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地域を変えるのは高校生? 市と連携した高校の授業

執筆者のアイコン画像今井求紀(ディレクター)
2023年05月25日 (木)

社会で役立つ力を育てるため、昨年度から全国の高校で本格的に始まった「総合的な探究の時間」。
新設されたこの科目で、どのような授業を行い、どんな力を身につけさせていくのか、各学校で模索が続いています。 

市役所と連携し、地域課題にリアルに向き合う授業を行った下妻市の高校を取材しました。

 

いば6 5月17日(水)放送

「生徒は社会に向き合う機会が少ない」

20230525i_1.jpg下妻市にある県立高校で、総合的な探究の時間を担当してきた教員の北條奈緒美さん。おととし、総合的な探究の時間の導入に向けて行った授業で、下妻市の地域活性化のアイデアを生徒に考えてもらいました。

 

20230525i_2.jpgしかし、寄せられたアイデアは実現可能性や効果の面で不十分なものが多いと感じたと言います。

下妻第二高校 教諭 北條奈緒美さん
家族や学校の先生以外とあまり話したことがないという生徒が意外に多いことに気がつきました。ふだんの生活では、社会でどういうふうな事件や状況があるのかというところに目を向ける機会が少ないのではないかと考えます。

 

高校生が政策提言? 市と連携した授業

20230525i_3.jpg 「生徒たちに社会に向き合ってもらうには どうしたらいいのか」

考えたのが、下妻市役所に協力してもらうことでした。

 市議会の傍聴や、市長との対話などを企画。生徒たちは地域の現実を踏まえたうえで、アイデアをチームで議論していきました。

20230525i_4.jpgさらに、考えたアイデアを市役所に直接提案する「政策提言発表会」を開催。市長や市の職員に現実的な目線で評価してもらいました。

 

実践でさらなる学びを

20230525i_05.jpg提案が市に高く評価され、実際に市と取り組みを始めたチームもあります。

このチームが提案したのは、市の公式SNSの活用法についてです。投稿の作成を市民に依頼することで、知られていない名所などの魅力を発信しようというアイデアです。

 近年、人口が減少傾向で、特に若い世代の流出が課題になっている下妻市では、若者へアピールするため、SNSに力を入れています。発信力をさらに高めようと、この高校生たちに声をかけました。

 

20230525i_6.jpg下妻市 都市整備課 早川隼登さん
私たちが持ち合わせていない高校生としての視点や高校生ならではの考え方を期待したいです。

 

20230525i_7.jpg 実現に向けて準備が進められるなか、この日は、投稿につけるキーワードなどについて話し合いが行われました。

 

公式SNS担当者
事前に考えてくれたものも すばらしいんですけれど真面目なのがにじみ出てしまっていて… もう少し愛着を持てるような、砕けたものでもいいんじゃないかと思っているのですが

 

高校生
(事前に考えた)「砂沼の日常」だと少し狭くなってしまうから範囲を広くして 「○○の日常」にしても いいかなと思う

 

公式SNS担当者
「つまに(妻二)の日常」はどうですか?

 

高校生
「つまにの日常」だったら「つまにのまいにち」の方が好きだなと思います 「つまに」がひらがななのに、急に「日常」って漢字が来ると…

 

 

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アドバイスを受けながら試行錯誤して案を考えていった高校生たち。社会との向き合い方が変わってきたといいます。

 

 

下妻第二高校 2年生 告芽李果さん
話し合っていくなかで、自分の知らなかったことを新たに知り、「ここが足りなかったんだな」といったことを知れたところがうまくいきました。

 

下妻第二高校 2年生 羽澤美咲さん
地域のことや社会のことは大人がやるものだと思っていました。今回、市の方々と一緒にやってみたことで、地域をよりよくするためには私たち学生も頑張って積極的に活動していく必要があるんだなと感じました。

 

下妻第二高校 2年生 山中美鈴さん
ふだんSNSは何気なく見ているが、実際自分たちで考えるとなるとあまりアイデアが出てこなくて、考えるのは難しいんだなと思いました。

 

高校では、探究の時間の充実に手応えを感じ、今年度もさらに発展させていこうとしています。

 

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下妻第二高校 教諭 北條奈緒美さん
自分たちで設定した課題にしっかり向き合う機会を持つことは社会に出てから大きな力になると思います。ゆくゆくはそういう経験を生かして、自分を育ててもらった地域に恩返しができるような人材になってくれるのではないかと考えます。

 

生徒の将来の姿を見据えた「探究の時間」を

20230525i_010.jpgこの高校の取り組みについて専門家は、高い教育効果が期待できると評価しています。

 

大阪教育大学 連合教職実践研究科 田村知子教授
学校側が市の関係者にシビアな評価をお願いしたことで、生徒は社会の厳しさや、自分たちの課題追求の甘さを実感できます。そのことでより高い課題設定へと動機づけられ、もっと学ばなくてはというように深い学びへと導かれていきます。

 さらに、探究の時間を充実させるには、各学校で生徒をどのように育てていくかという将来像を描くことが重要だと言います。

 

大阪教育大学 連合教職実践研究科 田村知子教授
生徒さんたちにどんな力を付けて卒業させたいのか、どんな学習経験をこの学校の中でさせてあげたいのか。教科書も無い授業ですから、1からカリキュラム開発をしていくということが必要になってきます。

 

取材を終えて

 「考える力を養う」

 言葉にすると簡単なことが、実際は難しいということを強く感じた取材でした。
目指されているのは、ひとりひとり違う生徒の経験と考えを生かして、伸ばしていくこと。
生徒全員にあらかじめ用意された知識を身につけさせることを目指してきたこれまでの教育にはない苦労がそこにはあるのだと気づかされました。生徒たちのためになる教育のあり方を模索する先生たちの努力、そして、転換点を迎える学校教育のこれからを見つめていきたいと思います。

 

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