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元官僚が語る“辞めた理由” 霞が関の働き方改革は?

“ブラック霞が関”とも呼ばれ、長時間労働にあえぐ官僚たち。

今回、情報提供窓口「スクープリンク」で、その実態について声を集めたところ、官僚を辞めた、ある女性が投稿してくれました。彼女が退職の理由として挙げた“アリ地獄”のような官僚の働き方とは?

一方で、省庁の現場では、働き方を見直そうと模索も始まっています。改善はどこまで進んでいるのか、合わせて取材しました。

(クローズアップ現代 取材班)

精神疾患で退職に追い込まれ・・・

「自分が人間扱いされていないように感じ、自分の今までの人生はなんだったのだろうと思わされた」

こう投稿してくれた20代の女性。7年前に環境省に入ったものの、その3年後に退職せざるをえなくなったといいます。実際にお会いして詳しく話を聞きました。

女性は大学時代に動物の保護に関心を持ち、環境省を選びました。2年目に自身の希望もあって、福島県で原発事故からの復興を担当することになりましたが、そこで待ち受けていたのは長時間労働でした。当時の勤務記録を見せてもらうと、退勤時間が「27時」など連日深夜に及んでいました。

元官僚の女性

「やっぱり眠すぎて 途中にトイレで10分寝るとかをやっていないと 本当にもたない感じではありました」

担当していたのは、除染作業で出た土や廃棄物を一時的に保管しておくための「中間貯蔵施設」の整備です。建設が本格化するなかで、地元に対する説明などの業務が増えていったといいます。特に負担となったのが、施設の安全性などを説明する報告書の作成です。

時には100ページ以上の資料を1週間という短い期日で完成させなければいけない場合もあったそうです。しかし、日中はトラブルなどへの対応で時間をとられ、資料作りにとりかかれるのは、夜になってからでした。1か月の残業は多い時で135時間、半年間の残業の平均も100時間近くにおよび、いわゆる過労死ラインを超えていました。

女性はうつ病を発症。翌年、退職せざるをえなくなりました。

元官僚の女性

「着替えて化粧までして、もう出られる態勢はできているのに、どうしても家から出る勇気がないというか、出ようとすると涙が止まらなくなっちゃうみたいな感じ。自分が何かの役に立てる段階に至っていなかったと思うので、辞めたとき、すごくふがいないという気持ちでした」

“アリ地獄にはまっていった”背景に深刻な人手不足

なぜ長時間労働に追い込まれてしまったのか。女性は「人手不足」が原因だと訴えます。当時の上司は女性以上に働いており、深夜、目を真っ赤にしてパソコンに向かっていたといいます。女性は上司に人員を増やしてほしいとお願いしましたが、業務を肩代わりできる人は他におらず、「すぐには難しい」と言われたそうです。

背景にあるのは「定員」の問題です。国家公務員の数は法律で上限が決められ、平成以降、大きく抑え込まれてきました。

平成の初期には約80万人いましたが、国立大学の法人化や郵政民営化に加え、人件費の抑制などを理由に、およそ28万人にまで減少しています。一方で、業務量の目安となる財政支出は増加傾向にあり、職員一人ひとりにしわ寄せがいくかたちになっています。

元官僚の女性

「残業時間を見ても1人でやる業務量ではなかったと思うんですが、人員を増員しようとしてもなかなか柔軟にはできない、人が潤沢なわけでもないですし。本当にどうしようもない状態で、みんなアリ地獄にはまっていっているような感じだったと思います」

女性は去年、国を相手に訴訟を起こしました。

人員を増やすなどの適切な対応を怠り、過酷な労働環境をそのままにした責任を問おうとしています。担当する梅田和尊弁護士と蟹江鬼太郎弁護士によると、官僚が働き方をめぐって訴訟を起こすケースは異例だということです。

元官僚の女性

「裁判という形で、事実を明らかにして問題を提起することで、これっておかしいよねって気づく人が増えるんじゃないかなと思っています。職員一人ひとりを大切にしていかないと、官僚になりたい人も減るし、せっかく入った人も続けられなくなる。そうすると行政の体制全体が維持できなくなると思います」

NHKの取材に対し環境省は「ご本人が健康を害されたことについては、胸を痛めております。一日も早いご快復を心からお祈りしています。現在係争中の案件に関係することについては、コメントは差し控えます」としています。

“組織のあり方の見直しを”

今回、「スクープリンク」に寄せられた声の中には、中央省庁の組織や運営のあり方を見直すべきだと訴えるものもありました。

20代・男性官僚

「霞ヶ関の長時間労働常態化にはいくつか要因があるが、その1つが人手不足。定員数が決められていて、これに縛られて人手不足なのに採用人数を増やせないのが大きな問題」

20代・女性官僚

「仕事が好きがゆえにコスト度外視でなんでもやろうとしてしまう組織体質があると考えている。 特に管理職級にはそういった考え方の方が多いため、残業をしていることを良いことのように考えている方がまだいるのが現状」

30代・男性(元官僚) 

「組織の課題は、課長職以上の管理職と呼ばれる人材のマネジメントの力量問題であると考える。こうしたスキル不足が招いている結果が、働き方改革が進まぬ実態であったり、官僚離れだと推測する」

危機感を高める各省庁 始まった働き方改革

各省庁の現場も危機感を高めています。定員を増やすことが難しい中、業務を効率化させることで労働時間を削減しようと動き出しています。

経済産業省では、去年から全省をあげて組織運営の抜本的な見直しに着手。先月(5月)、業務の効率化で成果を上げた取り組みなどの表彰式が行われました。

齋藤経済産業相

「職員一人ひとりが自ら持てる力を十分発揮できるように、 業務の大胆な選択と集中、効率化など引き続き組織経営改革を先頭に立って実現していきたい」

課題の一つとなっているのが、外国政府との交渉など国際的な業務です。海外との経済協定などを担当する「経済連携課」。

取材当日も、大臣の国際会議への出張準備の真っ最中でした。この課では、海外とのやりとりが日々行われ、時差の影響などで、長時間勤務になりやすいといいます。

さらに、近年、新たな国際的な協定が増えたことで、業務がふくれあがっています。事務レベルでの交渉や調整が日々行われており、この日は、おととし交渉が始まった新たな国際的な経済枠組みについて、日本、アメリカ、オーストラリア、シンガポールの4か国での交渉が行われていました。

課員

「IPEFクリーン経済協定のもとで、水素分野での具体的な協力の話を進めています。企業がビジネスを進める中で脱炭素化に向けて活動ができるように政府が制度や協力の内容を詰めているところです。こういったやりとりは毎週やっていますし、海外との議論は突然行われることもありますので、早朝もしくは深夜に会議が設定されることもあります」

柔軟で効率的な業務を目指して

こうした中、この課では、柔軟で効率的な業務をめざし、さまざまな対策を進めています。そのひとつが「テレワーク」です。この日は、課長が自ら実践。時差などの影響を受けやすい外国との交渉や調整も自宅から行うケースを増やしています。

経済連携課 内野宏人課長

「アメリカとやりとりする時など、わざわざオフィスに来て朝7時から会議をするのは非効率ですので、家から会議に参加したりというのが当たり前になるようにしています。テレワークが当たり前の働き方というのが進むといいかなと思っています」

さらに、資料を大量に印刷する霞が関の「紙文化」を改めようと、「ペーパーレス化」を徹底しています。

課員

「印刷待ちで1時間とかはありました。枚数が多い場合だと、1人50ページとか、そういったものだと大量に持っていかなくてはいけなくて、段ボールに入れて持っていったりもしていたので、ずいぶん今は楽になったかなと思います」

上司への説明に持っていくのはパソコンのみ。資料をモニターに映し出して、その場で修正を行います。これまでは、上司の指摘を紙に書き写し、それをパソコンで打ち直して決裁を受けていましたが、その手間も省けるようになりました。

通商政策局 松尾剛彦局長

「システマティックに効率化をしていくというんですかね、そういうところをさらに増やしていけたらいいなと」

“トップランナーを目指す” こども家庭庁

“霞が関で働き方改革のトップランナーを目指す”と高い目標を掲げた省庁もあります。

去年4月に発足したこども家庭庁です。民間のアドバイザーを入れた働き方改革のためのチームをつくって、取り組みを進めています。

目標の1つが、「男性の育児休業(1か月以上)100%取得」です。

実際に取得した経験者が、その体験を共有するイベントを庁内で開くなど、職場全体で意識改革を進め、発足1年目の昨年度は、対象となった14人全員が、実際にとることができたといいます。

もう1つの目標が、「勤務間インターバルの11時間確保」です。

勤務間インターバルとは、退勤してから、次の出勤までの時間を確保する取り組みで、その間隔を11時間とれるようにします。出勤や退勤を記録するシステムでも“見える化”していて、現場の部署ごとに、その達成率を確認しています。

働き方改革担当の課長補佐 須賀雄一さん

「11時間というのは、睡眠時間を確保するというのが一番大きい。それによって集中力の低下を防ぎ、ハラスメントの防止にもつながるといわれています」

民間からのアドバイザー 大西友美子さん

「健康的に生活する時間だったり、まわりの社会との接点だったりというのがないと、やっぱりいい政策は考えられないと思うので、職員の方には、ワークライフバランスの“ライフ”の時間をしっかりとっていただきたい」

次々と立ち上がる施策 限られた人員の中で限界も

一方で、人手が少ない現状の中で“限界”もあります。

こども家庭庁では、現場の管理職が、自身で考えた職場の働き方改革の目標を宣言しています。その達成のために民間のアドバイザーが定期的に管理職と面談し、現状を聞き取っていますが、課題も明らかになっています。

現場の管理職

「いま一番忙しい時期で、国会で法案が2本かかっているから、どうしても難しい部分がある。11時間は、人によっては、無理な人もいる。ただ忙しい時こそ勤務間インターバルをとれないと意味がないので、絶対に8時間は確保してほしいと伝えている。国会対応で未明の2時までかかってしまったら、次の出勤は10時以降、都合がつけば午後でもいい」

こども政策は、今の政府の特に重要な政策の1つに位置づけられていて、児童手当の拡充など、次々と新たな施策を打ち出しています。渡辺由美子長官は、決められた人数の中で、業務量が増えていき、個人への負荷が高まってしまうという、省庁側の体制上の課題があるといいます。

こども家庭庁 渡辺由美子 長官

「具体的な目標の中で、かなり進んできているなというものもありますが、正直そういう目標は目指したいけれども、なかなかいろいろな課題があって進んでいないところもある。まだトライアンドエラーの段階で、こども家庭庁全体としてワンチームになって、しっかりと前向きに進めていって、それがいい意味で霞が関全体に波及していくといいなというふうに思っています」

「官僚の働き方」に関する情報を募集しています

私たちが今回の取材で感じたことがあります。省庁では確かに働き方改革が動き出している一方で、それだけでは改善しきれない構造的な課題があることです。特に定員を抑えてきた人手不足の問題は深刻で、若手の退職者が増えていることで、定員すら埋まらない状況が生まれつつあります。このままでは行政の機能を維持することは難しくなるのではないかという声も寄せられました。行政が私たちの暮らしと切り離せない以上、人ごとにはできないと感じます。

私たちは官僚の働き方が変わっていくうえでの課題などについて、今後も取材を続けます。官僚の皆さんの働き方の現状や、抱えている課題、または改善案などを、クローズアップ現代の情報提供窓口「スクープリンク」までお寄せください。

官僚の働き方の問題や今後のあるべき姿については、6月16日(日)午前9時~放送の「日曜討論」でも取り上げる予定です。

みんなのコメント(1件)

提言
マッサン
男性
2024年6月16日
もはや中央集権の限界に来ているのだと思います。
地方でできることは地方に完全に任せるべきだと思います。
アメリカのように州ごとに法律が異なるとまでは言いませんが、地域に密着した行政事務は地域に任せて、中央省庁はスリム化したらいいと思います。
道州制が必要ならば、過去に頓挫したことを踏まえて、また検討したらいいと思います。
ともかく、中央省庁が権限と業務を抱えすぎているのではないでしょうか。
この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

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