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VRで社会は変えられる?テレビマンと売れっ子プログラマーが話してみた

仮想空間を、まるで現実かのように体験できるバーチャルリアリティー(VR)。離れた場所からひとつの空間に集まったり、現実ではありえない世界を体験できることから、コミュニケーションや学びのプラットフォームとして注目されています。NHKで『Virtual NHK』というVRプラットフォームを活用した多くの番組制作に携わってきた細川啓介プロデューサーと、そのプログラムに携わる「うーねこ」さんが、VRの未来について語りました。

?『未来王2030』

放送:NHK総合 2022年12月11日(日)午後4:30
不確かな未来を生き抜くヒントを、クイズで学ぶエンタメ番組。日本のお金にまつわる衝撃の事実や、今話題の副業のテクニック、さらには環境問題、校則やジェンダーなど…シリアスな社会課題をクイズとVRを駆使した演出で“自分ごと”化する。クイズに参加するのは、アバターとなった全国の若者約100人。果たして未来王の座に輝くのは誰なのか?権威あるテレビの国際コンクール、イタリア賞奨励賞を獲得した番組の第3弾。

<対談者>

細川啓介

『未来王2030』『プロジェクトエイリアン』『ゲームゲノム』等のプロデューサー。長年若者向け番組の制作に関わる。コロナ禍で企画していた公開収録番組の収録が難しくなったためVRを使った番組制作に踏み出し、その後、NHKでVRを使った様々な番組の制作に携わる。『未来王2030』は、イタリア賞・奨励賞や、アジア・テレビ賞 社会意識番組部門 最優秀賞を受賞。

うーねこさん

NHKのバーチャルプラットフォームの根幹部分を開発したプログラマー。前職では金融システムの開発に携わっていたが、ワクワクするような仕事がしたいとエンターテインメントの世界に飛び込み、NHKの番組にどっぷり関わることになった。最近では、文化資料館のデジタル化やバーチャルライブ技術の開発などを手掛けている。株式会社stu所属。

VRを使った番組制作が始まった経緯

NHKの数々のVR番組に関わってきた二人。まず最初に、どのようにVRに携わるようになったのか聞きました。

細川

僕は以前『沼にハマってきいてみた』という番組の担当をしていたんですが、大学の学園祭とコラボレーションして番組のファンを増やそうという企画がコロナ前から持ち上がっていたんです。実際に、数万人規模の学園祭をやる大学が、協力してくれることも決まって。いわゆる古きよき公開収録スタイルの番組みたいなものを進めていたなかでコロナ禍が始まって、学園祭の開催可否自体がわからくなったんです。その時点で番組の企画を取り下げることもできたんですが、やっぱり学生にとってフェスって、一生の思い出じゃないですか。それがコロナで完全に奪われるのはあまりにも気の毒、何かしらの形で実現できないかなと考えたときに、じゃあ、バーチャルだと。

最初は既存のVRプラットフォームを利用することも検討していたんですが、様々な理由から断念しました。海外のプラットフォームの場合日本に窓口がなく、万が一番組制作でトラブルがあったときに保障がなく、リスクが高い。VRゴーグルの使用などを前提にしたプラットフォームだと、一般の視聴者が参加しづらい。一度にたくさんの人(アバター)を入れたうえで、その様子を撮影して番組にするのに適したプラットフォームがない、などなど。

半分心折れかけたところに現れた救世主が、うーねこさんをはじめとする開発会社の皆さんでした。ちょうど独自のVRプラットフォームの開発を考えていたということでお互いの方向が一致したので、じゃあ、『沼ハマ』を起点に、一回やってみようというのがスタートなんですね。

うーねこ

私は前職は金融の分野で大規模なシステムの一部を開発していたんですが、本来的には音楽やゲームの方に強い興味がある人間なので、一生続ける仕事としてはワクワク感に欠けるなと思っていました。趣味でゲームエンジンを触ったりしているうちに、現在の会社から声をかけていただいたんです。

「どうしてもシステム回りのプログラムを書ける人がいなくて、どうですか」みたいな感じで。じゃ、緊急でやりますみたいな感じで参加して、実際、ほぼほぼ1~2か月で、初期のNHKのバーチャル空間の通信システムを構築した感じだったと思います。

細川

その際は本当にありがとうございました。VRのステージやアバターなど通常のテレビ番組とは全く異なる制作フローで、勝手が分からずうまくいかないことも多かったですが、『沼ハマ』の本番のとき、VR空間上でアバター参加者が番組を楽しむ様子を見て「テレビの新たな可能性が広がったかも!」と感慨深かったです。Virtual NHKでは、普段はスタジオの大きなカメラで撮影しているカメラマンたちが、ゲームコントローラーを持ってVR空間を撮影するのですが、長年培ってきた撮影技術でVR空間を切り取る様を見て、僕の隣にいたうーねこさんが「うわー、テレビだー」とつぶやかれたのも、とても印象に残っています。

こうして立ち上がったVRプラットフォーム、一回で終わらせるのはもったいない、ということで、いろいろな番組に参加してもらっています。その都度必要とされる演出に合わせた、プラットフォームの新機能をうーねこさんたちが頑張って作ってくださってるっていう感じですね。

カメラは肩に担ぐのではなくコントローラーで操作する
カメラは肩に担ぐのではなくコントローラーで操作する
うーねこ

我々には、どういう機能を作れば番組としてどんなことができるのかという発想が乏しかったんです。テレビ番組の制作の企画のような経験がもちろんないので。毎回、なるほど、そういうことがしたくてこういう機能がほしいんですね、みたいなところは結構驚きもあるし、必要なものがはっきりしてくる点はありがたいところだなと思っていますね。

例えば、今回の『未来王』では、実写の映像とVR映像を合成して使いたいというニーズがありました。テレビ局の中でカメラの位置や向きやズームの値をデータとして送ってもらって、それを受け取ってどうやって実装するか考える。普通のメタバースとは要件が大きく異なっていて、そういうところはすごく面白いなと感じます。

VRを利用したNHKの番組

2020年に本格的な運用が始まったVirtual NHK。今では様々な番組に使われています。これまで活用事例から、VRでの番組制作のメリットがいくつか分かってきたといいます。

①距離を超えられる

ひとつは、距離を超えられること。Virtual NHK開発のきっかけとなった『沼にハマってきいてみた ヌマーソニック2020 ~尊きバーチャル学園祭~』。コロナ禍で表現活動を発表する大会や学園祭などが次々と中止になっている中、リモートで参加できるというVRの利点を生かして、全国から多くの学生を集め、ライブやコントなどで構成したフェスを開催しました。わざわざ東京のスタジオや会場に足を運ぶ必要がなく、また感染リスクをともなうことなく、ポップなVR空間を舞台にしたフェスを楽しむことができたのです。

『沼にハマってきいてみた ヌマーソニック2020 ~尊きバーチャル学園祭~』 2020年10月26日放送
『沼にハマってきいてみた ヌマーソニック2020 ~尊きバーチャル学園祭~』 2020年10月26日放送

『沼にハマってきいてみた』

?『沼にハマってきいてみた』についてはこちら

②ハードルを超えられる

もう一つは、アバターとして参加できることで、顔出ししづらい事情を抱えた人が出演したり、センシティブな話をすることへのハードルが下げられることです。『ハートネットTV ひきこもりVR親子対談』では、ひきこもりの子を持つ親と当事者の、悩める双方が、動物や魚などのアバターとなって、意見を交わしました。面と向かっては言えなかった本音もいいやすく、また相手の話も、アバターを通してだと受け止めやすかったと言います 。

『ハートネットTV ひきこもりVR親子対談』 2020 年 11 月 16 日から随時
『ハートネットTV ひきこもりVR親子対談』 2020 年 11 月 16 日から随時

『ハートネットTV ひきこもりVR親子対談』(1)親子のコミュニケーション

?『ハートネットTV  ひきこもりVR親子対談』についてはこちら

③時空を超えられる

さらにVRでは、過去の世界に“タイムトラベル”することもできます。『クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972』では、50年前の出来事である、沖縄の本土復帰を若い世代に伝えるために、様々な資料や取材をもとに、復帰当時の沖縄の街をVR空間に再現。全国各地から集まった7人の若者がアバターとなって時空旅行をしながら、沖縄の歴史を学びました。本土復帰当時を知る70~80代の「語り部」たちにも、本人の50年前の写真をもとに作った“若者アバター”として出演してもらい、今の若者たちと交流しました。アバター同士で交流することで、お説教くさくなく、語り部たちの言葉が響いたと参加者からは好評でした。

「語り部」は50年前の姿で登場
「語り部」は50年前の姿で登場
『クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972』 2022年5月11日放送
『クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972』 2022年5月11日放送

『クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972』

?『クローズアップ現代スペシャル VR時空旅行→沖縄1972』についてはこちら

④違いを超えられる

そして、最後は違いを超えられる、こと。開発番組『プロジェクトエイリアン』では、背景や価値観の全く異なる一般の若者4人が、エイリアンのアバターに身を包みVR空間で交流する様子をドキュメントしました。番組に参加したのは、

・「SNSで権利主張するアクティビストが苦手」という無職で実家暮らしの男性
・マイノリティのために活動をする在日韓国人の女性
・家庭環境がすさんでいたことから「頑張らない人が嫌い」と考えるようになったホストの男性
・セクシュアリティを理由に彼女の両親から結婚を反対されている、トランスジェンダー男性

現実世界では出会うことのなかった、ともすれば対立しかねない人たちが、外見や素性を隠して、同じエイリアンとして交流。お互いの素性を知らないからこその「素のコミュニケーション」で共感しあい、互いの素性を知った後も、その「違い」を認め合っていきました。監修を務めた社会心理学者もVRは分断や差別問題を考える上で有効なツールになりうると語っています。

『プロジェクトエイリアン』 2022年9月20日放送(第2回鋭意制作中!)
『プロジェクトエイリアン』 2022年9月20日放送(第2回鋭意制作中!)

『プロジェクトエイリアン』

?『プロジェクトエイリアン』についてはこちら

NHKでは他にも様々なVRを利用した番組を制作しています。

うーねこ

当初、活用できる可能性として挙げられていたものに、この2年でどんどん具体例が出てきたという感じがしますね。

細川

そうですね。どこからでも接続、参加できる。顔を出さなくてもアバターで参加できる。VR空間ならではのゲームが体験できる。ある種のセールスポイントとして幾つか言われていた点が、それぞれいい形で使われている番組が広がってきているというイメージです。だから全然想像してなかったということではないんですけど、なるほど、こうやってつながっていくんだみたいな感じですかね。

うーねこ

過去の番組で使うために作られた機能を組み合わせて新しい演出を実現したりしていて、どんどん効率的になってきているなと思います。結果としてクオリティも上がっていっていますよね。

細川

例えば『ヌマーソニック』 や『未来王2030』でも、参加した人たちの満足度はすごく高いですね。アバターとはいえタレントと近くにいれるとか、そういうことも一つのメリットにはなるのかなと。

それに、『プロジェクトエイリアン』にしても先入観を排して、アバターだからこそできるコミュニケーションは間違いなくあると感じます。ある意味、関係性をちょっとフラットにするというところもあるのかなと。世間的にはこっちのほうが偉いとか、こっちのほうが下ってなってる人たちも、VRの中だったらフラットになる気がします。

VRは社会課題解決に役立つか?

うーねこさん
うーねこ

VRにはさまざまな可能性がありますね。例えば、リアルだとハードルが高すぎるものに対して、VR の世界でちょっとずつならしていく。例えば不登校であったりだとか、社会不安障害であったり、対人不安であったりみたいな方に対して、安全が確保できる状態で、徐々にステップアップしていくみたいなハードルの調整が、バーチャルであればすごくやりやすい。身体や精神に危険が及ばない状態でチャレンジすることができる場所としてうまく使えるのではと思います。

細川

そのときにゲームの要素って結構大事なんじゃないかなと思っていて。何かしら「フック」がないと人ってやりたいとか頑張ろうと思えなかったりするから、こちらが知ってほしい、伝えたいことにゲーム要素が織り込めるのがVRのよさなんじゃないでしょうか。

やっぱりインタラクティブであるということがポイントだと思います。そこから生まれる「体験」というのが、これまでテレビでは実現できてなかったところかなと。画面の中に自分が入り込んで、手触りがあるような体験をするということが今までのテレビと質的に変わってきているなというところです。それが、社会課題についてもっと知りたいとか、より積極的にコミットしたいというところにつながってくるんじゃないかなと思いますね。

うーねこ

そのとおりだと思います。私はいま京都府亀岡市の文化資料館のデジタル化という案件に関わっているのですが、例えば無形民俗文化財である亀岡祭りのようなものについては、単に3Dデータとしてスキャンしておけばいいというものではありません。データとして残すだけではなくて、空間に入った人が能動的に関わって、記憶だったり体験として自分ごとにするっていうことをしていかないと、これらの保全にはつながらない。

他にも、絶滅危惧種であるアユモドキやオオサンショウウオなどの生き物を、デジタルの力でどのように保全するのか、ということも考えなくてはいけません。亀岡市文化資料館の学芸員さんに聞いた話として、水路に迷い込んだオオサンショウウオを川に戻してあげるようなイベントが毎年のように発生しているそうなのですが、それをVRの世界でミニゲームとして実装しようと考えています。

映像や本のように一方的に情報を得るだけじゃなくて、小さな問題を与えて解決を促すような、ゲーム的な要素を作ることが肝要だと感じますね。それを子どもだったり若い世代にやってもらうことによって、まずはゲームの中で興味を持ってもらって、ゆくゆくは現実における同様の問題についても意識を高めてもらうみたいなことができるのではと思っています。

細川さん
細川

社会課題の解決に何が大事かということでいうと、“自分ごと”にできるかどうかというのが第一歩ですよね。例えばグリーンランドの氷河がどれくらいのスピードで解けているのか、すごく遠いことに感じてしまうんだけど、VRでは目の前で起きているようにも見せられるから、一気に自分ごとにしてくれる強さをVRは持っているのかなと思います。

ただこれは諸刃の剣で、それがどこまで真実なのかというのが常につきまとう問題だなと思います。安易にやってしまうとミスリードになってしまう可能性もあるし、センセーショナルな演出をやろうとするのであれば、資料集めや取材は徹底的にする必要があると感じますね。

『未来王2030』に向けて

VR空間でSDGsについてクイズに参加しながら学ぶ『未来王2030』。今回は、コロナ禍で問題になっている「若者の不安」の問題もテーマにしています。

細川

この番組のミッションは、SDGsや若者が直面する社会の問題など、シリアスで難しいテーマを、少しでも身近な問題として知ってもらうこと。それから、SDGsなど社会課題に取り組む若者たちを応援し、こうした問題に関心のない層との懸け橋になること。そのために、VRをフル活用しています。①距離を超え(アバターで全国からリモート参加)、②ハードルを超え(テレビだと緊張する一般の若者たちも、アバター参加なら生き生き!)、③時空を超え(VRで近未来の渋谷を街を体験する)、④違いを超える(SDGs非ガチ勢も、ポップなVR映像と楽しいゲーム演出で、「ゲーム実況」を見ているような感覚で、知らないうちにSDGsマインドに!)と、現状Virtual NHKでできることをすべて詰め込んだ番組ですので、是非ご覧いただきたいと思います。

うーねこ

今回、空間に置いてあるアイテムを使ってクイズをしたり、水中を自由に遊泳できる移動モードが新たに追加されたり、実写合成機能を大幅にバージョンアップしたりと、技術的には大きなチャレンジがいくつもありました。個人的にイチオシのポイントは実写合成機能です。クイズ参加者のアバターとスタジオの芸能人の方々といった、バーチャルとリアルの存在が同じ空間を共有している様子が自然に撮れるという技術なのですが、そこにも注目して欲しいと思います。

細川

最後に、いろいろな社会課題解決に取り組んでおられて、一緒にVRを使って課題解決をしたいという方がいたら、ぜひ声をかけていただければと思っています。そういうアイデアをお待ちしています。

うーねこ

私たちも、一緒にやってくれるプログラマーを募集しています(笑)

?『未来王2030』

放送:NHK総合 2022年12月11日(日)午後4:30
不確かな未来を生き抜くヒントを、クイズで学ぶエンタメ番組。日本のお金にまつわる衝撃の事実や、今話題の副業のテクニック、さらには環境問題、校則やジェンダーなど…シリアスな社会課題をクイズとVRを駆使した演出で“自分ごと”化する。クイズに参加するのは、アバターとなった全国の若者約100人。果たして未来王の座に輝くのは誰なのか?権威あるテレビの国際コンクール、イタリア賞奨励賞を獲得した番組の第3弾。

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