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VRは社会を変える?アーティストと専門家が話してみた。

NHKが取り組む「VR×社会課題」プロジェクト。開発番組『プロジェクトエイリアン』では、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断”を乗り越えるきっかけとなる場を作ろうとVRの活用にチャレンジします。

番組の収録を終えて、企画とデザインを担当したアーティストのチョーヒカルさん、監修を担当した東洋大学の北村英哉教授、そして東京大学で課題解決型ジャーナリズムを研究する清水麻子さんの3人が語り合いました。

〈出席者〉
チョーヒカル(アーティスト)
北村 英哉(東洋大学 教授)
清水 麻子(ジャーナリスト/東京大学大学院 博士課程)

〈進行〉
占部稜(NHKディレクター)

なぜアバターで課題解決? デザインに込めた意図

占部 稜(NHKディレクター)

今回、私たち番組チームと一緒に企画とデザインを担当したチョーさん、今回の企画のスタート地点をご説明いただけますか?

チョーヒカル(アーティスト)

私自身そもそも中国籍で、日本で生まれ育ったという経験から、大きな属性に属せない、狭間に陥ってしまうような人たちの声を「エンハンス(強化・向上)」できないか、そういう人たちが参加できる共同体を作れないか、という思いがありました。

一人ひとりが違う人間であることを中心的な価値にしたいと考えたときに思いついたのが「エイリアンアバター」でした。

出演者には自分でエイリアンのデザインを選択してもらい、それをチョーさんが書き起こし3D化した
出演者には自分でエイリアンのデザインを選択してもらい、それをチョーさんが書き起こし3D化した
チョーヒカル(アーティスト)

企画の考案段階では紆余曲折あって、最初はエイリアンとなった人にフォーカスを当ててインタビューするという手法を考えました。しかし、現代社会の“分断”において、そもそも会話すら生まれていない現状に危機感を覚えるようになり、エイリアンアバターという装置を使って会話を促し、“分断”にアプローチできないか、というミッションになっていきました。

エイリアンアバターどうしの交流は、ぱっと見の印象、人種や性別といった見た目の情報をフラットにでき、新しいコミュニケーションを生み出せるのではないかとチームで考えたのです。

人種や国籍、性別、学歴など、様々な理由で社会の分断が起きている今、お互いの外見や属性などを隠した状態からコミュニケーションを始めれば、価値観や考え方の異なる他人とわかり合えるのではないか?そうした仮説のもと、番組は動き始めました。

北村 英哉(社会心理学者)

アバターが今回のようなエイリアンであることは、デザインとして大成功しているのではないかと思っています。

外見や生の姿から見える先入観に我々は苦しめられるところがあって、そこをフラットにできた。さらに「エイリアン」という価値観がまさに秀逸なアイデアで、「自分たちはマイノリティのエイリアンなんだ」という開き直った部分から出発できて、VR空間の世界観全体から、エイリアンという存在として認められていることへの精神的な安全感ももたらされていると感じました。

何を発言しても、自分の歴史のなかにマイノリティな部分があっても、「だってエイリアンだもん」と吸収できてしまうベースが大きかったと思います。デザインもおどろおどろしいわけではなく、かわいさがあるので円滑なコミュニケーションの促進になったと思います。

チョーヒカル(アーティスト)

「Alien(エイリアン)」という単語は、アメリカでは移民への排斥で使われてきた言葉なので、その言葉のイメージをマイノリティ自ら変えていきたいという意図もありました。最初の懸念としては、相手の表情が見えないために、「沈黙」がアバターの平面的な顔になってしまい、どう機能するのか不安ではありました。

しかし見えない分、想像が働き「この沈黙、傷ついているのでは?」といったハラハラを覚えました。世界観を作り込んでくれたVRチームには本当に感謝です。

清水 麻子(課題解決型ジャーナリズム研究)

リアルな音声がVRのアバターにつながることによって、リアル感が余計に増したように感じます。このお声の方が現実にいらっしゃる、というのが鮮烈なイメージを伴って迫ってきました。また、ラジオに近い印象も覚えました。ラジオは人間に近いメディアとも言われていて、不特定多数の人に発信しているけれども、1人に話しかけられているような感覚を覚えます。

発信している人の声をしっかりと聞いていく、という行為は人と人を近づける、という効果があるので、そういった部分は今回の企画にも影響しているのかなとも思いました。

占部 稜(NHKディレクター)

北村先生と清水さんは、今回の収録にも立ち会われたのですが、どのようにご覧になられましたか?

北村 英哉(社会心理学者)

非常に面白かったです。今まで出会ったことがない属性の人たちでも、一人ひとり具体的に出会ってみると、嫌いな人物ではない。「あなたの考え方を私は気に入らないけど、あなたは社会の中にいていいよ」。これがダイバーシティ共生の本質です。

今回の番組では、考え方の違う人が、ぶつかって論争した上に納得しあった、という形ではなく、柔らかく、互いに意見の違いはありながら、承認できる小さいところを互いに探り合って、見つけ出そうと動いていることが印象的でした。

清水 麻子(課題解決型ジャーナリズム研究)

ソーシャルメディア上では誹謗中傷や対立の掛け合いが進み、解決策が導かれないまま、ジャーナリズムも信頼できない状況に追いやられています。しかし今回は、“報道”とは異なるアプローチから、職業や価値観など全く異なる価値観の人を集めて、本音をゆっくりと、柔らかなトーンでポジティブに建設的に語り合っていってもらう。その姿は、VRの効果も感じられて、とても楽しくワクワク見ました。

最近のSNSを見ていると疲れてくるのですが、この番組は、引き込まれるように4人の交流を期待しながら、本音のコミュニケーションが見られたことが、とてもよかったです。

VRと社会課題解決の可能性

NHKでは「Virtual NHK」というVRのプラットフォームを開発し、様々な番組での利用が広まっています。「ハートネットTV」では、ひきこもりや発達障害当事者のみなさんが安心して経験や思いをシェアする場として。SDGsクイズ番組「未来王2030」では、コロナ禍でも多くの参加者が集まれる場として、クローズアップ現代スペシャル「VR時空旅行→沖縄1972」では、VRで再現した本土復帰前の沖縄を旅することで若者たちに歴史を自分事として考えてもらう場として・・・。「プロジェクトエイリアン」の制作に参加して、VRと社会課題解決の可能性を3人はどう感じたのでしょうか?

チョーヒカル(アーティスト)

私自身、VR空間を用いた表現に初めて挑戦したのですが、新しいコミュニケーション方法の可能性を感じました。別の場所にいるのに、同じ空間にいて、対面していないのに対面しているという感覚が味わえる。オンラインゲームもよくプレイするのですが、ボイスチャットで話している場合、匿名性や、相手が直接手の届く場所にいない、という安心感があります。

それに加えて今回のプロジェクトエイリアンでは、普通のゲームと違って「会話」に注力される仕掛けを演出チームと考えたので、相手はどんな人だろう?と考えるといったコミュニケーションを生み出すことができたのだと思います。

北村 英哉(社会心理学者)

VR空間のような遠隔ネットコミュニケーションは、重複した会話がしにくく、今回の企画にフィットしたように感じます。日常の会話で価値観が異なる場合、「いやいや、それは・・・」と割って入って否定をする。しかし、リモートコミュニケーションの場合、話者の話をいったん聞こう、となる。それぞれの態度をはっきりゆっくり話す、というやりとりに向いていると考えられます。かなり便利でやりやすそうだという印象を持ちました。

また、チョーさんが話したようにVR空間の安全性も注目すべきと思います。自分の部屋から参加しているということは、基本的なところの気楽さがあって、相手を受け入れる余裕を生み出している気もします。推測ですが、人を見た目で判断するルッキズムの傾向が強い日本において、見た目が違いや格差、劣等感、そういうわだかまりを発生させるのですが、そういうことを遮蔽するところがあったと感じます。

清水 麻子(課題解決型ジャーナリズム研究)

相手の否定から入らず、「対話」という形式が取られたこともよかったと思います。冒頭チョーさんがエイリアンへのインタビューという形で企画を考えていたと話していましたが、インタビューだとSNSと同じく一方の意見を伝えるだけになってしまいます。

メディアは特に二元論で捉えられがちで、「自分」と「他者」、より際立ってくると「自分はいいけど、異なる他者はよくない」という形に議論が収斂(れん)されていきます。しかし、対話がベースになったことで、参加者がそれぞれを分けるということが発生しませんでした。

それぞれの抱える背景や悩み、1つのイメージでは捉えられない人間の中の多様性が出てきたことで、共感や気づきが芽生えたのだと思います。番組の最後に出演者の方が「自分の意見が変わった」と話されていたのが印象的で、意見を修正することは自分の人生観を変えたということで、これはまさに対話でしかできないと思います。

一方でこうした対話が、現実世界ではなかなか発生しないことも事実です。自分が何者であるか素直に「自己開示する」というハードルは、やはり高いです。だけど、だから社会に広がっていかないのではなく、まずはこうしたプロジェクトから広げていく、というプロセスが大事だと考えます。かなり攻撃的な人にも理由があるはずで、その理由を知っていくための努力も必要です。VRやアバターを使って、別のアプローチを考えてもいいと思います。

プロジェクトエイリアンに期待すること

北村 英哉(社会心理学者)

今回参加した4人の中にはいなかったような、他人から共感されにくいタイプや、音声でのコミュニケーションが難しい聴覚障害者など、いろいろな人たちの交流を見たいと思いました。

また、テレビの前の多くの人はマイノリティの知人が少なく、自分が何者であるかの「自己開示」を受ける機会が多くありません。番組を視聴しながら、「自己開示」をバーチャル体験することで、自分の心や見方に変化があったのかを反芻(すう)してもらえると、貴重な体験になると感じています。

清水 麻子(課題解決型ジャーナリズム研究)

視聴者にとって「自分を代表してくれている」いう人の出演がVR世界の中でも増えていってほしい、と思います。20~30代だけじゃない世代の人が参加してくれると興味深いです。また、反響を通じて一般の視聴者の声のなかから次に繋いでいく、というプロセスがあると、開かれた形で社会の課題解決に結びついていくのかなと感じています。

チョーヒカル(アーティスト)

分断があるなかで、コミュニケーションを諦めずに続けた先の景色をぜひ見て頂ければと思っています。
「こういう属性だから、きっとこうだろう」というラベルを抜いて出会い語り合う。「この地球のエイリアンは、面白い!」となって頂ければ嬉しいです。

ディスカッションは白熱し3時間近くに及びましたが、私(占部)を含めた4人全員がVRの持つ可能性を強く感じたことが大きな収穫でした。VRの有効活用法を今後も模索していきたいと思います。

番組は、9月19日(月)夜23時45分から総合テレビにて放送予定です。見逃した方はぜひNHKプラスでもご覧ください。感想・ご意見もお待ちしています。

プロジェクトエイリアン ”分断”が進む社会をVR×エイリアンアバターで解決!? 全く新しいドキュメンタリー番組!

放送:9月20日(火)[NHK総合]
再放送:12月10日(土)15:55~[NHK総合](一部地域を除く)


異なる背景や価値観を持った若者4人が、お互いの外見や属性などを隠し、エイリアンのアバター
としてVR空間で交流。“違い”を乗り越えて分かり合うことができるのか?

この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター
占部 稜

2011年入局仙台局を経て現所属。東日本大震災の取材経験から“課題解決型ジャーナリズム”を志すように。「あちこちのすずさん」「1ミリ革命」「プロジェクトエイリアン」などを担当。

みんなのコメント(5件)

オフィシャル
「プロジェクトエイリアン」制作チーム 占部稜ディレクター
2022年9月22日
このたびはコメントをお寄せいただき、誠にありがとうございます。
チョーさんや北村先生、清水さんと皆で読みながら、その熱量の高さに励まされておりました。
VR技術を用いた社会課題解決は、可能性の塊だと感じています。
近々、皆さまのコメントを元にした記事を制作予定ですので、一緒によりよい企画に仕上げていければ幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
感想
セキセイインコ
2022年9月20日
面白い試みだし、アバターのデザインがとても良かった。
しかし、たった2回ではお互いの事を話すのには時間が足りなかったように思う。もっと回数を重ねる事はできなかったのだろうか。
特定の属性に対して否定的な人が複数参加していたが、収録後のインタビューを見ても「この場にいる人は例外だから特別に認めても良い」という受け止め方をしただけで、根本的には変わっていないように感じた。
感想
ポピー
30代 女性
2022年9月20日
チョーさんの「分断にアプローチ」はとても良いことだと思う。アメリカでトランプ氏がトップになった時から、日本でも「分断」がテーマになった社会問題を耳にする機会が増えた。現実は価値観や生き方、文化等々全てにおいて、個々の人間にマイノリティがあるという視点に、皆が気づき他者に優しくなるべき。受け入れていくことと共生していく事は別次元の難しさはある。でも触れて(交流や対話)していくことで、歩み寄りや新たな解決策が見つかる可能性が出てくると思う。その場面を今回の番組でリアルにみれたので、とても良い取り組みだと感じた。世代を越えて沢山の「経験」という無二のマイノリティの共有はとても有意義だから、社会にそんな場面が溢れていくことを、この番組から発信して欲しいと思った。
感想
Sui
19歳以下 女性
2022年9月20日
とても良い番組でした。いわゆる「分かりやすい」「マイノリティ属性」を持つ方だけではなく、「攻撃的に属性を発信する人が苦手な人」も、そういうエイリアンとして交流の場に参加することを許されていたことが特に良かったです。今の社会には(SNSに顕著ですが)似た考えを持つ人たち同士が自分の考えを確認しあっているだけで、全く異なる価値観や考えを持つ人同士の対話が遮断されている現状があると思います。普通に生きているだけでは知り合わない、知り合ったとしても属性への偏見などによって交流が遮断されがちな人々の間に、お互いを尊重できる形での対話を実現したことは、本当に価値のあることだと思います。番組の企画者の方々の対談の中でも取り上げられていましたが、音声コミュニケーションによって自ずと属性が開示されがちな人(私がそうです)も、ひとりの「エイリアン」になれるような交流の場も今後設立されればなと思います。
感想
とうこ
2022年9月24日
 今の社会には、本当に、語れる場がありません。だからこそ、語れる場を作っていただき嬉しかったです。
 出演された方々が、自分とは違う価値観の人達と探り探り話をしていく様は、とても印象的でした。分かり合わなければならないのではなく、まずは、相手と関わるのを諦めないことが大切なのではないかと思いました。