みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

"お母さんに会いたい、戦争をやめて"【アゾフスターリの少女とザポリージャ州副知事】

悲劇は避難するためのバスの中で起きました。激戦地マリウポリで、最後までウクライナ側の拠点となったアゾフスターリ製鉄所からようやく住民たちが脱出できることになったのに、4歳のアリーサさんの母親はロシア側が設けた検問所で連れ去られてしまったのです。
たった1人で避難先にたどり着いたアリーサさんを抱きしめたのは、ザポリージャ州のズラータ・ネクラーソワ副知事でした。自らアリーサさんを保護して”避難民の母”となろうとするズラータさんは「マリウポリから避難してきた人は、心理的なトラウマを抱えている」と支援の必要性を訴えています。

4歳の少女は、避難バスで母親と引き裂かれた

4月、ウクライナの公共放送でアゾフスターリ製鉄所内部の映像が放送されました。
映っていたのは、暗い地下シェルターで本を読み、「うちにかえりたい、おばあちゃんとはなしたい」とつぶやく4歳のアリーサさんでした。
2か月近くにわたり避難生活を強いられる少女の姿は世界中に拡散され、大きな衝撃を呼びました。

<製鉄所の地下で暮らすアリーサさん>

その後民間人を避難させるために一時的に戦闘が停止され、アリーサさんは5月上旬にマリウポリを脱出することになりました。
しかし200キロあまり離れたザポリージャにバスが到着したとき、一緒に避難したはずの母親の姿はありませんでした。
途中の検問所で、ロシア側に連れ去られてしまったというのです。
拘束された住民たちは、「フィルターキャンプ」と呼ばれる施設に連行されて選別されるとも伝えられています。
その後、母親の行方はわかっていません。

<アリーサちゃんを抱いたズラータ・ネクラーソワ副知事>

ひとりぼっちで避難先に到着したアリーサちゃんを抱いてバスを降りたのが、ザポリージャ州で避難民の受け入れ業務を統括するズラータ・ネクラーソワ副知事でした。
自らの家でアリーサちゃんを一時的に保護することにしたのです。
南東部の中核都市であるザポリージャは、マリウポリなど東部の各地から16万人を超える避難民を受け入れてきました。
ズラータさんは副知事の立場にありながら常に率先して現場へと足を運び、人々のつらい経験に耳を傾けてきました。
中でもアゾフスターリ製鉄所で過酷な環境を生き延びた人々は、深い心の傷を負っていると語りました。

<国際報道2022 5月11日放送より>
ズラータ・ネクラーソワ副知事

「マリウポリから避難してきた人は心理的なトラウマを抱えています。普通の心理状態で来る人は誰もいなくて、ここにたどり着いても誰とも交流しようとしません。自らの内に閉じこもろうとし、ここが安全な場所なのかどうか、誰も脅迫してこないか見定めようとしています。それから2、3日が経ってからやっと少しずつ感情を出して、どんな壮絶な体験をしてきたのか語り始めるのです。それは聞いている私の心にも刻み込まれ、私自身にもカウンセリングが必要になるほどでした」

“ママが解放されますように”と祈り続ける

ズラータさんが最も心配しているのが、アリーサさんと同じようにアゾフスターリから避難した多くの子どもたちの心のケアでした。
子どもたちのために食事会を開催するなど、これまで様々なイベントを企画してきました。

特にアリーサさんとは同じベッドで抱きしめたり一緒に犬の散歩にでかけたりと、母親のように親密に接してきました。
アリーサさんの表情には次第に笑顔もみられるようになっています。
ただ、ズラータさんはアリーサさんが心の奥底で苦しみ続けていると感じています。
カメラを向けたとき、訴えたのはただ一言「お母さんに会いたい、戦争をやめてほしい」ということでした。

ズラータ・ネクラーソワ副知事

「アリーサがお母さんと引き離される悲劇が起きたのは、避難する最後の段階でした。母親がロシア側に拘束されて1人でここに来ることになって、とても苦しんでいます。アリーサはいま自分がどこにいるかもわかっていません。いつも“ママが解放されますように”と祈り続けています。ただ、戦争をやめてほしいと願い続けているのです」

"政治家として" 自らも家族と離れ責任を果たす

実は、軍事侵攻が始まって以来ズラータさんの家族も離れ離れの暮らしを送っています。
家族の安全のため、そして公務に集中するために9歳の一人息子を国外に送り出したのです。
政治家としての仕事を全うするための、重い決断だったと明かしました。

<ズラータさん(右)と息子>
ズラータ・ネクラーソワ副知事

「息子と別れて暮らすのはとても辛いです。辛いですが、息子は私を理解してくれています。息子はいつも“お母さんはそこに必要でしょ”と言います。“お母さんはウクライナにいて人助けをするべきだよ、僕は1人でも大丈夫”と言ってくれるのです。おかげで私はいま息子が安全かどうか心配することなく、公務に集中することができるのです。
ゼレンスキー大統領がウクライナに残り続けているように、政治家が現地に残り続けることはとても大事なことだと思います」

みんなのコメント(5件)

提言
せいちゃん
40代 男性
2023年9月23日
アリーサちゃんが、お母さんと再会できて、一緒に暮らせるようになって、良かったです。
でも、今、ウクライナとロシアの両国が、報復合戦となってきている様相もあり、気がかりです。お互いの火器で排出する二酸化炭素の量も膨大であり、地球温暖化に拍車をかける懸念があるようです。
侵攻したロシアが悪いのはもちろんですし、ウクライナの皆さんが、自分たちの国を守ろうとするのは支持しますが、地球温暖化を止めるためにも、和平の道を探り始めることが必要かもしれないと思います。
もちろん、私はウクライナの人々とウクライナの立場を、支持します。
ウクライナとロシアの両国の人々に、一刻も早い平和を!
提言
せいちゃん
40代 男性
2022年7月15日
この戦争において、ロシア側が悪いのはもちろんだが、今、苦しんでいる女性や子どものためにも、双方戦闘は即時停戦して、今の紛争地域については、外交交渉で解決してほしい。
感想
せいちゃん
40代 男性
2022年6月24日
この記事を読んで、ウクライナにロシア軍が攻め込んだころ、死にたくない、と言っていた小さな女の子のことが思い浮かびました。この子たちに罪はありません!なんとか、一刻も早く戦争が終わりますように。
感想
ひまわり
40代 女性
2022年6月20日
4歳の子供のお母さんを連れるなんて、ロシアはどうしてそのような酷いことが出来るのか、憤りと悲しさで胸が締めつけられます。アリーサちゃんがお母さんに会える日が来ますように。
感想
ひまわり
40代 女性
2022年6月20日
やっと脱出したのに一緒だったお母さんが連れ去られ行方不明だなんて、ロシアはそんな酷いことがどうして出来るのか、憤りと哀しさで胸が締めつけられます。アリーサちゃんがお母さんと再会できるまで、心を強くもってほしいと祈ります。