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発達性読み書き障害 大切なのは早期支援

執筆者のアイコン画像つくば支局 平山佳奈(記者)
2022年04月28日 (木)

この春も、多くの新小学1年生が、学校生活をスタートさせました。期待と不安で胸がいっぱいであろう子どもたちの成長を見守るためにも、みなさんに知ってほしいことがあります。

それが、「発達性読み書き障害」「発達性ディスレクシア」とも言われます。話したり、話を聞いて理解したりには問題ないのですが、文字を読んだり書いたりが難しいというものです。

周りも本人も気づきにくいため、これまで多くが見過ごされ、子どもたちが「努力不足だ」と周囲から怒られたり、「自分は頭が悪いのだ」と自分を責めたりして、幼いうちから自尊心を失ったり、学習意欲が低下したりと、深刻な問題につながっていました。

こうした子どもたちを救おうと、モデル校として発達性読み書き障害の支援に取り組んできた茨城県つくば市の学校を取材しました。

発達性読み書き障害とは 1クラスに2~3人

発達性読み書き障害とは、どのようなものなのか。長年、研究や子どもたちの支援を行ってきた、元筑波大学教授の宇野彰さんに、その特徴を尋ねました。

20220428h_1.png元筑波大学教授 発達性読み書き障害の専門家 宇野彰さん
先天性と考えられるのですが、発達期に明らかになる障害のひとつで、努力しても練習しても文字の習得がなかなか困難だという障害です。読むことが難しいひらがなやカタカナがあったり、読めても読むスピードが遅いとか、文字を思い出すのに時間がかかる、何回練習しても文字が覚えられない。そのような症状が典型的かと思います。


宇野さんによると、読み書きに困難を感じている子どもは1クラスあたり2~3人ほどいて、決して特殊なことではないといいます。

発達性読み書き障害の女の子は

つくば市の協力を得て、小学1年生のときに発達性読み書き障害と診断された女の子が、当時、教科書を音読した際の映像を見せてもらいました。

女の子が読み上げたのは、「あしたはきっと元気になりますよ」という文章です。

「あした『は』」の「は」は、「わ」と発音するのではなく、文字通り「は」と読みました。また、「なり『ま』すよ」の「ま」は、「も」と読みました。形が似ていて判別するのが難しかったようです。 

話しことばは問題なく理解できるのに、文章を読もうとすると文字のまとまりをひとつの文章として捉えられず、内容が分からなくなってしまいます。

女の子の父親は、当時のことをこう話します。

20220428h_2.png女の子の父親
保育園の時は何も言われていなかったので、なんでうちの娘が?とショックを受けました。例えばアナログ時計を理解できるようになるように、ひらがなもカタカナも、勉強すれば、いつかできるようになるだろうと、そういう簡単な考えでした。


宇野さんは、発達性読み書き障害は、話したり話を聞いて理解するといった知能や、本人の努力とは関係ないといいます。このため周囲から気づかれにくく、さらに、読み書きは練習すれば誰でもできるものだと思っている人が多いため、勉強不足だ、努力が足りないなどとして見過ごされてきたといいます。

早期発見を モデル校では

つくば市の九重小学校は、茨城県内ではいち早く、6年前から発達性読み書き障害の支援に取り組んできました。

中心になって取り組みを進めてきた井坂美香先生は、こう話します。

20220428h_3.pngつくば市特別支援教育推進室 井坂美香指導員
実際に読み書きの簡単なテストをしてみて、発達性読み書き障害の疑いがある子どもがこんなにいるのだと驚きました。子どもたちを見ただけでは分からないというのが実感です。どうして文字が書けないのかな、でもとにかく書きなさいという指導が、取り組みを始めた当時はまだまだ多かったですし、自分もそうやっていたなと反省しています。


この学校では、1年生の子どもたちは日頃から、ゲーム感覚で楽しくひらがなに接しています。

さらに学校では、児童全員を対象に、読み書きの検査を行っています。発達性読み書き障害は周囲から気づかれにくいため、客観的な検査によって支援を必要とする子どもに早い段階で気づき、適切な対応につなげることが大切なのです。

20220428h_4.png検査では、先生が、「あか」や「くるま」といった短い単語を読み上げ、子どもたちが書き取ります。

20220428h_5.pngまた、書いてある文字を読み上げてもらい、正しく発音できるかも確認します。

20220428h_6.png1年生の場合、ひらがなを習い終える夏休み前に検査を行い、子どもが読み書きに困難を感じていないかを確認します。ひらがなは、夏休み中にも勉強してもらい、同じテストを夏休み明けにも行います。

その後、10月に入ってもひらがなの読み書きが難しい場合、発達性読み書き障害の疑いがあるとして、本格的に個別の対応を始めます。

子どもの特性に寄り添って

この検査で小学1年生の時に発達性読み書き障害の疑いがあるとされた男の子が、当時の心境を話してくれました。

取材時小学5年生の男の子
みんなより発音が悪いし、読めないし、書くのが遅い。先生からひらがなを書いてと言われても、何を書いていいのかよく分からなかった。みんなはすらすら書いているのに、僕、どうしよう。僕はみんなと違う、と思いました。何で僕だけ書けないのかが分からなかったので、僕のことを分かってくれたんだと、うれしい気持ちになりました。


個別の対応が必要となった場合、まずは濁音や小さい「や」「ゆ」「よ」などを含めてひらがながすべて読めるか確認し、読めない文字を洗い出します。

その上で、苦手な文字をどうやって習得していくかは、子どもたちの特性に合わせてメニューを組みます。

20220428h_7.png例えば、音で聞いたことばを記憶する能力にすぐれている場合には、苦手な文字を使ったストーリーを子どもと一緒に作ります。

「へ」の文字が苦手な場合には、「へ」がつくことばを子どもに挙げてもらいます。子どもが「へび」や「へいき」を挙げると、井坂先生は、「へびは怖いけどへいきだよ」というストーリーを作り、へびの絵を文字の「へ」に似せて描いて見せました。

このように、絵の形から文字を連想して、ストーリーや歌にして覚えていくのです。 

取材時小学5年生の男の子
繰り返し書く練習をするよりも、歌で覚えたほうが書けるようになってきて、分からない字は「あっ、あの歌だ」と思い出して書けるようになりました。みんなと一緒に読んだり書いたりできるようになってきて自信がつきました。


学校が取り組みを始めて6年。一人ひとりの特性に合わせて文字の習得を支えるノウハウが、着実に蓄積されてきています。

井坂先生は、大事なのは、周りの大人が早い段階で気づいてあげることだと考えています。

つくば市特別支援教育推進室 井坂美香指導員
そのお子さんに合った方法で指導や支援ができるので、やはり早期に発見し、指導することが必要だと思います。保護者には読み書きに関して、今にできると簡単に思わずに、どうも読むのが遅いなとか、真面目に何時間も宿題をしていたのに終わらなかったなとか、少し気にして見ていただいて、早いうちに相談してもらえるといいなと思います。


ひらがな・カタカナ その先は

九重小学校の取り組みでは、それぞれの子どもの特性に合った指導を行うことで、ひらがなとカタカナであれば、ほとんどの子どもができるようになったそうです。

一方で、誤解されやすいのは、読み書きが困難だという特性は完全に克服されるわけではないということです。

宇野さんはこう説明します。

元筑波大学教授 発達性読み書き障害の専門家 宇野彰さん
どなたにも何かしら苦手なことがあると思います、そういう苦手の中の1つに、文字を習得するのに必要な能力が弱いお子さんがいるということです。例えば私は方向音痴で、この年になっても治っていませんが、早めに家を出たり、ナビを使ったり、人に道を聞いたりして行きたいところに行ける。同じように、発達性読み書き障害の場合でも、ひらがなやカタカナを習得すれば、例えばキーボード入力で文章が書けるようになる。

ひらがなで入力して漢字に変換することもできますし、カタカナは漢字のパーツであることが多いので、漢字の練習の前段階としても大事です。まずはひらがな・カタカナを学び、次の段階として漢字が読めて意味が分かるかというのが、大事な練習になってくると思います


読み書きが困難でも、ひらがなとカタカナを習得していれば、小さなサポートがあれば可能性は大きく広がります。こういったサポートは「合理的配慮」と呼ばれ、自治体などには法律で提供が求められています。茨城県でも実際に、高校の入学試験で問題にルビをふる、漢字で書けていなくても内容が正しければ減点しないといった対応が取られています。

このほか、全国では、パソコンやタブレット端末を使って、教科書を読む代わりに音声で内容を聞く、ノートに書き取るのではなくキーボードで入力するといった対応を取っている学校もあります。

早期支援の広がりは

つくば市では令和3年度から、九重小学校のノウハウを生かし、公立学校の小学1年生と中学3年生全員を対象に読み書きを確認する検査を始めました。支援にあたる先生の養成にも取り組んでいます。

県内ではこのほか笠間市や取手市などでも取り組みが始まっていますが、まだ手つかずの自治体が多いのも現状です。

多くの学校で継続的に支援を行っていくために必要なことは何か。九重小学校の玉田校長は、次のように話します。

20220428h_8.png九重小学校 玉田晴美校長先生
先進校としてこの学校で取り組んできたことを、ほかの学校や市町村にも広げていきたいと思っていますが、そのためには一から体制を考えていかなければならないとも思います。持続可能な支援体制を作るためには、例えば読み書きの検査をしてくれる人を自治体から学校に派遣してもらえたり、結果のデータを保護者に伝える部分もサポートしてもらえたりすると、どの学校も助かると思います。一つ一つの学校として出来ることは限られてきてしまいますので、子どもたちのためには、県や市の教育委員会の力も借りながら、支援を続けていければと思います。


これまで見逃され、悩み苦しんできた子どもたちを、これ以上見逃さないために。

「発達性読み書き障害」への理解がさらに広がり、子どもたちが感じている困難が少しでも軽くなるよう、行政には早急に支援の体制を整えてほしいと思います。

 

 

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