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戦時下の女性リーダー "笑顔を守る闘い" 【ベレシチュク副首相インタビュー】

「21世紀にレイプや虐殺は許されないと示さなければ。破壊するのではなく助けあう言葉、引き裂くのではなく団結させる言葉を見つけなければいけません」

ゼレンスキー大統領とともにウクライナを率いるイリーナ・ベレシチュク副首相は、それまで見せていた優しい表情を一変させて鋭い目つきで語りました。子どもや女性など弱者の命を救うことが自らの役割だという決意で、激戦地から避難した親子に寄り添い、ロシア兵による性暴力についても積極的に発信してきた"行動するリーダー"。
私たちに向けて訴えたのは「真実が勝つという『希望』を分かち合ってほしい、そしてもう少しだけ助けてほしい」という願いでした。
(国際報道2022キャスター 酒井美帆)

戦時下の女性リーダーとして "子どもや女性の命を助けることが役割"

軍事侵攻が長期化して成年男性が次々と戦闘要員として駆り出される中、政治・経済・社会すべての面で支える女性たちの存在感が日々増しています。
キャスターとして最新の戦況を伝えるだけではなく、戦時下でいまこの瞬間女性たちがどんな日常を耐えて何を思っているのか、率直な言葉に耳を傾けたい。
その思いから私たちは「Women@war」と題したシリーズを立ち上げ、戦火に生きる女性たちに光をあてることにしました。
最初にお話を伺ったのがウクライナのイリーナ・ベレシチュク副首相(43)です。

ベレシチュクさんはもともとウクライナ軍の将校としてキャリアを重ね、2010年に国内最年少で市長を務めました。
去年、ゼレンスキー大統領によって4人いる副首相の1人に抜擢。
ロシアによる軍事侵攻と向き合うことになり、戦時下のリーダーとして多忙を極めながら、オンラインインタビューで向き合った私に「イリーナとよんでください」と気さくな笑顔を見せてくれました。

酒井:
いまどんな業務を担当していて、どんな懸念を感じているのでしょうか。

ベレシチュク副首相:
私は主に東部の一時的に占領されている地域が担当です。現時点では人道回廊と捕虜の交換、民間人の避難、そしてすでに数百万人に及んでいる国内避難民について担当しています。一番忘れられない公務は避難のための人道回廊の設置です。女性や小さな子どもたちにとって"命の道"なのです。地下室や避難所で暮らしていて、ロシア側に狙われて空爆やミサイル攻撃を受けている人たちのことを助けなくてはなりませんでした。何度も人道回廊の設置が失敗するたびに戦火にいる子どもたちのことを考えていて、それが一番苦しいことでした。

酒井:
戦争時に「女性がリーダーである意味」はどんなことにあると感じていますか。

ベレシチュク副首相:
私たちのリーダーはゼレンスキー大統領で、私はチームの一員として働いています。ウクライナの副首相4人のうち3人が女性ですが、経済を担当している第一副首相、ヨーロッパ担当の副首相など、ゼレンスキー大統領は責任ある役割を女性たちに任せています。
私は大臣としてまた女性として、民間人の被害を可能な限り減らすことが重要だと考えています。軍の課題は敵になるべく多くの損害を与えることですが、私の役割は民間人、特に子どもや女性、お年寄り、体の不自由な人の命を助けることです。

"これ以上傷つけたくない" 性暴力の被害を受けた女性たちへの思い

ベレシチュクさんがこれまで積極的に発信を続けてきたのが、ロシア軍による「女性への性暴力」の問題です。
軍事侵攻が始まって以降、性暴力の被害は国連に報告されているだけで124件(2022年6月現在)。
そのうち49件は子どもが被害者で、「報告は氷山の一角にすぎない」と指摘されています。
ベレシチュクさんは4月に海外メディアの取材を受けた際には「500人以上の女性がロシアの収容施設で拘束され、性的暴行の事実も把握している」と赤裸々に語り、言葉を詰まらせながら国際社会に実態を訴えていました。

海外メディアの取材に答えるベレシチュク副首相(4月)
ベレシチュク副首相(海外メディアの取材に対して)

「ロシア兵は女性たちの髪を切り、裸にして、毎日全身をチェックしました。女性たちの尊厳を犯しました。レイプもありました。背中が激しく殴られた跡も見ました。こんなことが…」

しかし、今回の私たちのインタビューに対して、ベレシチュクさんは事前に「今は性暴力被害について語りたくない」と伝えてきました。
その真意をたずねると、厳しい目つきで戦争犯罪の責任を追及する決意を口にしました。

酒井:
今回性暴力についてあまりお話ししたくないというのは、どうしてですか?

ベレシチュク副首相:
これはとてもセンシティブな問題です。性暴力の被害者を、これ以上傷つけたくありません。証言した人が、後にニュースなどで聞くのは精神的につらいと思います。
彼女たちを助けたいし、性的暴行は事実だと断言できます。ただし被害者の数や詳細については十分なデータ、情報の裏付けが必要なので、いまこの場で私からは話せないのです。私たちの国の女性と子どもの命がかかる問題ですから、敏感な問題だということを慎重に考え、配慮しなくてはなりません。

酒井:
誰も話さなくなると、被害がなかったことになってしまわないかが心配ですが…

ベレシチュク副首相:
そうはなりません。事実は記録されています。国際社会を代表する専門家の協力で、そして私たちも記録などを行うことによってできる限りのことをしています。性暴力の被害については必要な事実だけ公開しながら、裁判によって罰せれるようにします。話すだけでは十分ではなく、ロシアの責任を追及しなければなりません。おぞましい犯罪を起こした人間とも言えない人物や、部下にそんな行為を命令した軍高官の責任を追及しなければなりません。
最も重要なのは、ロシア政府の幹部にもこの恐ろしい戦争において行われたウクライナの女性と子ども、民間人に対する残虐行為について、法的にも、政治的にも、全ての側面において責任を追及しなければならないのです。

"すべての子どもたちに泣いていてほしくない 笑っていてほしい"

ベレシチュクさんがもうひとつ心を砕いているのが、過酷な経験をした子どもたちのことです。
避難先を訪れ、子どもたちとともに食事をし、人々の声にベレシチュクさんは耳を傾けてきました。

<マリウポリから避難した母子の話を聞くベレシチュク副首相(左)>

5月初めには、激戦地マリウポリのアゾフスターリ製鉄所からようやく避難できた子どもたちに会いに行きました。
およそ2か月間地下のシェルターで過ごした上に、中には親と離ればなれになった子も。
想像を絶する体験をしてきた子どもたちの心を解きほぐしたいと、ベレシチュクさんは「将来の夢」について子どもたちに語りかけました。
その時のことをたずねると、表情を緩めて答えました。

ベレシチュク副首相:
子どもたちに『将来何になりたい?』と聞くと、デザイナー、画家などになりたいなどと答えました。男の子たちの中には自分の国を守るために軍人になりたい、戦車兵やパイロットになりたいと言う子もいました。ある男の子は農家になって育てた果物を軍に送りたい、ウクライナで食料不足が起こらないようにしたいと言っていました。その答えを聞いて私は涙が出そうになりました。子どもたちの夢がかなってほしいなと心から思っています。
全ての子どもたちにはお母さんとお父さんがいてほしいです。お父さんが戦争に行って、亡くなってしまうこともあります。子どもからお母さんが奪われてしまうというのはとても大変なことです。残念ながら戦争に行っているお母さんたちもいます。子どもたちが夢の中で、アゾフスターリで空爆されていた時のことを思い出して泣いてほしくない、笑ってほしい。めいめいの子どもにお母さんとお父さんがいて、家があってほしいのです。

<ベレシチュク副首相(左)と息子>

全ての子どもが親とともにあってほしいと願うベレシチュク副首相ですが、実は自らもいま息子と離ればなれに暮らしています。
侵攻後に公務に専念するため、IT関連の学校に通う18才の息子は国内の親戚のもとに避難させました。
会いたくても「戦禍にある多くの人と同じように、目の前に大きな仕事があるので家族やプライベートな感情は後回しにしている」という、戦時下のリーダーの現実です。

支える信念は"愛する人と笑顔で生きていくため闘っている"

私たちは最後に、悲惨な現実を日々目の当たりにしながら、何がベレシチュクさんを支えているのかを尋ねました。

酒井:
国民の命を預かっているというプレッシャーを考えると、私にはとてもできないことですが、押しつぶされそうにはなりませんか?

ベレシチュク副首相:
子どもや女性、わが身を守れない人たちが自分の後ろにいると思えば、できます。自分たちの大地で、愛する人と笑顔で生きるために闘っていると思えば、できます。私と同じように戦えますよ。

酒井:
一人の人間として、一人の女性として大切にしているのは何でしょうか。

ベレシチュク副首相:
『希望』です。私を支えている原動力であり、精神的につらくても立ち直らせてくれるのは希望です。きっとうまく行く、成功できるという希望です。その希望をウクライナ国民と全世界と分かち合いたいと思っています。私たちを忘れないでください。世界には『真実が勝つ』という希望、『平和的な解決ができる』という希望があることを知ってほしいです。そしてもう少しだけ、助けてほしいのです。

ベレシチュク副首相:
私たちは地理的に離れていますが、日本の若者の心の温かさ、助けたいという誠実な気持ちをウクライナで感じています。
ウクライナの若者も平和に暮らしたい、空爆を恐れて避難所にかけこみたくはないのです。自分の国を追われるのではなく、自分の家に住み、青春時代を、この世の中を、人生を楽しみたいのです。21世紀に殺害やレイプ、虐待といったことは許されないと示さなければいけません。破壊するのではなく助けあう言葉、引き離すのではなく団結させる言葉を見つけなければいけません。
私は日本とウクライナの若い人に期待しています。将来、人々は殺し合い破壊しあうことなく、世の中をより良いものにする方法を見つけられると信じています。

取材後記:離れていても伝わる"強さ"と"優しさ"

「酒井さん、あす時間ある?副首相が応じてくださるって!」

今回のインタビューは、突然決まりました。
私にとって、一国の副首相にインタビューをするのは初めての経験でした。
しかも、戦争のさなか国のために多忙を極めている方に話を伺えるというのは、メディアにとっても得難い機会です。
「本音に迫れるのだろうか、副首相の時間を無駄にしないか…?」緊張と責任で、インタビューが始まる直前まで、私の手は震えていました。
しかしいざ対話が始まると、その不安は払しょくされました。
通訳を介しての対話でしたが、語り口や表情から、 "強さ" と"優しさ"を兼ね備えた方だということが伝わってきたからです。
戦禍の中で奪われようとする「人間性」を懸命に守り、一人の人間として大切なものは何かを伝えようとする決意があふれていると感じました。

特に印象的だったのは、避難した子どもたちについて語るときに、副首相の表情がとても優しくなったことです。
「大切な人たちを守りたい」という気持ちが、彼女の原動力になっていると感じた瞬間でした。
一方で、鋭いまなざしで「この戦争を終わらせ責任を追及しなければならない」と語る姿に、副首相としての強い覚悟も感じました。
日本からウクライナはどうしても距離があり、あまりに悲惨なニュースを前にすると、私に何ができるのかと無力感を覚えてしまうことは否定できません。
それでもベレシチュクさんの語る「殺し合いや破壊をしない、よりよい世の中にするために日本とウクライナの若者に期待している」という言葉を聞くと、同じ時代を生きる1人の人間として、私にできることを一歩ずつ積み重ねていきたいと強く感じました。

みんなのコメント(4件)

感想
いなば
男性
2023年2月22日
JINさんのコメントにもありますが、男性は国外退去禁止で徴兵されるのに女性は退避OKって、男女差別以外の何物でもない。故郷を捨てるのもレイプされるのももちろん辛いでしょうが、砲弾で手足がバラバラに吹っ飛ばされるのとどっちが辛いかは明白でしょう。“女性活躍”も結構だけど、その前に注目すべき点があるのでは?

普段女性差別で大騒ぎしてるメディアは、こういう男性の命が粗末にされてる差別は全然問題視しないんですよね。「女が昇進するかどうかには興味はあっても、男がいくら死んでもどうでも良いんだな」と、1人の男性としてとても傷つきます。
感想
GG
2023年2月15日
女性政治家を、女性であることを理由に取材するのは性差別では?
感想
wba
2022年8月12日
負けずに頑張ってほしいです。
侵略兵がやる事なんて出元や場所や時代がいつどこの国だろうと大概一緒です。掠奪や強姦、殺し。
辛い事実に対処しなければならない使命ですが罪は罪として裁かれなくてはなりません。信念を持って頑張って頂きたいです。
戦争を起こす側を野放しにするなんて論外です!
感想
JIN
男性
2022年6月26日
子どもや女性の命を助けることが役割も結構ですけど一般男性の命も救ってください。兵士でもない男性の国外避難を認めない国の姿勢はどうなんですか?やってる事が人間の盾じゃん。ロシア並みに指導者が恐ろしい国だわ。