっと自慢げな顔して、村独自でリレーをしたんだよって何回も繰り返し話していました。かつての里美村って小さな村なんですけど、小さくても、私はここにいるぞっていう感じで、やっぱり、夢があったのかなって思います」(井上峰子さん)


【ついに聖火がやってくる!】

あれから60年余り。
今回の東京オリンピックでは、この地域でも、聖火リレーが行われる事になりました。

独自のリレーにかけた、父の地域への思いを知る井上さん。
地域を盛り上げたいという父の思いを受け継ごうと、ランナーに応募しました。
「なかなか連絡が来なくてもう半分諦めていたんですけれど、ランナーに選ばれたと電話があったときは本当にうれしかったです。この地域も過疎化が進み、子どもたちもいなくなり、ちょっと寂しいですよね。この地域が大好きだから、このまま昔の温かみを忘れないで、少しずつでもいいから明るい未来が見えてきたらいいなと思います。『本物の聖火リレーが来たよ、本物を走ったよ』って、父に伝えたい」(井上峰子さん)

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迎えた当日。
ドラマ「ひよっこ」にも出演した俳優の白石美帆さんから聖火を受け取った井上さんは、竜神大吊橋の上を、笑顔で走り出しました。

橋のたもとでは、独自の聖火リレーを知る地域の人たちが、応援していました。

応援に手を振って応える井上さん。
最後まで笑顔を絶やさず走り抜き、次のランナーに聖火をつなぎました。

「とても感激しました、こんなに感激するとは思わなかった。走る前はとにかく一生懸命、転ばないように走らないとと思っていたんですけど、トーチを持ったからには、あすにつながなきゃいけないので、明るく笑顔で走りました」(井上峰子さん)

【地域の未来につながる光に】

地域は高齢化が進み、かつての活気は失われてきています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大も、暗い影を落としています。

だからこそ井上さんは、この本物の聖火リレーが、地域の未来につながる光になってほしいと考えています。

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「私たちのところは人口が少ないですけれど、少なくても頑張ることができるし、未来はやっぱり明るいんだよって、リレーを見ている人に伝えたい。この聖火リレーによって、絆が前より深まったのかなと思います。トーチを子どもたちに渡して、地域の子どもたちにリレーをしてもらいたいですね」(井上峰子さん)


取材:藤田梨佳子 記者

 

 

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