東日本大震災から10年。
当時、避難所では多くの人が身を寄せていわゆる「雑魚寝」の状態となりました。固い床や厳しい冷え込み。避難所での生活が長期化したことで体調を崩して亡くなる災害関連死も相次ぎました。

非常食や水と同じように、いざという時に備えて、“住まい”も備蓄できないか。
“移動式仮設住宅”という新しい取り組みが広がりを見せている一方、新型コロナウイルスの感染拡大で課題にも直面しています。

“動くホテル”ばらして運べば仮設住宅に

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境町に去年完成した「ホテルスタンバイリーグさかい」です。
キャッチフレーズは“動くホテル”。
コンテナ型の建物約30棟を連結して作っているのです。

災害時には分割してトラックで被災地に運び、建物それぞれが仮設住宅になります。
最大の長所は、設置までのスピードです。
従来の仮設住宅の場合、住み始めるまでに数か月かかりますが、完成した状態のものをそのまま運ぶため、1か月ほどの早さで住み始めることができるのです。

初めて仮設住宅として使われたのは、3年前の西日本豪雨。
その後も北海道の胆振東部地震や、おととしの台風19号、それに去年7月の熊本県での豪雨でも、被災者が入居しました。

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部屋の広さは約30平方メートル。
ベッドや浴室、エアコンが備えられていて、通常の住宅と同じレベルの断熱性もあります。

記者もおととしの台風19号の被災地で仮設住宅として活用されている現場を取材しましたが、室内に入れば外の音も気にならず、エアコンをつければすぐに暖かくなりました。
入居者の中には「買い取って住み続けたいぐらい」と話す人がいるほどでした。

最近は新型コロナウイルスのPCR検査や病院の発熱外来の場として利用されるなど、活用法も広がりを見せています。


普及の鍵は“社会的備蓄”

この移動式仮設住宅が、なぜホテルとして使われているのか。
キーワードは“社会的備蓄”です。

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普及を進めてきた、立教大学の長坂俊成教授は、災害に備えてこの移動式仮設住宅をより多く保管するには、ふだんから別の用途で活用することが重要だと強調します。
「例えば、この移動式仮設住宅を、ふだんは合宿や研修の宿泊施設として活用し、収益を上げてもらいます。それを災害時などのいざという時にはキャンセルして被災地に届ける。そういう考え方が“社会的備蓄”です。」(長坂俊成 教授)

この“社会的備蓄”の考え方のもとに設置されたのが、境町のホテルなのです。
ふだんはホテルとして収入を得ることで、町は、導入にかかった費用を回収できます。
自治体の負担を軽くすることで全国各地に移動式仮設住宅の導入が広がれば、災害時には被災地に距離の近い自治体から、より早く運びこむことができるようになります。

移動式仮設住宅を開発したメーカーによると、現在、自治体で保管されているのは北海道や茨城県などでおよそ500棟。メーカーは、3年後には1万棟まで拡大したいとしています。

新型コロナで課題も

しかし、新型コロナウイルスが、今後の普及に向けた新たな課題となっています。

境町のホテルが開業したのは去年4月。感染拡大の影響で予約が落ち込み、実際の利用は開業前に見込んでいた10分の1ほどしかありません。
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経営は維持できているものの、この取り組みを他の自治体に広げていくことは難しい状況です。

“社会的備蓄”さまざまな活用を

普及を進めてきた長坂教授は、学校の校庭に建てて学童保育に活用してもらう、企業にテレワークの拠点として利用してもらうなど、さまざまな活用法を考えて自治体や企業に提案しています。

「例えば今、ウィズコロナということで、テレワークのニーズが非常に高まっています。ホテルだけでなくさまざまな用途の施設が、災害に備えた“社会的備蓄”として、いざというときは仮設住宅になることが非常に有効だと思っています。まだまだ知恵、工夫ができると思っています。」(長坂俊成 教授)

地震、水害、火災など、私たちの生活は大きな災害と隣り合わせです。
震災の発生から10年。いざという時に必要になるものを、日頃から社会の中に用意し、活用しておくという「社会的備蓄」という考え方が、ますます大切になりそうです。

取材:田淵慎輔 記者

 

 

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