
“告白を後悔したときも” 声を上げた元ジュニアの苦悩
クローズアップ現代では、5月にジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏による性加害問題を報じて以降、継続的に取材を重ねてきました。
それから4か月。事務所は初めて会見を開き、性加害の事実を認め、謝罪しました。
長年ほとんどのメディアが沈黙を貫いてきた中、事態を大きく動かしたのは、みずからの顔と名前を明かし、被害を告白した元ジャニーズジュニアたちでした。
しかし声を上げたことで、苦悩が深まったという現実もありました。
(「クローズアップ現代」取材班 ディレクター 中川雄一朗)
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※このあとの内容には、性被害に関する具体的な証言が含まれます。あらかじめご留意ください。
二本樹顕理さん 覚悟と勇気の告白
イギリスの公共放送BBCが3月にこの問題を発信して以降、取材班は独自に取材を続けてきました。
150人を超える元所属タレントに取材の申し込みを続ける中、実名・顔出しで応じてくれたのが二本樹顕理さんでした。
テレビカメラの前で初めて被害の実態を明かした証言は、覚悟と勇気を感じるものでした。

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二本樹さん
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ジャニーさんがベッドの中に入ってきまして、最初は肩をマッサージしたり、体全体を触られるような感じで、足とかもまれたりする感じですね。そこからだんだんパンツの中に手を入れられて、性被害につながっていくような流れです。
セルフイメージというか、自分の中が崩れ去っていくような感じで、心と体が別々になるっていうのかな、自分の体に何か起こったことは理解できるけど心がそれについていかない。
二本樹さんがジャニーズ事務所に入所したのは、中学1年生のとき。
NHKの音楽番組や民放のドラマに出演するなど、活躍の場を広げていました。
その裏で、ジャニー喜多川氏から10回以上の性被害を受けたといいます。
声を上げた“その後”の葛藤

勇気と覚悟を持って声を上げた二本樹さん。私はその思いを伝えたいと、“その後”を継続取材してきました。
番組の放送後、連日のようにテレビや新聞、ネットメディアなどさまざまな媒体から取材の依頼が殺到し、二本樹さんはできる限り応じてきました。“自分と同じように性被害にあう子どもをなくしたい”という思いからでした。
しかし、それはみずからの心の傷と向き合う苦しい時間でもあったと打ち明けました。
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二本樹さん
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取材では、性被害の体験を語らないといけないこともありまして。やはりそれは重いというか、非常に気分的につらいものはありますね、相変わらず。でも恐らくこの先も向き合っていかなければならない。
さらに、声を上げたことで二本樹さんを苦しめたのが、ネット上のひぼう中傷です。被害自体を「ウソだ」とするもの、告白を「売名行為」や「金目当て」とするもの。それは時に、性被害のトラウマ以上に傷つくものだったといいます。
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二本樹さん
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目にするもの1つ1つを真に受けてしまって、非常にうつのような状態になって。気持ちもひどく落ち込みましたし、食事ものどを通らないぐらいまでになった。
当初は後悔もかなりありましたね。これは言わないほうがよかったんじゃないか、実名、顔出ししないほうがよかったんじゃないかって。言わなきゃよかったんじゃないかなっていう思いは、恐らくこの問題が完全に解決するまでは付きまとう。
性被害の記憶 いまも夢に…

性被害のトラウマに悩まされているのは、二本樹さんだけではありません。
被害を受けてから何十年たった今でも苦しんでいる、元ジュニアの大島幸広さんもその1人です。
大島さんは、13歳のときに入所しました。
まさにその日にジャニー氏に自宅へ誘われ、被害にあったといいます。
実家が遠かったため、仕事がある週末やその前後など、週3回ほどジャニー氏の自宅に泊まることになり、そのたびに被害を受けたといいます。
そうした生活は2年ほど続き、被害の回数は200回を超えるといいます。

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大島さん
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(ジャニー氏にとって僕は)自分の性欲を満たす、おもちゃですよね。性欲処理班みたいな。逃れられないんですよ、逃げたら逃げたで今度もう仕事なくなって、3か月間呼ばれなかったとかありますからね、断って。
本当に怖いっすよね。やっているときも本当に怖かったす。逃げたいし、悩んでいましたね。
退所後、被害のことを誰かに話したい気持ちがありましたが、打ち明けることができませんでした。事務所にとって不都合な話はもみ消されるような印象があり、話したとしても、自分が損をするだけだと感じていたからです。
しばらくは、毎日浴びるように酒を飲むなど、アルコールに依存する生活を送り、「自分の心にぽっかり穴が空いた」ような状態だったといいます。
被害から20年以上たった今でも、ジャニー氏のことが夢に出たり、当時のつらい感情が思い出されたりするといいます。
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大島さん
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(夢では)僕が寝転がってて、下に視点をやったときのジャニー氏の頭の映像が浮かんで。あとは仕事をしているときとか、電車乗っているときとか、パッと(当時の沈んだ感情を)思い出すんですよね。出てきちゃうと気分が悪くて、押し込めるまでに長かったら1週間ぐらいかかっちゃうんですよね。
23年間鮮明なんですよ。されたときからずーっと。年数たって頻度が少なくなっていくわけでもないですし。忘れることはないでしょうし、死ぬまで絶対つきまといますよね。
トラウマからの回復は可能か カウンセラーとの対話

8月、二本樹さんは、男性性被害のカウンセリングを行う第一人者を訪ねました。山口修喜さんです。
二本樹さんは、自分と同じように苦しむ人の参考になればと私たちを同行させてくれました。
どんなことが解決できたらいいなとかってあったりしますか?
私の場合はうつであったりとか、不眠症であったり、自己肯定感の意識が低かったりとか。
カウンセリングでは、最初から被害体験は聞かず、自分の支えになった経験などを思い起こしてもらいます。
思い浮かべると、浮かびます?
ああ、浮かびます。
そういう実践していくと、意外な感じで、変わっていったりもするんですけど。

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山口さん
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人によっては20年、30年、40年、50年と影響を及ぼしていくっていうのが性虐待の破壊力ですよね。もちろんそこから回復するっていうことは可能なんですけれども、時間がかかったりだとかはしますね。簡単なことではないですよね。
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