
無職男性(33)が、一念発起してVR空間に飛び込んでみたら・・・12%気が楽になった。
人生、何がキッカケでどうなるかわからない―。そう語るのは、3年ほど前から無職で実家に暮らすようになった「こうよう」さん(33歳/仮名)。
家電メーカーでの仕事に、趣味のゲーム制作に精を出していましたが、長年連れ添ったパートナーからの婚約破棄が原因で心身に不調を来たし、現在に至ります。
回復に向けてもがくなか飛び込んだのが“VR空間”でした。今回は、こうようさんと一緒にVRの可能性について探っていきます。
プロジェクトエイリアン ”分断”が進む社会をVR×エイリアンアバターで解決!? 全く新しいドキュメンタリー番組!
放送:9月20日(火)[NHK総合]
再放送:12月10日(土)15:55~[NHK総合](一部地域を除く)
異なる背景や価値観を持った若者4人が、お互いの外見や属性などを隠し、エイリアンのアバター
としてVR空間で交流。“違い”を乗り越えて分かり合うことができるのか?
VR空間に飛び込む番組に参加を決めた理由は?

NHKの開発番組『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。この場への参加を希望したこうようさん。ふだんは人との交流を避け、SNSで権利主張する人を疎ましく感じていましたが、このVRの企画はどのように映ったのでしょうか?
Q.まず、こうようさんが無職となった経緯を教えていただけますか?
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こうようさん
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私…ちょっと3年くらい前に一緒にいた人と別れることになったんですけど、向こうがね、婚約破棄ということで。たぶん出会い系の掲示板で出会った人と…みたいな。
で、そのときにまあ、精神的に病気になってですね、もういっそのこと誰が見てもダメ人間っていうくらい適当に生きて、前のことは切り離して生きていこうかなみたいな。なので、私は今無職しています。
Q.なぜ、今回の企画に参加しようと思ったのでしょうか?
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こうようさん
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今の自分は、自分の行き場というか、生きる場所っていうのが本当にわからなくなっている状態なので。正直なところ、よく言われている『無敵の人』に近い状態かなって気はしています。自分の気持ちがもう、落ちるところまで落ちて、失って困るものがほとんどない状態ですね。
人生、本当に地をはって進んでいるような状態なので、もうこれ以上何があっても、今より悪くなることはないなと思っているので、何もないよりかは、何か起こるきっかけがあればいいなと思っていて、お話を受けさせていただきました。
Q.参加してみてのご感想はいかがでしょうか?
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こうようさん
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はじめはだいぶ不安もあったのですが、皆さん企画に乗り気でしたし、話をしていても、お互い、話の距離の取り方が心地よかったです。気を遣いつつも、話すところは話していこう、という感じでしょうか。お互い緊張しながらも、進めていけたなと思います。
VR空間で“エイリアン”になってみて

番組では、現実社会では交わり合わないような若者4人に、VR空間でお互いの外見や素性などを隠して、一緒に月面旅行をしてもらいました。その際、人間の姿ではなく、“エイリアン”のアバターのデザインを細かく選んでもらったのですが、意外な効果がありました。
Q.こうようさんが選んだエイリアンのアバターデザインについて、どのような狙いでこのフォルムにしたんですか?
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こうようさん
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見た目は、今の自分が正直、自暴自棄になって暗い人間になっちゃっているので、それを暗い青色で表してもらって。もう、人間からだいぶ遠ざかった存在に、自分でも感覚としてはなっているので、はっきり人間じゃない別物になれて、ちょっと楽しさもありましたね。

そう話すこうようさんですが、今はアバターに愛着が芽生えたと語ります。
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こうようさん
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最初にエイリアンの姿でVR空間に飛び込んだとき、他の参加者の方から「かわいい」と言っていただきまして…。素直にうれしかったというか、ああ、よかった、気持ち悪がられなくて、ぐらいの(笑)。あんまりいい見た目じゃないほうが過度に期待されずにすむかなみたいなのはあったんですけど。でも、「かわいい」って言われたらうれしくなっちゃいますね。
Q.アバターでの交流は改めてどうでしたか?
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こうようさん
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思ったより楽しかったです。昔やっていたオンラインゲームで、多数の人とコミュニケーションしたことはありますけど、それぞれの内情に踏み込むような話をするのって今までもなかったし。
エイリアンのアバターで泣いてみたり喜んでみたりとかっていうのが、うん…。やっぱりコミュニケーションとしてすごくよかったなと思いますね。
特に現実世界との割り切りの上で、あんまりこういうことをすると失礼かなみたいな、そういうことをあんまり気にしないでやりとりができるというか。すごく気楽になった面もあるかなと思いますね。あのおかげで。
Q.気楽さについて詳しく教えていただけますか?
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こうようさん
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やっぱり人と実際に会うと、次に会うことがあるのかとかを考えると、どうしても…うーん…いったん遠慮してしまったりとかいろいろあると思うんです。やっぱり、今、仕事しないこともそうですけど、いろいろな面で今の自分には自信がないので、とにかくあまり自分を取り繕う必要がないなって状態でまず挑むことができたと思います。
VR空間がもたらした“自己開示”

『プロジェクトエイリアン』では2回に分けて収録を実施。1回目は相手が何者か分からないなかで距離を縮めてもらい、2回目では自分の素性を他の参加者に開示するか否かを選んでもらいました。しかし、こうようさんは自らの意思で1回目の収録の終盤に、ふだんは人に話さない「自分が無職であること」とそのいきさつを語り始めました。
Q.こうようさんは、なぜあのとき、自分のことを語ったのですか?
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こうようさん
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極端な話、最後にこの人たちに知ってもらってもいいかなみたいな。この人たちは特別、最後こういう話をする相手にしてもいいかなみたいに思ったんですよね。あの3人は、私の話を聞いても面倒くさいというか、億劫(おっくう)にはとらえないでおいてくれるだろうというか。
その上で私がダメな人だと思われても、別にそれもまたいいんですけど。一種の欲みたいなもんでしょうね、こういう自分がいたんですっていう話を知ってくれている人を増やしたいっていうか。あそこまですんなり話せた、話そうってなったのは、他の3人の優しさっていうか、そこまで拒絶せずにいてくれるかなっていう、妙な信頼が芽生えていたんだと思います。

2回目の収録では「SNSで権利主張する人が苦手」という、自身の価値観を他の参加者にシェアしたこうようさん。しかし、参加者の中にはマイノリティとして権利を主張してきた人も参加していることがわかりました。
Q.今回、2回目の収録でお互いの素性が明らかになったのですが、その時の心境をお答えいただけますか?
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こうようさん
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どうしよう、どうしよう、と思っていました。決してその属性の人たち全員を悪く言いたいわけではないし、まして目の前の「たくや」さん(トランスジェンダー男性)や「ウォル」さん(在日韓国人の女性)を傷つけたいわけではありませんでした。気まずさが残って、真意を語りたい、と思っていたのが実情でした。
Q.その後2人とそのことについて語り合ってみて、いかがでしたか?
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こうようさん
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まず、今まで自分がマイノリティと言われる人たちにツッコんで話したことはなかったので、すごく新鮮でした。
また、ウォルさんもたくやさんも、自分の発言を頭ごなしに否定せず、くみ取ってくれようとしてくれて、自分も呼応したいと思いました。主張は必要だけど、受け取る側の態勢が出来ていないときだってあるし。お互いが妥協点を探り合っている感じでしたね。
Q.何か変化は生まれましたか?
正直、今もSNSで権利主張する人のことは快く思っていません。でも、そのレベルが変わったというか。今までは皮肉的に冷笑的に見ていた部分もあったんですけど、今はウォルさんやたくやさんの顔が浮かんで、彼らのためにも「そういう言い方だと届くものも届かないよ!」と思うようになりました。
“エイリアン”になって手に入れたこと

現在も心療内科に通院しているこうようさん。参加後、少し心境が変化したと語り始めました。
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こうようさん
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元気だったころの完璧だった自分からは離れようと思うようになりました。今までは、仕事にゲーム制作に打ち込んでいた当時の自分を思い返しては、現状にいらつき、とことんダメになってやろうと自暴自棄になっていたのですが、皆さんの話を聞いて、ダメな自分でもこれ以上人生を棒に振っちゃいけないなって。
月面旅行を経て、それぞれの話を聞いて、久しぶりに人を応援したくなる気持ちになったんです。人を応援したいなって思ったときに、社会で生きていく難しさが変わらないことはわかっていても、ワンチャン良いことが起こるかもしれない、となぜだか思えていました。
Q.冒頭、ご自身のことを「無敵の人」に近いと表現されていましたが、それは収録を経て変わりましたか?
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こうようさん
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ゲージで言うなら、ちょっと減ったと思いますよ。12%くらい減りましたかね(笑)。別に根本的に変わったわけではないんですけど、今は、自分の中にある「愛せるダメさ」を探しています。体力や気力をかき集めて、何か制作できたらいいな、と。また4人が集まって、ラスボスを倒す、みたいなのがあってもいいですよね(笑)
Q.最後に、この企画に参加することを誰かに勧めるとしたら、どう勧めますか?
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こうようさん
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たぶん、自分から手が伸ばせる状態の人だったら、これに参加しなくてもどうにかなると思います。ダメなときは、自分もそうですけど手が出ないと思う。でも、多少強引でも自分の手を引っ張ってほしいんだったら、出てみるといいと思いますよ。何かキッカケになるモノが見つかることもあると思うんで。

他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。
プロジェクトエイリアン ”分断”が進む社会をVR×エイリアンアバターで解決!? 全く新しいドキュメンタリー番組!
放送:9月20日(火)[NHK総合]
再放送:12月10日(土)15:55~[NHK総合](一部地域を除く)
異なる背景や価値観を持った若者4人が、お互いの外見や属性などを隠し、エイリアンのアバター
としてVR空間で交流。“違い”を乗り越えて分かり合うことができるのか?