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“プーチンも教育は奪えない“避難先120か国に授業を届ける【Women@War】

「家、仕事、家族、平和・・・プーチンは多くのものを奪える。だが、そのプーチンでも教育は奪えない」。4月、こんなスピーチで世界の注目を集めた女性がいます。ウクライナで学校などを運営するゾーヤ・リトビンさん(36)。自身も子どもを連れ国外に一時避難するなかで、子どもたちが母国の教育を受け続けられることの大切さを実感しました。今では世界120か国で避難しているウクライナの子どもたち40万人以上に、オンラインで“ウクライナの教育”を届けています。

(BS国際報道2022 酒井 美帆 結城 かほる)※7月25日に放送

地下シェルターを改修した教室

キーウにある「ノボペチェルスカ・スクール」

リトビンさんの団体が運営する私立学校「ノボペチェルスカ・スクール」は、首都キーウ中心部にあります。

4歳から高校まで全校生徒500人が通っていましたが、侵攻後、授業はすべてオンラインに切り替えられ、そのまま今の学年を終えました。ウクライナ国内全体でも、約3分の2の学校がオンラインになったそうです。

取材を行った7月、学校では9月の新学期に向け準備が進められていました。政府の要請もあり、対面での授業を再開する予定です。
避難した後も授業が続けられるよう、地下のシェルターを明るい色合いの教室に改修していました。

ゾーヤ・リトビンさん

「実際に警報が発令されたら、子どもたちを避難させ、授業を安全に続けられるようにするというのは、大変なことです。何百人もの子どもを、学校という一つ屋根の下に集めることになる大きな責任があるので、ロシアがキーウに再び爆撃をしないか、懸念しています。
何人の生徒が実際に通えるかわかりません、安全のため子どもを連れてウクライナを離れた人も多く、半数が来ればいいなと思うほどです」

教育の意味 改めてかみしめた侵攻

リトビンさんは10年ほど前、この学校を運営する団体を設立。ほかにも、地方の学校のIT化の支援、教師の研修や表彰などを実施し、ソビエト時代の古い教育システムが根強く残るとされるウクライナで、民間レベルで教育の改革を進めてきました。

目指してきたのは、ウクライナ国内での教育の地域格差を是正し、世界で活躍する次の世代を育てることです。学校では、体験型の授業を行い、起業を目指すことを奨励するなど、子どもたちの才能を伸ばそうとしてきました。

リトビンさん

「リーダーシップの育成は特に重視しています。学校では、最年少の4歳児でも『自分はリーダーになれる』『自分には社会の何かを変える力がある』と思っています。これは『ウクライナの心』でもあります」

しかし、侵攻で学校に通っていた子どもたちの多くが避難し、リトビンさんも2人の子どもを連れギリシャへ一時避難しました。
ここで、単に教育を受けられるだけでなく、母国の教育を受け続けられることも、子どもにとっては大切だと実感する出来事がありました。

リトビンさんと2人の子ども

ギリシャで現地の学校に通わせようとしたところ、リトビンさんの息子は抵抗したのです。避難先に定着していくことが“クラスメイトやウクライナを裏切ることになる”と感じていました。

新たな環境になじむことは決して裏切りではなく、むしろ必要だということ、実際に会ったり話したりできる友人がいることは重要だという、リトビンさんの説得を受け、息子は現在はギリシャの学校に通っているといいます。

リトビンさん

「息子はクラスメイトや友達に会い、“日常”を取り戻したがっていました。
戦争で生活のすべてが変わってしまった中で、授業の間だけは、知っている先生がいて、変わらない”戦争前の日常“として、子どもたちを支えてくれる面もあります」

そして、SNSなどでも、シェルターに避難した子どもたちが勉強をする様子や、教師が屋外で“青空教室”を開いている様子を目にしました。「学びたい」という子どもの気持ちの強さに、リトビンさんは希望を見出しました。

教育が子どもたちとウクライナをつなぎ続ける

オンライン授業の画面

こうした避難先の子どもたちが、ウクライナの教育を受け続けられるように、リトビンさんが力を入れたのが、オンラインでの授業です。

もともと、リトビンさんの団体はコロナ禍の時、都市封鎖や感染などで学校に行けない子どもたちのために、ウクライナ語や歴史など学年ごとに必要な授業を収録していました。これを、国などと協力して充実させ、インターネットがあればどこにいても無料でアクセスできるようにしました。
また、授業のライブ配信や、ビデオ会議を使ったホームルームなど、慣れ親しんだ先生やクラスメイトとやり取りができる環境も整えられました。
利用者は侵攻を機に急増。現在は避難先となった120か国以上の国からアクセスがあり、利用者数は40万人を超えています。

こうしたオンライン教育を通じて、子どもたちと祖国のつながりを保つことは、戦争後、ウクライナを再建するときのためにも重要だといいます。

「オンラインでウクライナの教育に触れることで、子どもたちは祖国から自分が大切にされていると思えます。それが子どもたちとウクライナとをつなぎ続けてくれます。『戦争が終われば、自分には帰る場所がある』『ウクライナは自分たちが帰るのを待ってくれている』と信じられるんです」

戦争を知った子どもたちが、戦争のない世界を作る

破壊された学校

ロシアによる侵攻開始以降、ウクライナではこれまでに2166の教育施設が、ロシア軍の爆撃などで破壊されています(7月8日時点)。

リトビンさんは侵攻まで、起業家として先進的な学校を作ったり、優れた教師を表彰する制度を設けたりと、夢見たものを一つずつ実現し、ウクライナの教育を良くしているという自負がありました。
そうした、社会を変えたい、良くしたいという前向きな夢を見るのは、戦争という現実に追われ、生き延びるのに懸命な今は、難しいと感じています。それでも、自分たちの活動が子どもたちや避難している人たちを助け、ウクライナの未来につながると信じて、自分を奮い立たせています。

インスタグラムより 卒業生たちとの一枚
リトビンさん

「この5か月、私は夢を持てずにいます。夢とか目標とかいっている場合ではなく、目の前の問題の解決を迫られ、解決したと思ってもすぐ次の問題が出てきます。
でも、わたしたちはきっと乗り越えます。そして次の世代の子どもたちが、戦争のない世界を作るでしょう。子どもたちは、実際に戦争がどんなものか知ったのですから」

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