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不登校による孤立を防ぐワンストップ支援情報サイト 全国でも珍しい取り組みが茨城でスタート

執筆者のアイコン画像三輪知広(記者)
2022年06月30日 (木)

茨城県では不登校の児童・生徒が、中学校で8年連続、小学校では5年連続で増加しています。

悩んでいる人たちが、誰かにつながってほしいという思いから、不登校の子どもの親が、支援グループや相談先などをワンストップで見つけられる、全国的にも珍しいウェブサイトを作りました。

 

ワンストップで不登校支援の情報を

20220630m_1.jpg不登校に悩んでいる人に役立ててもらおうと作られたウェブサイト「いばらき不登校・多様な学び育ち応援サイト」。

ことし5月、不登校の親の会や支援に携わるグループが作りました。
トップページには、「子どもが学校に行きたくないって言ったら…」という当事者の心に訴えかける言葉が大きく表示されています。

さらに、不登校は、どの児童・生徒にも起こりうるもので「決して問題行動ではない」「状況に応じた多様な支援が必要」「学校復帰だけが目標ではない」という3つアドバイス。

「あなたはひとりではありません」と優しく語りかけるメッセージも添えられています。

ウェブサイトには、不登校に悩む親を支援するために茨城県内各地で活動する団体や、子どもの居場所、フリースクールなど、延べ100を超える団体が掲載されています。

団体名をクリックするとホームページにたどり着けるだけでなく、グループが、直接、支援団体から得た情報をもとに、大切にしている理念や活動の特徴など、相談先をイメージしやすい情報も盛り込まれています。

ウェブサイトに掲載されている情報は、支援団体だけではありません。学校に通うだけでなく、いろいろな学び方を支援・推進する法律。さらに、義務教育後の進路には、単位制や通信制の高校、大学受験の資格も得られる「高卒認定試験」があることなども紹介しています。

不登校であることを責めたり、将来を悲観したりしないでほしいという願いが込められています。

20220630m_2.jpg不登校の悩みに応じた支援情報を網羅したウェブサイトは、全国的にも珍しいといいます。長年、不登校に携わってきた、教育の専門家も高く評価しています。

茨城大学教育学研究科 生越達 教授
当事者は、すごく不安になってしまって慌てるわけですよね。そういうときに、不安になればなるほど、何をしていいか、わからなくなる。当事者目線で書かれた情報が、ワンストップで得られるので、悩んでいる人も気持ちが楽になる。多様なニーズがあるなかで、いろいろな情報が掲載されているので、どう対応すればいいか考えることができると思います。

20220630m_3.jpg中心となって制作に携わった茨城県笠間市の根本比奈子さんは、必要としている情報をワンストップで入手することで、少しでも早く、悩み事の解決につなげてほしいと訴えています。

支援サイト制作者 根本比奈子さん
つらい時間、みんな短くしようよっていうか。せっかく体験した私たちがいるから、情報提供することで、そのつらい時間が少しでも短く済むといいねっていう思いです。

孤立する不登校当事者

サイトには、根本さん自身が、不登校の子を持つ親として、独りぼっちで悩んだ経験が反映されています。

根本さんの長男は学校になじめず、小学校の高学年の頃から、不登校になりました。

根本さんは、「なぜ、わが子が学校に行けなくなってしまったのか」、「親として、子どもにどう向き合うべきだったのか」自分を責め続けました。気持ちを打ち明ける相談先も地域になく、近くの支援団体をウェブサイトで調べましたが見つかりませんでした。

夫も仕事で忙しく、悩みを打ち明けられる人もいない。根本さんは次第に孤立していきました。気持ちが爆発しそうになった時は、公園から町の夜景を見下ろしながら、心を落ち着かせる毎日でした。

20220630m_4.jpg支援サイト制作者 根本比奈子さん
家の中で1人になるのは無理だったので、車に乗って、山の上の公園からの眺めで癒やされていました。悩んだときに叫ぶことも大事だったので、車の中でさんざん叫んで。『何でなんだー』とか、『わたしが悪いのかー』とか、いろんなことを叫びながら公園に到着して、街の明かりが見えると、すーっと心が落ち着く感じがあって、ぼーっと明かりを見ていました。

解決の糸口を求めて支援団体を探し続ける中で、なんとか見つけたのは隣の栃木県の団体でした。すがる思いで車を走らせ、支援団体の人たちに会いにいき、つらさを吐き出したことで、「さまざまな育ち方があってもいいのではないか」と少しずつ前向きに考えられるようになったといいます。

支援サイト制作者 根本比奈子さん
人に会うことで力をすごくもらい、『そんな考え方があったんだ』っていうように、ちょっとずつ、目が開いていきました。本当に子どもに必要なものは何かということを、学校や社会的な考えにとらわれずに、自分の頭で考えるようになったと思います。

当事者どうしのつながりでサイト制作へ

不登校で悩む人たちが、自分と同じように孤立してほしくない。そう強く考えるようになった根本さんは、仕事でウェブサイトを制作していた経験を生かして、ワンストップで支援情報にたどりつけるウェブサイトづくりを決意します。しかし、支援団体の情報がなかなか集まらず作業は壁にぶつかりました。

20220630m_5.jpgそんな状況を動かしたのが、人と人とのつながりでした。

2019年に根本さんのSNSを知った茨城県小美玉市の武田理良さんが、アドバイスを求めたことがきっかけでした。武田さんも子どもが不登校になり、支援の情報が少ないことに悩んでいました。

話をするうちに、悩みを持つ人たちの助けになる情報を発信することが共通の目標だったことがわかり、一緒にウェブサイトを作ることになったのです。

サイトを共同制作した武田理良さん
根本さんが、『サイトを作りたいんだけど』と言ってくれたときに、わたしも『絶対作ろうよって』という話をしました。支援団体はそれぞれが、ホームページをもっているのですが、『茨城 不登校』などと検索しても、出てこない。茨城県内は広いので、自分の住んでる所から、検索してヒットした支援団体の活動に、自分で通えるか、親が子どもを連れていけるかという課題もあります。そうであれば、たくさんの情報があったら、いろんなところに住んでる方たちが助かるんじゃないかなっていう気持ちが、すごく大きかったです。

武田さんが加わったことで、ウェブサイトに掲載する当事者グループや支援団体の情報を得られるようになり、本格的にウェブサイトづくりが進み始めます。

サイト制作にさらなる広がり

20220630m_6.jpg活動は、さらに広がっていきます。

2人の活動に合わせるかのように、県内では不登校に関わる人たちのネットワークづくりが進められていたのです。

中心となっていたのが、つくば市の石田佳織さんでした。

石田さん自身も、こどもが不登校になったことから、1人で悩む時期がありました。当事者や行政、地域の人など、さまざまな人どうしが、不登校を理解し合うことをめざした連携のしくみとして、2020年に「不登校・多様な学びネットワーク茨城」を立ち上げていたのです。

根本さんが中心になってウェブサイト全体の設計を進める傍ら、武田さんは、石田さんが作るネットワークに世話人として参加して、ほかの団体との連携を進めます。

そのおかげで、石田さんからもウェブサイトの実現へ賛同を得ることができ、より大きな動きが生まれました。

不登校・多様な学びネットワーク茨城 石田佳織 代表
フリースクールも、親の会も。つながっていくことで、お互いが支え合って、それぞれの活動が、継続しやすくなるようにしたいという思いがありました。そうしたなかで、根元さんたちが制作したサイトは言葉1つ1つが、当事者にとってすごく温かくて、いいサイトだったんです。そう思えたので、このサイトを『不登校・多様な学びネットワーク茨城』としても応援していく形で連携できたらいいなと思いました。

ウェブサイト完成

ウェブサイトの掲載にあたって、支援団体の一部には掲載をためらう団体もありました。地域で顔の見える関係のなかで運営することを目指していたり、スタッフの人員の関係で受け入れに限界があったりすることから、団体名が広く知られることを望まない場合もあるからです。

根本さん、武田さん、石田さんは、そうした実情に配慮しながらも、個々人の悩みに応じた支援先を見つけられるように、できるだけ多くを掲載しようとウェブサイト作りを進めました。

20220630m_7.jpgその結果、延べ100を超える団体が掲載できるようになり、完成を迎えました。

5月24日に行われた発表会見で、根本さんは「とにかく誰かとつながってほしい。まず、つながればなんとか道が開けてくる」と訴えました。

当事者以外も知ってほしい

専門家は、不登校について知る人が増えることで、地域の人たちによる支援の動きも活発化するという見方を示しています。

茨城大学教育学研究科 生越達 教授
こういう形で地域から発信するっていうことは、不登校が、必ずしも悪いことじゃなくてね、一緒に考えていきましょうと、その中で、社会の中に居場所を作っていきましょうと。社会が変わってくというか、今まで、ばらばらなものがつながっていく、1つのモデルとしても、すごく大きな意味があると思います。

根本さんは、さらに多くの支援団体の情報や不登校経験者の体験談を掲載するなどして、これからもウェブサイトを充実させたいと考えています。その上で、不登校への理解が広がっていくことを目指しています。

支援サイト制作者 根本比奈子さん
不登校じゃない人にも知ってもらって。何か、特別視して、除外するものじゃないということ。ごく誰でもなることだったいうのが、どんどん広まっていくことが目標の一つです。答えは1つじゃなくて、一人ひとりがみんな違って。正解の反対側にも別の正解がある。そういうつもりで相手を見るというのが、当たり前になってほしいですよね。

いばらき不登校・多様な学び育ち応援サイト/茨城の不登校支援・フリースクール情報 (ibaraki-futoukou.net) ※NHKサイトを離れます

取材を終えて

不登校が社会の課題になって30年ほどがたち、わたしは社会での理解が広がっているのだと思っていました。

しかし、根本さん、武田さん、石田さん、生越教授をはじめ、不登校に携わる方々への取材を通して、まだまだ理解は進まず、それによる情報の不足と当事者や親の孤立につながっているのだとわかりました。

今回のウェブサイトによって、当事者たちが救われるのはもちろん、それにとどまらない大きな広がりにつながるという期待を抱きました。救われた人たちが、根本さんたちのように経験したことを発信していくことで、次の世代の人たちの救いにつながったり、社会全体で不登校について考える流れができたりするという期待です。

その結果、子どもたちにとって、よりよい学びの環境と生きやすい社会が作られることになるのではないか。今回の取り組みは、未来への大きな一歩になったと信じています。

 

 

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