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車が迫る通学路 放送3か月、現場に動きが ~茨城県龍ケ崎市 馴柴小学校~

執筆者のアイコン画像清水嘉寛(記者)
2023年07月13日 (木)

「地域のボランティアが体を張って子どもたちを守っている」ー。
住民から寄せられた投稿をもとに、ことし3月、茨城県龍ケ崎市にある“危険な通学路”を取材しました。歩道のない狭い通学路を車がスピードを出して通り過ぎる実態や、住民たちが登校班に付き添い、身をていして子どもたちを守っている状況を紹介しました。
それから3か月余り、住民たちの切実な訴えが行政を動かしました。取材のなかで専門家が指摘していた制限速度が時速30キロに引き下げられ、改善に向けた動きが進められようとしています。

 

(取材:NHK水戸放送局 清水 嘉寛)。

投稿のあった“危険な通学路”

20230712s_1.jpg取材を始めるきっかけとなったのは、龍ケ崎市の住民からNHKに寄せられた投稿文。

「車道が狭く歩道もないのに車がスピードを出して通る。登校時は、地域のボランティアが体を張って子どもたちを守っている」。

 

現場を歩いてみた

20230712s_2.jpgこの投稿をもとにことし3月、龍ケ崎市若柴町にある通学路に向かいました。

 道幅は狭く、歩道も歩くスペースは肩幅ほどの広さです。
実際に歩いてみると、通過する車が自分に迫ってくるような恐さを感じました。

 近くに住む人たちに話を聞くと、口々にこの道路の危険性を訴えます。

20230712s_3.jpg

「この道は、車が飛ばすんですよね」。 

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「すごいスピードで来る車がたまにあるんですよね。そういう時は思わずびくっとしますよね」。

子どもに寄り添うボランティア

20230712s_5.jpgこの地区で20年ほど、登校中の児童を見守るボランティアをしている女性がいます。菅野郷子さん(78)です。
過去には、見守り活動のさなかに事故がおき、あわやという状況もありました。 

菅野郷子さん
事故がたまに起きるんですよね。車がスピードを出すんです。  車同士が接触して、すぐに子どもたちがよけて事なきを得ましたが…

 菅野さんは車道側を歩き、子どもたちをガードするようにぴったりと付き添います。体を張って子どもたちを守るため、「毎日が命がけ」といいます。

カメラとスピード測定機で分析 危険があらわに

20230712s_6.jpg通学路の状況を調べるため、地域の方の協力を得て敷地にカメラを設置しました。撮影された映像には、道幅が狭く、車がすれ違うと路側帯の白線、ギリギリのところを、走行している様子が映っていました。

20230712s_7.jpgそして、住民たちが危険性を訴えていた車のスピード。実際に何キロで走っているのか、測定器を使って調べました。この日、午前7時半ごろから30分ほどの間に通った車は62台。制限速度の時速40キロを超える数字を測定した車は、9割近い54台にも上りました。なかには、時速64キロの車もありました。

90年代ベッドタウン化の影響

 住民に話を聞いてみると、この通学路は江戸時代には水戸街道と呼ばれ、江戸と結んでいた要衝として地域で親しまれてきた道路だといいます。以前は車の通りは少なかったそうです。

20230712s_8.jpg変化したのは、1990年ごろ。最寄りの駅から都内まで1時間足らずのため、ベッドタウン化が進み人口の増加とともに交通量が増えたといいます。

20230712s_9.jpg北東にあるニュータウンと南西のJR龍ケ崎市駅を結ぶ県道があります。片側2車線ありますが、信号機がいくつもあり、朝の通勤時間帯は混み合うといいます。

一方で、この通学路は市道で、この区間に信号機は1つもありません。市や住民によりますと、近道として利用する人たちが多いとみています。

この通学路を利用しているドライバーに話を聞いてみました。 

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「私は抜け道として使っています。ここは信号がないからスムーズに通れる」。

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「普段よく通りますが、危ないなと思いますね。制限速度を守らず、40キロ規制なのに50キロくらいは出していそうな車もあって危ないです」。 

地元の自治会では、速度規制をいまの40キロから、30キロに下げてほしいと過去に市などに要望しましたが、実現していませんでした。

 これについて市の担当者は、車の通行の利便性を考えると難しい部分があると説明しました。 

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市の担当者
速度規制を引き下げることは、見方を変えれば、道路の利用者の利便性を悪くすることにつながります。十分な理由と地域住民の合意形成がなければ難しい。対策を進めようと思っても地元の反対が出てくると、市としては強行に進めることは難しくなります

専門家「時速30キロが命の境界線」

20230712s_13.jpgこうした状況にどう対応すべきか。通学路の安全対策に詳しい専門家に聞きました。埼玉大学大学院の久保田尚教授は、通学路では、車の速度は時速30キロ以下に抑制するのが効果的だとしています。時速30キロが「命の境界線」になると考えているからです。

20230712s_14.jpg警察庁が公表した令和3年の車と歩行者の事故に関するデータです。車の速度が30キロを超えた場合、歩行者の致死率が急激に高まることがわかっています。

 久保田教授は、車の通行と子どもの命、どちらを優先すべきか、見つめ直すべきだと指摘しました。

交通の安全対策が専門 埼玉大学大学院 久保田尚教授
こういう話をすると『車が不便じゃないか』とか、『朝急いでいるから遠回りをするのはとんでもない』という意見が必ず出てくる。車優先の時代が長く続いたが、人の命、子どもの命を大事にすることを国民、県民、市民全員で考えて新しい方向性を打ち出してもらいたい

放送から3か月余り 取材した住民から電話が…

20230712s_15.jpg今回、3月に放送した“危険な通学路”。それから3か月あまりが経過した6月下旬、お世話になった住民の方から、電話がありました。

「放送のあと、すぐに警察が動いてくれて、きょう速度規制が引き下げられた」というのです。 

管轄する警察署に話を聞きました。かねてからの住民からの要望を受けて警察も取り締まりを行い、市でもドライバーにスピードを抑制するよう呼びかける注意の看板を立てて対応していました。

そうしたなか、身をていして子どもたちを守ろうとするボランティアの活動や、専門家の時速30キロが「命の境界線」との考え方が、放送で紹介されたことを受けて、現地で車の交通量などの調査を行ったということです。調査の結果、危険性があると判断し、時速40キロの速度規制を30キロに下げる工事を早急に進めたといいます。

登校班見守りボランティア 菅野郷子さん
速度制限を引き下げてから、通学中にスピードを落としたり止めてくれたりする車が増えたんです。この方法しかなかったと思います。スピードを出していると車も歩行者も互いに危ないので。思い切ってやってくれたことに、感謝しています

 

竜ケ崎警察署交通課 直井将光 課長
道路幅が狭く、交通量が多い一方で歩道と車道が分離されていないので、速度を抑止する必要があると判断しました。子どもたちの安全の確保やボランティアの方々の活動に応えるためにも、警察として何ができるか今後も考えていきたい。危険な通学路はほかにもあるので、これを機にさらに市と連携して、通学路の安全対策を進めていきます

警察や自治体を動かしたのは、子どもたちが事故にあわないようにと危険性を長年訴え続け、毎日の登下校を見守り続けた住民でした。 

一方で、ドライバーがモラルを守らなければ、速度規制の引き下げも事故抑止につながりません。「子どもの命を大切に」。当たり前のことを呼びかける久保田教授のことばは、ハンドルを握る私たちが心がけるべきことなのだと改めて実感しました。

 

 

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