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【証言】マリウポリ市民が体験した ロシアへの“強制連行”と“選別”

ウクライナ東部の要衝・マリウポリでは、都市の掌握を狙うロシア軍が攻勢を一段と強め、いまだ避難できずに街に残っている多くの市民が深刻な「人道危機」に直面しています。
中でも重大な問題だと国際社会から指摘されているのが、ロシア側への市民の “連行”です。その数は、マリウポリだけで4万人以上にものぼると、市当局は公表しています。

“連行”の先にある“選別”、さらに“ロシア化”とも呼べる統治の実態を、マリウポリ市民たちが証言しました。
(4月19日放送クローズアップ現代より)

医師が見た ロシア側「フィルターキャンプ」での“選別”

取材を進める中で浮かび上がってきたのが、市民を選別する「フィルターキャンプ」と呼ばれる施設の存在です。

マリウポリで患者の治療を続けていた、医師のイエヴヘン・シェポチンニクさんは、今月、自らもフィルターキャンプに連行され、のちに解放。自らが体験した、“選別”の一部始終を語ってくれました。

イエヴヘン・シェポチンニクさん

「今月3日にロシア軍が来て『おまえたちを患者と一緒に連れて行く』と言いました。兵士は武器を持っていて、話し合うことはできませんでした。選択肢はなかったのです」

連れてこられたのは、マリウポリから40キロほど離れた小さな町・ノヴォアゾフスク。ロシアとの国境に近いこの町には、ロシア側が「保護施設」と主張するキャンプ地がありました。
市民たちは、そこに数日~数週間とどめ置かれ、町の警察署の一室で、職業や交友関係、思想などを厳しく取り調べられたといいます。

<キャンプ地の様子 ロシア非常事態省より>
イエヴヘンさん

「職業は何か、知人や親戚にアゾフ大隊や軍人、警察などがいないか調べていました。 携帯やSNS、写真をチェックされ、それは誰なのか、写真が何なのか説明しなければなりませんでした」

ロシア側は、軍人かどうかを判別するために服を脱がせ、体に傷あとなどがないかを確認。
中には拘束された人もいたといいます。

イエヴヘンさん

「2人の男性が連行されるのを見ました。その後、彼らがどうなったのかわかりません」

イエヴヘンさんが次に移送されたのは、国境を超えた先、ロシアのタガンログという街。
ここでとったある行動が、その後、ロシア側に移住させられるかどうかの分岐点となったと言います。

イエヴヘンさん

「(ロシア側に)亡命を求めた人は身分証明書がとりあげられました。
私は何も支援を求めず、署名もせず、申請もしませんでした。『ロシアに親戚がいます。彼らの所にいきます』と言ったら、解放されたのです。実際は、私の親戚は誰もロシアに住んでいませんが…」

解放され、今は国外に脱出できたイエヴヘンさん。美しかった生まれ故郷のマリウポリが壊滅させられたことを嘆くとともに、診察していた患者がその後どうなったのか、医師の立場から彼らの身を案じる言葉を、取材中何度も繰り返していました。

「極東に送られた知人と連絡が取れない」

ロシアのねらいはどこにあるのか。

<ロシア政府が公開した移送計画の文書>

3月にロシア政府が公表した文書には、ウクライナの市民10万人をロシア連邦内の85の地域に移送させる計画が記されています。移送先はウクライナに近い西部地域だけでなく、ロシア全土。サハリンなど極東の地域にも7,000人以上を送るとしています。

<移送計画の文書をもとに作成>

マリウポリ市議会がSNSのテレグラムに投稿した画像には、ロシア側がフィルターキャンプで配っていたとされるチラシが映されています。

<マリウポリ市議会のTelegramより>

書かれているのは「極東があなたを待っている!」という言葉。
極東地域に移れば、17万ルーブル(約25万円相当)の一時金が支給され、1ヘクタールの土地も提供するなど、さまざまな優遇措置を示し、勧誘を進めていました。

取材を進めると、“知人が極東地域に連行された”という男性に話を聞くことができました。ヴラディスヴ・セルデュコフさんです。彼もロシア国内に連行された後、国外に逃れました。

ヴラディスヴ・セルデュコフさん

「(知人と)最後に連絡をとったとき、彼らは『サハリンにいる』と話していました。『書類にサインをさせられ、2年間は出られない』と聞きました。それ以来、彼らとは連絡がとれていません。さびれた土地に収容されているのです。人が住んでいなくて、インフラなどを整備しなければなりません」

“ウクライナの子どもを養子に?” 浮かび上がった新たな疑惑

ロシア側の戦争犯罪の実態を調べているマリウポリのジャーナリスト、アンナ・ムルリキナさんは、市民の連行を巡ってある疑惑が浮かび上がっていると話します。

アンナ・ムルリキナさん

「多くの子どもたちをロシアに強制移送する準備が進められています。そして養子縁組しようとしているのです。子どもたちはウクライナ国民であり、これは犯罪行為です」

ロシアの国営メディアが3月に報じた内容です。

<ロシア国営メディアより>

<作成中の法改正案>
"ロシア国籍を持たない孤児を養子縁組する手続きを簡素化。そのための法改正案を議会下院が作成している"

アンナさん

「私はマリウポリの事例しか知りませんが、30人の子どもが病院から連行されました。(連行された)少女はおじいさんと電話で話し、『家に帰りたい』と何度も訴えています」

ウクライナ議会の人権担当者も、養子縁組させられているのがウクライナの孤児かは確認できないものの、「マリウポリから、ロシアに向けて子どもたちが強制連行されているのは把握している」とSNSに投稿しています。

未だ10万人以上の市民が…

いまも10万人以上の市民が街に取り残されているといわれるマリウポリ。

ウクライナ国防省情報総局は、ロシア軍はマリウポリの街に移動式の焼却炉を持ち込んでいるとSNSで公表。民間人の遺体を焼き払い、戦争犯罪の痕跡を消そうとしているのではないかといわれています。

<ウクライナ国防省のTelegramより>

19日、ウクライナのゼレンスキー大統領は動画を公開し、強い言葉でロシアを非難しました。

ゼレンスキー大統領

「現状は限りなく厳しい。ロシア側は避難ルートを設置する努力を妨げ、占領した地域の住民を強制的に移動させようとしている。数万人が、ロシアの支配地域に移動させられ、その後の状況は分かっていない」
「この戦争においてロシア軍はおそらく世界で最も野蛮で、非人間的な軍隊としてその名を世界史に永遠に刻むことになるだろう」

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