
あなたの町は大丈夫!? 2040年 空き家数全国予測マップ
日本の空き家問題は新たなフェーズに突入しようとしています。
これまで人口減少が続く「地方の過疎地」の問題とされてきましたが、近年は県庁所在地などの都市部や大都市圏でも空き家が急増。そして団塊世代が平均寿命を超過し、多くの相続問題が発生する2040年に向けては、更に拍車がかかるといわれています。
今回NHKでは、明治大学の野澤千絵教授に協力を依頼。「2040年空き家数予測マップ」を作成し空き家問題の未来を可視化しました。分かってきたのは、いわゆる「人気の町」「人気のエリア」であっても空き家問題からは逃れられないという深刻な現実。
あなたの町、あなたの実家のある町は大丈夫ですか!? 必見のデータマップです。

国土交通省の審議会委員 現場を訪ねデータ解析も用いて空き家や土地政策を研究
マップを見るポイント
―今回の2040年空き家予測マップの特筆すべき点・意義は何でしょうか?
野澤さん:
大きくは2つあります。
1つめは、今後、どこにどの程度空き家が増えるかを明らかにするために、小さな単位(町丁字)で、年齢層や持ち家割合などの地域特性もふまえ、これらのデータを積み上げて全国規模で予測した点です。
空き家数の予測は、これまでも多くの研究者やシンクタンクで公表されてきました。しかし、その多くは、売却用や賃貸住宅の空き部屋・別荘など、いわば使用目的のある空き家も含まれていました。これから多死社会を迎える日本で、多くの人が、実家や親戚の家を相続することになりますが、特に問題視しているのは、売るでも貸すでもなく何となく置いてある空き家が街に増えることです。
そのため、親などが他界して住む人がいなくなった家(マンション住戸含む)が空き家となる場合に着目してデータ分析を行いました。
マップを作成するに当たっての元データや算出の考え方はINDEXの最終項目「データの算出法・考え方」を参照いただければ幸いです。
―2つめは?
野澤さん:
空き家数に着目した点です。空き家問題を語る際に、よく指標とされるのは空き家率です。しかし空き家率は分母となる住宅総数が多い大都市では非常に低く、地方では高くなる傾向があり、結果として「空き家は地方の問題」という認識を強化してしまったように感じています。
空き家の絶対数が急激に増えるということは、今後、実家を相続した後、どうしてよいかわからず困る人の数も増えるということに他ならず、その支援策の構築を急がなければなりません。そのため絶対数が1万戸を超える市区町村に関しては、空き家の発生抑制の対策を急ぐべき自治体として具体的に記しました。
ただし、絶対数ではこぼれ落ちてしまう比較的人口の少ない市町村も事態の深刻さは同じで見過ごすことはできません。そこで、都道府県ごとに空き家増加率の上位10市町村のデータも併記することにしました。兵庫県では芦屋市、宮城県では仙台市の泉区など、高級住宅街を抱える自治体が各県で増加率1位となる意外な結果となりました。
ぜひ一人でも多くの方に、このデータをご覧頂き、「住まいの終活」の必要性を切実に感じていただければと思います。
※本予測では、国勢調査と同様に、各市町村、東京都特別区部の各区及び政令指定市の各区の区域で分けて集計しました。(この予測では2008年以降のデータに基づき分析を行ったため、
2008年時点で政令指定都市ではなかった相模原市・岡山市・熊本市は、市全域で予測マップを表記しています。)
北海道

※令和2年国勢調査(総務省) 平成30年住宅・土地統計調査(総務省)令和元年全国空き家所有者実態調査(国土交通省)をもとに明治大学 野澤千絵教授が分析・作成 以後47都道府県全て共通
2万戸以上:
旭川市 函館市
1万5千戸以上:
札幌市中央区 札幌市豊平区 札幌市北区
1万戸以上:
釧路市 札幌市南区 小樽市 札幌市西区 札幌市東区 苫小牧市

※小数点第2位を四捨五入し順位づけ 以後47都道府県全て共通
東北
青森県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
青森市 八戸市
1万戸以上:
弘前市

岩手県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
盛岡市
1万戸以上:
なし

宮城県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
仙台市青葉区 石巻市

秋田県

2万戸以上:
秋田市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

山形県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
山形市

福島県

2万戸以上:
いわき市
1万5千戸以上:
郡山市 福島市
1万戸以上:
なし

関東甲信越
茨城県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
水戸市 日立市

栃木県

2万戸以上:
宇都宮市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
足利市 栃木市

群馬県

2万戸以上:
高崎市 前橋市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
太田市 伊勢崎市 桐生市

埼玉県

2万戸以上:
川口市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
川越市 所沢市 越谷市 春日部市 熊谷市

千葉県

2万戸以上:
船橋市 市川市 松戸市 柏市
1万5千戸以上:
市原市
1万戸以上:
佐倉市

東京都

2万戸以上:
世田谷区 八王子市 足立区
1万5千戸以上:
大田区 杉並区 練馬区 江戸川区 北区 板橋区 葛飾区 江東区 町田市
1万戸以上:
荒川区 品川区

神奈川県

2万戸以上:
相模原市 横須賀市
1万5千戸以上:
藤沢市
1万戸以上:
平塚市 横浜市戸塚区 横浜市鶴見区 鎌倉市 横浜市青葉区 横浜市旭区 横浜市港南区 横浜市港北区 茅ヶ崎市

新潟県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
長岡市
1万戸以上:
上越市 新潟市中央区

山梨県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
甲府市

長野県

2万戸以上:
長野市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
松本市 上田市

北陸
富山県

2万戸以上:
富山市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
高岡市

石川県

2万戸以上:
金沢市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

福井県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
福井市

東海
岐阜県

2万戸以上:
岐阜市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

静岡県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
静岡市清水区 静岡市葵区 富士市 沼津市 浜松市中区

愛知県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
一宮市 豊橋市 春日井市
1万戸以上:
岡崎市 豊田市

三重県

2万戸以上:
津市
1万5千戸以上:
四日市市
1万戸以上:
松阪市

関西
滋賀県

2万戸以上:
大津市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

京都府

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
京都市伏見区 宇治市 京都市右京区 京都市左京区

大阪府

2万戸以上:
東大阪市
1万5千戸以上:
枚方市 高槻市 豊中市
1万戸以上:
八尾市 吹田市 寝屋川市 茨木市 岸和田市

兵庫県

2万戸以上:
姫路市 尼崎市
1万5千戸以上:
西宮市 明石市 加古川市
1万戸以上:
神戸市垂水区 宝塚市 神戸市北区 神戸市西区 川西市

奈良県

2万戸以上:
奈良市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

和歌山県

2万戸以上:
和歌山市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

中国
鳥取県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
鳥取市

島根県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
松江市

岡山県

2万戸以上:
岡山市 倉敷市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

広島県

2万戸以上:
呉市 福山市
1万5千戸以上:
尾道市
1万戸以上:
広島市安佐北区 東広島市 三原市 広島市安佐南区

山口県

2万戸以上:
下関市
1万5千戸以上:
岩国市 山口市 宇部市 周南市
1万戸以上:

四国
徳島県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
徳島市
1万戸以上:
なし

香川県

2万戸以上:
高松市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

愛媛県

2万戸以上:
松山市
1万5千戸以上:
今治市
1万戸以上:
新居浜市 西条市

高知県

2万戸以上:
高知市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

九州・沖縄
福岡県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
久留米市 北九州市小倉南区 大牟田市 北九州市八幡西区 福岡市南区 福岡市東区 北九州市小倉北区

佐賀県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
佐賀市

長崎県

2万戸以上:
長崎市
1万5千戸以上:
佐世保市
1万戸以上:
なし

熊本県

2万戸以上:
熊本市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
天草市

大分県

2万戸以上:
大分市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

宮崎県

2万戸以上:
宮崎市
1万5千戸以上:
都城市
1万戸以上:
なし

鹿児島県

2万戸以上:
鹿児島市
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
薩摩川内市 霧島市 鹿屋市

沖縄県

2万戸以上:
なし
1万5千戸以上:
なし
1万戸以上:
なし

分析編:“大都市だから大丈夫”はもう通用しない
―今回のデータを作成して改めて気づいたことや明らかになったことは?
-
野澤さん
-
2040年には全国の空き家数は今の2倍、712万戸となり、県庁所在地のおよそ7割で空き家数が2万戸以上になるという結果となりました。このことから今後、空き家問題は地方の過疎地から都市部へ広がり、しかも、これまでとは異なる「数」と「スピード」で空き家が増加する可能性があることが明らかになりました。
また意外だったことは、空き家の絶対数のみならず増加率も大都市圏の方が顕著に高かったことです。戦前から住宅地として発展してきた練馬区や大田区、芦屋市、過去にニュータウン開発や大規模団地の建設が行われた札幌市清田区、江別市、仙台市泉区、多摩市、横浜市金沢区や栄区などは増加率が4倍以上となりました。これらの多くが人気のベッドタウンです。
―人気のベッドタウンにも関わらず、空き家の増加率が高いのはなぜでしょうか?
-
野澤さん
-
持ち家の所有者の高齢化が進んでいるからです。ベッドタウンは、同じような時期に多くの住宅が供給され、同じような世代が一斉に購入しました。こうした大量の持ち家が、これから2040年にかけて一気に相続が発生するためだと考えられます。
空き家が増える一方で、今後の日本では住宅の需要、つまり住宅取得世代の人数が激減していきます。既に2010~2020年の10年間で、世帯主が25~54歳の世帯数は全国で22万世帯減少(2020年国勢調査)しました。それが2020年~2030年の10年間では274万世帯減、2030~2040年の10年間では238万世帯減と、ここ10年の減少幅の12倍ものスピードで減っていくと推計(国立社会保障・人口問題研究所)されています。
今回のデータの分析から言えることは「大都市だから大丈夫」「自分たちの街は売ろうとすれば売れているから大丈夫」というこれまでと同じ感覚が通用しなくなるエリアがかなり増える可能性があるということです。
対策編:相続発生後3年以内に「住まいの終活」を
―私たちは、どんな対策や備えをすればよいでしょうか?
-
野澤さん
-
相続発生後、3年以内の「住まいの終活」を目指しましょう。相続登記の義務化や相続した空き家の譲渡所得に対する税制上の特別措置など、多くの制度で「3年」という区切りがあるためです。そのためには相続発生前からの準備が重要です。相続した家族や親戚が円滑に住まいの終活ができるように各種契約時・建築時の書類の整理、土地の境界の確定、登記事項などの確認をしておきましょう。
特に重要なのが、その地域ならではの情報を家族で共有しておくことです。
例えば、将来の相談先として信頼できる不動産会社・NPOはどこか、その地域で実際に家は売れているか、その自治体の空き家バンクや移住施策は活発に取り組まれているか、近隣で子世代の住宅のための不動産を探している人はいないかなどです。
こうした情報は、地元を離れて住む子世代にはわかりませんし、インターネットで検索しても出てきません。地域とのつながりが切れていない現居住者の方が有益な情報を得られる可能性が高いのです。
なお、「住まいの終活」は、住まいを次の所有者・利用者へスムーズに引き継げるように条件整備をしていこうという考え方に立っています。ですので、ご高齢の親を住み慣れた家から早急に住み替えさせるべき、ということではありません。
―最後に伝えたいことはありますか?
-
野澤さん
-
相続の手続きや遺品整理、家族・親戚との話し合いが煩わしく感じてしまい、長期間なんとなく空き家のままになっている、そんな例は少なくありません。でも住まいやその土地が次の所有者・利用者にバトンタッチされていかなければ、その街は活気や魅力を失っていきます。そうした街にある家の資産価値は更に低下してしまいます。
特に、近年、東京などでは、中間所得層でも入手困難になるほど住宅価格が高騰しています。一方で、今後、都心にも比較的アクセスが良い街にある大量の持ち家で相続が発生することが見込まれます。こうした大量の持ち家が順次、住宅市場に出回っていけば、今のような入手困難な状況が改善される可能性もあると考えています。
一人一人が「住まいの終活」を当たり前にすることで、今ある街に新たな所有者・利用者を流入できる「余地」を生み出し、街の世代交代を図っていく、そのような取り組みを1日でも早く始めなければならないと思います。日本の空き家問題は待ったなし、そんな状況だと私は感じています。
―貴重なお話、ありがとうございました。
データの算出法・考え方
今回の予測は、地理情報システムを使用し、2020年国勢調査の町丁字別データをもとに、75歳以上のみが住む持ち家(戸建て・マンション住戸)が平均寿命を迎える10年後、一定割合が空き家化するとして推計し、これらを市町村ごとに集計したものです。また、2018年の住宅・土地統計調査の空き家(売却用・賃貸用・別荘等の空き家は除く)についても一定割合は活用・除却されていくとしました。
空き家化する割合は、国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査」の空き家所有者の今後の活用・解体意向に関するアンケート調査結果をもとに、持ち家が相続された後に、売る・貸す・解体する割合がどの程度になるかを都市特性別に設定し、空き家になる確率が高い家の数や地域分布を推計しました。
なお、2020年時点の国勢調査に基づくデータや現空き家所有者の活用意向の傾向を反映して予測したものであり、これまでの傾向がこのまま続いた場合という前提での予測となります。
その後の各地域の後期高齢者持ち家世帯の社会増減、災害等の発生や社会経済状況の変化、政策等の効果は含まれていません。
※本予測では、国勢調査と同様に、各市町村、東京都特別区部の各区及び政令指定市の各区の区域で分けて分析しました。また、人口規模が大きい政令指定都市は、市内で地域特性が大きく異なる地域もあるため、行政区毎に分析することが分析の目的に適していると判断しました。
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