去年、茨城県内に甚大な被害を出した台風19号。
1階が浸水する被害を受けた大子町の高齢者施設では、早めの判断で入所者全員の命を守ることができました。

しかし、1年をかけて当時の対応を検証すると、被害を受けたことで見えてきた教訓が数多くありました。

【大子町の「命を守った施設」】

大子町の役場のすぐ近くにある、介護老人保健施設「やすらぎ」。
去年の台風19号で一帯が浸水し、1階が床上1メートルほど水につかる被害を受けました。
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施設長の安達栄治郎さんはその日、休みで施設を離れていましたが、入所者を避難させるべきか判断を仰ぐ職員からの電話を受け、全員2階に避難させるよう指示しました。

その後、近くを流れる川が氾濫。夜11時ごろには施設にも水が押し寄せます。

しかし施設では1階にいた入所者37人をベッドごと2階に上げ、夕方までに避難を終えていたため、全員無事でした。

【ノウハウなし 手探りでの復旧】

全員が無事でほっとしたのもつかの間。その後の対応で安達さんたちは苦悩します。
多くの機材が水没し、停電も続くなか、入所者の食事や医療的なケアなどには手探りで対応するしかありませんでした。
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「復旧のノウハウや手がかりとなるもの、そういうものをかなり時間をかけて探したんですね。ところがなかなか見つけることができなかった」(安達栄治郎 施設長)

そこで安達さんたちは当時の対応の検証を進め、被災から1年を前に、そこから分かった多くの教訓を、職員41人の「証言集」と施設が復旧するまでの「報告書」にまとめました。

【証言から見えた課題】

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『役場より高台だから大丈夫』
『建物まで来ないと思い込んでしまいました』

証言集には「ここまで水は来ない」と考えていたという多くの証言が寄せられています。

「私も、おそらく床下ぐらいまでは浸水するかもしれないなと覚悟はしていましたけど、人の命に直接関わるほどの水害になるとは正直言って予測していませんでした」(安達栄治郎 施設長)

実は、この「想定外」には理由がありました。

平成23年9月、茨城県内を襲った台風15号でも久慈川が増水し、大子町で浸水の被害が出ました。しかし、施設までは水が来ず、被害を受けずに済みました。

去年の台風の際、その経験からの安心感が、職員たちの頭にあったのです。

「今度も大丈夫だろうという裏付けのようになってしまっていた。これから気をつけなければいけないことだと思います」(安達栄治郎 施設長)


【想定の甘さ 避難計画にも】

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当時、施設が定めていた避難計画にも、想定の甘いところがあったことが分かりました。

計画では入所者を近くの小学校や高校などに避難させるとしていましたが、施設からは数百メートル以上の距離があり、1人では避難できない入所者を連れて行くには、かなりの時間がかかります。

しかし、車いすの人を乗せられる車は施設に3台だけ。施設と避難所の間を何度も往復しなければなりません。

さらに、寝たきりの人をベッドごと運ぶ車はないため、ほかの施設に借りるか救急車を呼ぶしかありませんでしたが、計画ではこうしたことが考慮されていなかったのです。

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安達さんたちは新たに避難計画を見直し、▼避難は基本的に2階への垂直避難▼施設外への避難は水が引いてからの選択肢にとどめる、としました。

去年の経験から、状況によっては2階への避難のほうが有効だと考えた結果です。


【被害を受けたからこその教訓とは】

多くの反省点が分かってきましたが、施設では災害時の備えをしていなかった訳ではありません。法律で義務づけられている避難計画をあらかじめ作成し、避難訓練も繰り返し行っていました。

ただ、訓練は「施設から外の駐車場まで出るだけ」というもので、実際に車で避難所に行くまではしていなかったため、移動にかかる時間などの課題に気づけなかったのです。
「ここまで水は来ない」という先入観が、備えの不足に影響していました。

被害を受けて初めて、具体的な行動をイメージして避難計画を考えることが何より大事だと痛感した安達さん。
全員が無事だったのはあくまで結果に過ぎないと、災害に備えて検証を続けています。

さらに、証言集や報告書を今後、施設のホームページで公開し、当時の教訓を多くの福祉施設と共有したいと考えています(すでに一部を公開しています)。

「本当に避難所まで連れて行くという本格的な訓練を1回だけでもやっておけば、避難計画にかなり無理があるということは分かったはずなんです。今回のような資料をいろいろな福祉施設で災害があった時にまとめることで、他人の体験を追体験できる、それが大事なんじゃないかと思っています」(安達栄治郎 施設長)

<証言集や報告書はこちらから>※NHKサイトを離れます
介護老人保健施設やすらぎ
http://yasuragisite.html.xdomain.jp/typhoon.html

取材:田淵慎輔 記者

 

 

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