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“私は裏切り者ではない” 親ロシア派“市長代行”が語る「ロシア編入」計画

“市長代行”を名乗る男性は、ロシアの国旗を背景に得意げに当局との協議の内容を明かしました。ウクライナ南部が“クリミア方式”でロシアへ編入されることが既定路線とされているというのです。ロシアに“制圧”されて2か月がたとうとしているヘルソン州では、もといた市長に代わってロシア寄りの人物が行政を取り仕切るようになり、通貨はルーブルが導入されると報じられています。ウクライナ政府から切り離された地域で、世界の手が届かぬうちに「ロシア化」が進められようとしています。

ロシア軍が任命した“市長代行” 裏切りではないと主張

南部ヘルソン州は、軍事侵攻が始まってまもなくロシア軍が掌握したと主張した地域です。
私たちの取材に対して、まだ現地に残る女性は「ほとんどすべての人がロシアに反対していて、黙っている人だけが街に残っている」と証言しています。

中でも3万人あまりが暮らすカホフカ市では、ネメレツ市長が占領下でロシア側への協力を拒否したところ“私も家族の命も危険にさらされた”と語り、すでに街を離れました。

その後にカホフカ市の“市長代行”だとされるようになったのがパーベル・フィリプチュク氏(39)です。
カホフカ市などで15年以上議員を務めた経歴があり「ロシア軍司令部から行政トップに任命された」と自らの立場を正当化しました。

パーベル・フィリプチュク氏

「ネメレツ市長がやめるよう強制されたというのはうそです。ロシア軍と協力して街の重要な問題を決定する機会が何度か与えられたのに、拒否したのです。彼は全権を捨て街の外へと出ました。私は裏切りだと理解しています。
その後、ロシア軍の司令部から私に一時的に行政の長となるよう指令が来ました。私たちのことを裏切り者だと言っている人がインターネット上にはいますが、私は街を捨て去った役人こそ裏切り者だと思います。私たちはこの街、この土地、自らの家に残り、普通の暮らしを続けようとしているだけなのです」

住民投票は否定も“クリミア方式での編入が検討されている”

ロシア寄りの見方を一方的に語るフィリプチュク氏。
ウクライナ政府を支持していると見られる約40%の住民が街を脱出し、残っているのはロシア寄りの住民か中立の人たちだと主張しました。
現在は食料品や燃料はロシアから届き、医薬品はロシアが一方的に併合したクリミアから調達しているといいます。
すでにロシアの通貨ルーブルは日常的に使われ、ヘルソン州の別の町では年金の支払いもルーブルで行われるようになっていると証言しました。

ただ、これまで繰り返し報じられてきた「占領を正当化するためにロシアが住民投票を実施する」という情報については、ウクライナ側の嘘だとして「準備も計画もされていない」と何度も強く否定しました。

一方で、さも当然だというように明かしたのが、「ロシアの当局者との交渉の中でロシアへの編入が計画されている」という内部情報でした。

パーベル・フィリプチュク氏

「ロシア連邦はヘルソン州を編入しようと計画しています。そうすれば年金も賃金もぐっとよくなるでしょう。公的に接触しているロシア側の正式な代表者から、その立場について繰り返し聞いています。クリミアで行われたような方式が私たちの州でも検討されているのです。大部分の住民はロシア連邦への編入を望んでいます。行政機関がしっかり機能し、行政サービスを行うための予算が確保されることを望んでいるのです」

<クリミアでの集会で演説するプーチン大統領(3月)>

うその情報を流しているのは? 対立する“世界観”の戦い

ウクライナ政府の立場と相いれないフィリプチュク氏の主張。
浮き彫りになったのは、親ロシア派が持つまったく違う“世界観”でした。

はっきり現れたのが、メディアについての考えです。
私たちが「残された住民はロシアによるプロパガンダの影響を受けているのではないか」と質問したのに対し、フィリプチュク氏は「プロパガンダを流しているのはウクライナ側だ」と言い張ったのです。

パーベル・フィリプチュク氏

「住民は落ち着いていますが、ウクライナ側のメディアが常にうその情報を流しているため不安を感じています。『ロシア軍はウクライナの男を徴兵する、ヘルソン州が北朝鮮のようになる』といった情報が毎日放送されているのです。ウクライナ側の報道はプロの仕事で、かなり強く住民に影響を及ぼしています。ウクライナ側は西側のメディアと協力していて、ロシアのメディアは今のところ負けていると思います。一方、ロシアのメディアは事実に基づいた報道を行っています。少なくとも私はうその情報を流しているのを見たことはありません」

取材の最後には、「あなたはロシアに利用されているのではないか」と問いただしました。
しかし、フィリプチュク氏は「そんな考えは毛頭持っていない」と否定し、自分はあくまで信念に従っていて「ウクライナを利用しているのは西側だ」と考えを曲げませんでした。

ウクライナのゼレンスキー大統領は5月9日に公開した動画の中で、「これは2つの軍隊による戦争ではない。2つの世界観の戦いだ」と語っています。
フィリプチュク氏のような親ロシア派に浸透している一方的な世界観にどう対抗していくのか。
ロシアに占領された街が、激戦のもう1つの“最前線”となっていると感じました。

みんなのコメント(1件)

提言
ポケ
2022年7月25日
ロシア側が明らかに悪いことしていても自身を正当化してるのは世界、特に欧米諸国に絶望してるのではないかと思うのです。
それはロシアだけではなく世界のどの地域でも起きていることで、外国がいくら綺麗事を振りかざしてもロシア人の心には響かず対話すら実現しないのではないでしょうか。