世界が茨城に注目 "夢のエネルギー"開発競争
國友真理子(記者)
2023年02月13日 (月)

この冬、電気やガスの料金を見て、ため息をついたという人も多いのではないでしょうか。
ばく大なエネルギーを、安全に、安定して、そして環境に優しく生み出せればいいのに…今、世界中で、そんな“夢のエネルギー”の開発競争が進んでいます。そしてことし、茨城県でも、ある実験計画が動き出しています。
核融合って?
あの輝く星のエネルギーを、実用化したい。それが“夢のエネルギー”、「核融合」による発電です。太陽のような星の内部では、水素が高速でぶつかり合い、原子核同士が融合してエネルギーが生み出されています。これを地上でも実現させれば、ばく大なエネルギーを生み出せるとして、次世代の発電方法として期待されているのです。
現在の原発との違いは?
これは、現在運用されている原子力発電で起きている「核分裂」の反応とは異なります。「核分裂」は原子核が分裂するのに対し、「核融合」は原子核どうしが融合する反応です。「核分裂」は、いったん起きるとエネルギーが連鎖して発生していき、反応が維持しやすいのが特徴。「核融合」はその逆に、反応を維持することが難しいのが特徴です。このため「核融合」は、トラブルがあった場合には反応を起こすのに必要な状態が維持できず、自然に反応が止まり、福島第一原発で起きたメルトダウンのような事故は起こらないとされています。また、放射性廃棄物は発生するものの、原子力発電で問題となっている高レベル放射性廃棄物は発生しません。
茨城に最先端の研究施設が
日本での開発の拠点の1つが、茨城県にあります。
那珂市にある量子科学技術研究開発機構那珂研究所の実験装置「JTー60SA」です。650億円あまりの予算をかけて日本とEUが共同で建設しました。核融合を起こすために必要な高温の「プラズマ」と呼ばれる状態を作り出し、安定して圧力の高い状態を維持できるか、実験を行います。1億度以上の温度になるプラズマを、連続で100秒間維持することが目標です。
この装置は2020年に完成したものの、試験運転中に装置の内部が損傷したため補修作業が進められていました。ことし1月から、補修作業が適切に完了したかを確認する試験が行われています。いよいよことし、動きだす予定です。

この装置でプラズマが作り出せれば、核融合の開発に向けた大きな1歩になると思っています。プラズマを制御することは難しいですが、ことしの中ごろに、プラズマを作り出したいです
加速する開発競争
「JT―60SA」での研究は、実用化に向けて、まだ基礎に当たる技術の部分という段階ですが、この実験が成功すれば、世界で初めてとなるということで、担当者は世界が注目しているといいます。世界中で、核融合の開発に向けた競争が激しくなってきているのです。
日本は、EUやアメリカなどとともに核融合に関する国際プロジェクト「ITER計画」にも参加し、フランスで大型実験施設の建設が進められています。国内外のベンチャー企業なども開発に乗り出しています。
去年12月には、アメリカの国立の研究所が、核融合によって投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを発生させる実験に初めて成功したというニュースが世界中を駆け巡りました。
課題は
世界中で開発が進む中、研究する上での大きな課題の1つは、「経済性」です。プラズマを作り出して核融合反応を維持するには、膨大な電力を使うことになるため、運転に費やす電力を上回るだけのエネルギーを得られる方法などを研究する必要があります。
こうしたことから、核融合の実用化に向けてはまだまださまざまな技術開発が必要で、商業利用の実現までには長い時間とコストがかかる見通しです。
実際、那珂市の実験装置「JT-60SA」も、建設には予算額で650億円あまりがかけられている一方、試験運転中に起きた装置のトラブルの補修作業だけで、2年近くも時間がかかりました。これから始まる実験で、“夢のエネルギー”の実現に近づくのか、今後もしっかりと注目していきたいと思います。