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ウクライナの“人間の復興”を掲げて【オレーナ・ゼレンスカ大統領夫人/ Women@War】

ロシアの軍事侵攻から7か月。戦闘の長期化も予想される中で、活動を活発化させているのが、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の妻、オレーナ・ゼレンスカさんです。風刺コメディの脚本家としてキャリアを積み、夫の大統領当選後も表立った活動はあまり行ってきませんでしたが、“人間の復興”を掲げ、世界を飛び回っています。大統領夫人として、2人の子どもの母として、いま何を思うのか聞きました。
(国際報道2022キャスター 酒井美帆 8月5日放送)
※8月2日にインタビューを行いました。

「私も戦争の中心にいる」

酒井美帆キャスター
酒井

お時間をいただきありがとうございます。体調はいかがですか?

オレーナさん

ありがとうございます。他のすべてのウクライナの人たちと同じく、私も戦争の中心にいると感じています。勝利を待ち望んでいます。軍の力に期待しています。

オレーナ・ゼレンスカ大統領夫人
酒井

いま、2人のお子さんたちはどう過ごしていますか。

オレーナさん

夏休みが始まりました。ですが、これはウクライナの子どもたちが慣れ親しんだ、あの夏休みではありません。
私は、(夏休みのあと)息子が学校に戻ることを望んでいますが、それができるかどうか、そして、できたとしても安全かどうか自信がありません。
娘は学校を卒業して、大学入学一次基本試験に合格し、いまは次の段階を待っているところです。彼女が入学できることを願っています。娘が9月1日に、自分の未来の友人たちと知り合うことができるのか、それも私には分かりません。すべてが宙に浮いた状態です。

ゼレンスキー大統領とオレーナさん、2人の子どもたち

「真実を語れる可能性がある限り、発信を続ける」

酒井

オレーナさんが大統領夫人になった時、当初はメディアへの露出も少なかったと聞いています。ただ今は、“もう1人の大統領”のように発信を続けています。何か心境の変化があったのでしょうか?

オレーナさん

すべてが変わりました。いま、実際の戦場の前線のほかに、「情報戦」の前線があります。私がこの戦争について、世界の人々に真実をお話しできる可能性がある限り、私は雑誌の表紙に登場するでしょうし、テレビにも出演するつもりです。これは重要なことだと思っていますし、できるだけ多くの人々に私の話を聞いてもらえるよう、全力を尽くさなければなりません。

オレーナさんは雑誌の表紙を飾ることも
酒井

中でも一般の市民、子どもたちについても積極的に発信しています。どんな思いで発信しているのでしょうか?

オレーナさん

これはロシアの始めた、ひどく恥ずべき戦争です。ウクライナの領土の一部を占領するだけが目的ではなく、ウクライナ人をせん滅するという目的を持っていることは、すでに明らかです。なぜなら、ロシアの爆撃の70パーセントが 、民間人のところに落ちているからです。住宅であり、インフラ施設です。これについて黙っていてはいけません。ウクライナでは毎日、民間人の大人も子どもも死亡し、障害を負っています。
子どもたち、若者たちは、社会において最も傷つきやすい立場にいます。私はいかに彼らを守る必要があるかについて、訴えなければなりません。大声で話さなければなりません、全世界が知らなければならないと思うからです。ただの戦争ではありません、これはテロリズムなのです。

酒井

自分の家族や、子どもと重ね合わせているところもありますか?

オレーナさん

もちろん、自分の家族についてはいつも考えるものです。それは切り離すことはできません。私たちも安全ではありません。夜中に空襲警報が鳴らなかったときは、目が覚めたあと奇妙な感じすらします。でも、私は恐怖に囚われたくない。自分をしっかり保たなければなりませんし、子どもたちに見本を示さなければなりませんから。

「罪のない子どもが亡くなっている」

酒井

オレーナさんのSNSで、ベビーカーに乗った女の子の遺体の写真を見ました。とても衝撃的な写真でした。その女の子とオレーナさんは、会ったことがあると聞いています。 
※7月14日、西部ヴィーンヌィツャ州 ロシア軍のミサイル攻撃で子どもが死亡した。

世界に対して、一人の女の子の死を訴えた
オレーナさん

恐ろしい悲劇です。彼女の死はウクライナにいる全ての人に衝撃を与えましたし、他の国の人も、血に染まったベビーカーが画面に映っているのを見たら、正常でいられるはずがありません。
私は当初、ウクライナのすべての人と同じように、ただこのテロ行為にショックを受けていました。ですが、私はこの女の子のことを知っていると気づいたのです。クリスマスを子どもたちと一緒にお祝いしたときに、この子と会ったことがあり、一緒に動画に映っていたのです。
しばらくの間とても苦しい思いをしました。子どもが亡くなるのは、いずれにしても恐ろしいことですが、こんなに残酷なことがあるなんて。
女の子はとても素敵な子でした。私は自分の気持ちを説明することさえできません。涙をこらえきれませんでした。本当に、罪のない子どもが死んでしまったのですから。

酒井

私も動画を拝見して、彼女が笑っている様子が私もとても印象に残っています。彼女はどんな子どもでしたか? 

オレーナさん

彼女と一緒にいられたのは、1時間か1時間半くらいだったと思います。みんなで一緒に絵を描いて、大統領府のそばのモミの木に飾りました。この女の子は本当にすばしっこい子でしたね。この日はみんな綺麗なドレスを着ていたのですが、彼女はみんなを絵の具まみれにしていましたね。子どもたちだけじゃなくてカメラマンもです。本当に素晴らしい、明るくて快活な子どもでした。

「兵器を要請したのは、子どもたちを守るため」

酒井

7月18日、ファーストレディーという立場で、アメリカ議会で武器の支援を訴えました。その理由を教えてください。 

オレーナさん

私も武器を要請などしたくありませんが、そうせざるを得ません。私は、本当はウクライナの復興への支援をお願いしたかったのです。
兵器を要請したのは、私たちにとって不可欠だからです。子どもたちを守るために、防空システムを要請しました。私にとってとても感情的で、重い演説でした。私は戦争の犠牲者について話しました。そのすべてが、私たちにとって、とてもつらい傷です。
最も恐ろしいのは、私がアメリカで犠牲者のことを話している間に、ロシアはまたウクライナに攻撃を加えてきたことです。彼らは私が話をするよりも速いスピードで人を殺しています。
私はアメリカ議会で、政治家に対してというだけではなく、母親や父親、祖母や祖父、娘や息子、私の感情を理解することのできるひとりの人間に対して、呼びかけました。彼らが私の話を聞いて、早急に決定が出されることを願っています。

「世界の心臓はウクライナで鼓動している」

酒井

7月23日には、世界ファーストレディー・ジェントルマン会議を、オレーナさんが主催されましたね。

オレーナさん

その会議は去年初めて行われ、今年が2回目でした。ほかの国々のファーストレディーとの協力が実際に示されたと思います。ウクライナ人全員も感じていたことと思いますが、私たちはすべてのパートナーの国々から力強い支援、サポートを感じています。
私は、もう一度世界の注目をウクライナに集結させることを望んでいました。戦争についてのみ話題にするのではありません。戦争によって引き起こされた危機はウクライナにだけではなく、全世界に影響を及ぼしています。食料危機と人道危機が、私たちの目の前で起こっています。
今回の会議のテーマは、「世界の心臓はウクライナで鼓動している」でした。ウクライナが頑張りぬけば、世界も頑張りぬきます。
また、私たちはウクライナの戦後の発展について、人道的な文脈で話し合いました。復興や今後の発展に関するすべてのパネルディスカッションや協議では、教育や保健福祉をどう再建するか、そして戦場にいる女性たちについて話し合われました。私は、これはとても重要なことだと思います。

酒井

この戦時下で、女性だからこそできること、とは何だとお考えですか?

オレーナさん

ウクライナでは女性の役割はいつも大きなものでした。戦争における女性の役割もまた、大きなものとなっています。
ウクライナでは、軍事侵攻後、女性軍人が数千人増えました。彼女たちは勇敢に、自覚的に、自国を守りたいと考えているのです。
また、現在ウクライナでは、医療従事者の60パーセント以上が女性です。ボランティアの前線でも女性が多いですし、また民間の支援組織や基金の大半が女性たちによって設立されています。教育の場もそうですね。つまり、女性は戦争において、とても重要な役割を果たしているのです。
さらに、女性は家族も背負っています。戦争中であっても子どもたちの世話や親の世話などは、女性の仕事になっています。
私たちは戦争終結後、女性の権利が失われないようにするため話し合わなければなりません。例えば、ウクライナでは戦闘が始まる以前に、男女の賃金格差を縮小させました。この方針をさらに進めなければなりません。
女性は社会の土台です。国際舞台で女性について話し合うのは、当然のことなのです。

「戦争の後、すべての人にとってバリアフリーな社会にしたい」

酒井

オレーナさんは戦争が始まる前から、国民の格差や不安をなくすための活動をされてきました。どのような思いで活動を始めましたか?

オレーナさん

(目指してきたのは)ウクライナの1人1人の生活を、身体的な条件や健康、年齢、性別とは関係なく、あらゆる状況下で等しく便利で快適なものにすることを呼びかけた大規模なプロジェクトです。物理的なバリアフリー(インフラと自由なアクセス)、心理的なバリアフリー、経済的バリアフリー(同一労働同一賃金)などの分野がありました。私にとってこのプロジェクトは戦争前のとても重要なものでしたが、残念ながら戦争開始後、その多くが一時停止する必要がありました。ですが、幸いにも多くのプロジェクトで業務は継続しています。

酒井

戦争が始まる前と始まった後では、活動の内容はどう変化しましたか?

オレーナさん

物理的なバリアフリーの解消のためには、建物の問題がありますが、いまそれについて話すのは、時期尚早ですね。インフラ施設などが大量に破壊されてしまったので、戦後復興について話しあう必要がすでに出てきています。復興に際して、戦争前に採択された新しいバリアフリーの基準を考慮した建物にするために、私たちは全力を注いでいます。
また、「バリアフリー・ハンドブック」という本を出版するための作業を続けています。社会の中で障害や疾病などがあるさまざまな人々と、互いに嫌な思いにならず寛容に、どう交流すればよいかを説明した本です。
残念ながら、戦争はたくさんの人々に障害を負わせました。障害がある人の数は急激に増えています。戦争の後、彼ら全員が社会に復帰し、自分の居場所を持つために、私たちの社会が、どの人にとってもバリアフリーで、寛容で、快適なものにならなければならないということを、理解しなければなりません。
私たちにとって、自らの課題を戦争中でも放置しないということがとても重要です。ウクライナがやっとイスタンブール条約(注:女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約)に批准したことをとてもうれしく思っています。これは家庭内暴力との戦いにおける最も重要なものです。それも、バリアフリーを構成するものの1つですね。私たちは活動をやめませんでしたし、この活動でいわば空気が変わったのです。

「世界に対して、私たちの悲劇に目をつぶらないよう呼びかけたい」

酒井

一人の女性であり、母でもあるオレーナさんだからこそできることは、何だと思いますか。

オレーナさん

私は、私の家族が安全であるためにすべてのことをしなければなりません。私は大統領の妻として、ウクライナのファーストレディーとして、落ち着きを維持しなければなりません。
そして「情報戦」の前線で仕事をし続けます。私が全世界に知ってほしいのは、侵略者がどれほどの力を持っていようと、それは隣国を攻撃する理由にはなり得ないということです。私は世界に対して、ウクライナの悲劇に目をつぶらないよう呼びかけたいです。
ロシアはいま、世界中で情報を書き変えようとしています。世界が「ウクライナの悲劇に疲れた」という理由で、メディアのトップページにウクライナについての話が載らなくなるよう、ロシアは大量の資金と力を使っています。それが実際に起きれば、それはロシアが情報戦において勝利したことを意味します。
みなさんも同じだと確信していますが、悪の方が強い、悪が勝つ世界に住みたくありません。そうならないよう声をあげ続けるのが、私の使命です。

酒井

オレーナさんはいつも「人間の復興」という言葉を使っていますよね、この言葉にはどんな意味を込めていますか?

オレーナさん

私たちは町を再建することはできますが、そこに人がいなければ、それは町にはなりません。身体的・精神的な人の復興そのものが、私たちが掲げるとても重要な課題です。
身体的な復興というのは、戦争中に受けた怪我の治療です。残念ながら、ウクライナではとても多くの人々が、地雷や爆撃で負傷し義足やリハビリを必要としています。さまざまな国に対して、可能であれば、軍人や民間人への義足の提供やリハビリを引き受けてもらえないか、お願いしています。
加えて、ウクライナの人たちのメンタルヘルスに関わる仕事もたくさんあります。私たちは戦争によって、大きなストレスの中にいます。保健省のデータによると、将来ウクライナでは、およそ1500万人が精神的・心理的な支援を必要とするようになるとのことです。そのために私たちは今、社会的な仕組みを策定しているところです。必要としている人が質の高い支援をすぐに受けられるようにしなければなりません。

「夫とはいつも話をしています」

酒井

オレーナさんから見て、ゼレンスキー大統領は、どんな様子ですか?

オレーナさん

ありがとうございます。日本の方々が心配していると知ったら、喜ぶと思いますよ。夫のことを心配してくださって、とてもうれしいです。
今日、夫とは2分間だけ会いましたが、元気そうに見えました。その後、彼は仕事に行きました。残念ながら私たちはほとんど会えませんが、その分、夫は時間を惜しんで、常に仕事をしているのです。

オレーナさん

妻として、夫にどんな言葉をかけていますか?

オレーナさん

仕事のため、アドバイスをもらわなければいけないこともあるので、夫とはいつも話しています。もちろん、自宅での出来事や子どもたちについても話します。最近だったら、下の子の歯が抜けたとか、普通のことですよ。

「世界から見放されたら、私たちは滅んでしまう」

酒井

オレーナさんの中で、戦争、そして平和について、2月の侵攻開始以降、考え方が変化がありましたか?

オレーナさん

現代における戦争は、国際法の基準を考慮して行われる、という幻想がありました。ですが、実際はそうではありませんでした。残虐行為には限界がなく、中世にあっという間に後戻りしてしまうかもしれないということが分かりました。
ロシアの侵攻開始後は、美しい戦争なんてないと、あらためて分かりました。戦争はいつでも恐ろしく、残虐です。それしかありません。

酒井

最後に、ウクライナのファーストレディーとして、ひとりの女性、母親として、いま世界に望むことはどんなことですか? 

オレーナさん

私は子どもたちが安全に暮らせることを望んでいます。世界に対し、侵略者に圧力をかけるために、できることすべてをするようにお願いしています。制裁を解除せず、ロシアをテロ国家に認定するべきです。侵略者の張り巡らせている情報の罠に惑わされないでください。
ウクライナのことを忘れないでください。
私たちは、世界の注目を集めていなければなりません。世界から見放されたら、私たちは滅んでしまいます。侵略者を止めるために、全ての人に、できることを全うしていただくようお願いします。

【取材後記】

この「Women@War」のコーナーを立ち上げた当初から、取材チームで口をそろえて「ぜひインタビューしたい」と話していたのがオレーナさんでした。2か月の交渉の末、やっと実現したインタビュー。軍事侵攻のさなか貴重な時間を一秒も無駄にはできないという責任。準備をするスタジオの中はピリッとした緊張感に包まれていました。
画面に映るオレーナさんは、少し疲れているように見えました。戦闘はまだ続いているうえ、自身も命を狙われているとも言われてきました。そうした危険の中でも、オレーナさんが感情的になる場面はありませんでした。インタビューに応じる表情や言葉は常に毅然とし、世界中のメディアを通して支援を訴える姿は、ファーストレディーのイメージを超え、まるで“もう1人の大統領”のように感じました。

その心の奥には、“家族と国民のために強くあらねばならない”という決意があることも伝わってきましたし、同時にそれほどの決意がなければ、とても平静を保っていられない状況なのだろうとも察しました。
今後も戦闘は長期化すると見られています。
「世界から見放されたら、私たちは滅んでしまう」
オレーナさんがそう訴えなければならないほど、ウクライナは追い込まれていると感じました。

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みんなのコメント(1件)

感想
ゆき
60代 男性
2022年9月22日
全て読みましたが、どれも当然の事です。世界中の人たちに支援を期待しているのが良く伝わりましたが、私たちは、その必要な支援が出来ているのか、甚だ疑問です。
たった1人のクレイジーな人間の前に、多くの西側の国が集まっても止められない戦争。無力感だけ感じます。