「固定概念をなくしたい」
安永龍平(記者)
2023年03月17日 (金)

「聴覚障害者は音楽を聴かないといった固定概念をなくしたい。」
聴覚に障害がある大学生は、こう語ってくれました。聴覚や視覚に障害がある学生のための国内唯一の国立大学・筑波技術大学では、学生たちが共生社会の実現について考えるなどした卒業制作展が開かれています。卒業制作に込められた思いを取材しました。
音楽を楽しみたい
「Deaf and Music」と題された冊子。聴覚障害者も思う存分音楽を楽しみたいという思いが込められた4コマ漫画です。
冊子を作ったのは、田村彩七さんです。聴覚神経に障害があり、補聴器がないとほとんど音を聞き取れません。
大の音楽好きで、応援しているアイドルグループがあるという田村さん。アイドルグループのことをもっと知りたいのに、例えばテレビの音楽番組で、歌の部分は歌詞の字幕があっても、トークのところは字幕がなく話の内容が分からない。字幕があったとしてもアーティストの顔と重なっていて、一番気になる表情が見えないことも。何度も残念な思いをしたことが、研究を始めるきっかけだったといいます。
自身の経験をもとに、どのように字幕を表示してほしいかなど、聴覚障害者も音楽を楽しむための方策を具体的に提案しています。

聴覚障害者は聞こえないから音楽を聴かないという固定概念みたいなものを、少しずつなくしていきたい。障害を感じずに安心して音楽を楽しめるような社会、それが当たり前になってほしいなというのが私の願いです。
一方、藤野桃香さんは、聴覚に障害がある卒業生23人に、社会人としての日常をインタビューして冊子にまとめました。
コミュニケーションがスムーズにいかなかったといった困った経験や、会社には自分の意見や必要な配慮をきちんと伝えるべきといったアドバイスなど、先輩たちの率直な声が集められています。
卒業後、社会に出ていくことに大きな不安を抱えていたという藤野さん。先輩たちの働き方を知りたいと考えたと同時に、せっかくなら後輩たちの就職活動にも役立つようにしたいと考えたのが、研究のきっかけでした。

みんなが聞こえる世界に社会人として入ると、自分が障害者だという立場を突きつけられることになる。障害があるのでこういう配慮をしてほしいということを積極的に伝えていくことが一番必要なことだと思うので、後輩には学生生活でもこれからの仕事でも忘れず、積極的に頑張ってほしいというのが、冊子に込めた一番のメッセージです。
今回の取材を通じて、日常生活の中には、障害がある人たちにとっては不便さや生きづらさを感じる要素が、自分が気付いていないだけでまだまだたくさんあるのだとはっとさせられました。同時に、放送に携わる身として、どうすればあらゆる人に十分に情報を届けられるのかを常に考えていく必要があると感じました。
この卒業制作展は筑波技術大学天久保キャンパスで4月上旬まで開かれているほか、筑波技術大学のホームページでも公開されています。