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"睡眠"研究の最前線に潜入!

執筆者のアイコン画像つくば支局 平山佳奈(記者)
2022年12月23日 (金)

私たち人間を含め、すべての動物に欠かせない「睡眠」。
しかし、「睡眠」に関するメカニズムはまだほとんど分かっていません。

 茨城県つくば市に、そんな「睡眠」の研究に特化した世界最大規模の研究所があります。睡眠研究で世界的に活躍している筑波大学の柳沢正史教授がトップを務める研究所です。

この研究所を熊本県の宇土高校の生徒が訪れました。

高校生と一緒に睡眠研究の最前線に潜入してきました。

睡眠研究の最前線

20221221h_1.jpg高校生が訪れたのは、「睡眠」の研究に特化した筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構という研究所。通称IIIS(トリプルアイエス)とも呼ばれています。

 

20221221h_2.jpgこの研究所の機構長を務めているのが、睡眠研究の第一人者、柳沢正史教授です。

 令和4年9月には、「科学界のアカデミー賞」として知られる「ブレイクスルー賞」を受賞しました。この賞は、これまでにノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授なども受賞しているほか、賞金が日本円にしておよそ4億円と、極めて高額な学術賞としても知られています。

 

20221221h_3.jpgそんな柳沢教授の研究所で、最も大事な施設の1つがこちら。高校生が訪れたマウスの実験室です。

 

20221221h_4.jpg1つ1つのボックスの中で、マウスが生活しています。この研究所では、睡眠の研究のために、およそ1万匹のマウスを飼育しているのです。

 

20221221h_5.jpgここでは、寝ているマウスの脳波や筋電図のデータを取って観察しています。遺伝子の違いによって、睡眠にどのような特徴があるのかなどを調べているということです。

 

20221221h_6.jpg高校生たちは、柳沢教授の特別講義も受講しました。

 

筑波大学 柳沢正史教授
現代の神経科学において、“睡眠”は最大のブラックボックスの1つです。睡眠中、動物は外界刺激に対してとても鈍くなり、外敵が近づいてきても気がつきにくいなど、明らかにリスクがあるのに、なぜすべての動物が眠るのか?

 

柳沢教授は、自身の研究の根本にあるテーマについて、子どもたちに語りかけます。

 

このほか、睡眠時間が7時間前後の人が、一番死亡リスクが低いという研究データを紹介した上で、人間は夜の睡眠時間が十分であれば、本来、昼間は眠くならないはずであり、昼間に眠気がある場合には、睡眠不足などの可能性があると考えるべきだなどと説明していました。

 

講義が終わると、高校生からたくさんの質問が寄せられました。

 

20221221h_7.jpg

 

宇土高校1年生の女子生徒
朝起きたら、夢を見たことや、その内容を忘れてしまうのはなぜですか?

 

柳沢教授は、眠りが浅く夢を見やすい「レム睡眠」には、記憶を忘れる働きがあることが分かっているなどと答えていました。

夢の存在意義については、ネガティブな夢を見ることで、昼間の予行練習をしているというデータを示している人がいると説明。そして、PTSD=心的外傷後ストレス障害は、夢みの多い人のほうが治りが早いと紹介するなど、次々とでてくる身近な“睡眠”に絡む知識に高校生たちは興味津々の様子でした。

 

20221221h_8.jpgこのあと昼食を食べた高校生たち。すると研究所内の1室で何やら、部屋を暗くして寝始めました。実はこれ、柳沢教授のアドバイスに基づく「ウトウトタイム」の時間です。

柳沢教授は、昼間15分から20分ほどの仮眠を取ると、その後の脳のパフォーマンスが格段に上がるとしています。

 

20221221h_9.jpgしっかり仮眠を取ったあとは、この研究所で研究を進めている大学院生との対話会です。講師役を務めるのは、筑波大学の大学院に所属している岡村響さんです。実は岡村さん、宇土高校出身で、高校生たちの先輩にあたります。

 

20221221h_10.jpg宇土高校と研究所のつながりは、10年ほど前から続いていて、何と岡村さんは2014年に同じように研究所を見学したことをきっかけに睡眠研究に興味を持ち、地元の大学に入ったあと、3年生の時に筑波大学に移ってきたといいます。

 

筑波大学院グローバル教育院ヒューマニクス学位プログラム2年  岡村響さん
当たり前のように寝ていたのに、睡眠について何も分かっていないというのがすごく驚きで、睡眠研究にひかれました。柳沢先生がいつでも待っていますよと仰ってくださって、その言葉がすごく励みになり、これまで頑張ってこられました。睡眠障害で悩んでいる人の手助けになる研究ができたらいいなと思っています。

 幼い頃からピアノを習っていて、柳沢教授との出会いがなければ、音楽大学に行ってピアノの先生になるなど、全く違う人生になっていたと思うと話す岡村さん。

高校生たちに、夢や目標を見つけるために、積極的に行動することの大切さを真剣なまなざしで呼びかけていました。

 

筑波大学院グローバル教育院ヒューマニクス学位プログラム2年  岡村響さん
憧れだった場所が、自分が毎日通う場所になったことに、今でもとてもうれしさを感じている。積極的にいろんなことに参加すると、私みたいに目標や夢が見つかると思うので、一生懸命いろんなことに取り組んでほしいです。

 

高校生たちに、見学会の感想を聞きました。

 

宇土高校1年生の女子生徒
学校では体験できないすごく貴重な時間を過ごさせてもらって、うれしかったですし、睡眠ってこんなに深かったのだと思いました。

 

宇土高校1年生の男子生徒
研究はもっと堅苦しく、ずっと顕微鏡を見ているのかと思っていたのですが、研究者の皆さんはとても話しやすくて、イメージが変わりました。将来の選択肢を考える際にも、この経験がつながると思います。

 

柳沢教授は、こうした見学会を通じて、若い世代の人たちに研究の面白さを知ってほしいと考えています。

 

20221221h_11.jpg

筑波大学 柳沢正史教授
岡村さんみたいに、彼らも10年後、20年後にはそういう人材になるわけなので、それを育てるのはわれわれの義務だと思っています。私も幼いころ、医者であり、基礎研究も行っていた父親の研究所を訪れるなどして、父親の影響を大きく受けてきました。 研究は分からないことが前提で、分かっていることは研究対象にならないというのが、普通の授業とは全く違うところです。知識を伝達するのが授業だけど、研究というのは知識を習得する作業。その辺りを見学会を通じて、感じてもらえるとうれしいです。どういう形であれ、医学・生物学の研究に興味をもって、それに関連したところに行く人がでてくるといいなと思います

 

研究学園都市といわれるつくば市で、さまざまな研究機関を取材するなかで、次の時代を担う若くて優秀な研究者をいかに育成していくかということが大きな課題になっていることをよく耳にしてきました。
柳沢教授の研究所では、学校などから希望があれば、見学会の受け入れや学校に赴いて講演会に登壇することなどをできるだけ断らないようにしているそうです。

 とても忙しいのに、専門家として、自分の業界の後継者を育てていくことは“義務”だと話す柳沢教授の思いが、実際に岡村さんのような大学院生を生むという形で未来へとつながっていることに、胸が熱くなりました。

 

最後に、きょうから実践できる、よりよい睡眠を得る方法を柳沢教授に伺ったのでご紹介します。

 

20221221h_12.jpg1つ目は、夕食時くらいから部屋を薄暗くすること。

柳沢教授は、夕方以降、外が暗くなってからの自宅では、部屋の明るさをかなり落としているそうです。イメージは高級ホテルのような薄暗さ。こうすることで、夜の時間帯にリラックスができ、体内時計にとってもよいそうです。

 

20221221h_13.jpg2つ目は、部屋を快適な温度と湿度に保つこと。何と柳沢教授の自宅では、ほとんどすべての部屋に温度計と湿度計を設置して、快適な温度と湿度を保っているそうです。

特に大切なのは寝室。自分にとって快適だと感じる温度と湿度を朝まで保つことは、睡眠の質を維持するためにとても大事なのだそうです。

ぜひ参考にしてください。

 

 

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執筆者 田淵慎輔(記者),浦林李紗(記者)
2023年03月11日 (土)