
マリウポリ 命がけの避難
ロシア軍が掌握にむけ攻撃を強めるウクライナ東部のマリウポリ。
無差別とも言える攻撃により増え続ける民間人の犠牲、残された市民たちの深刻な人道危機。なんとか街を逃れた人たちが、自らが見た街の現実を語ってくれました。
民間人のいる病院や劇場が攻撃に…
3月9日、マリウポリでは産科や小児科が入る病院が空爆されました。さらに、16日には大勢の市民が避難していた劇場が、ロシア軍によって破壊。民間人への被害は増え続け、3月28日にウクライナの複数のメディアは、マリウポリのボイチェンコ市長の話として、マリウポリだけで子ども210人を含むおよそ5000人が死亡したと伝えました。

マリウポリで生まれ育った、ジャーナリストのアルテム・ポポヴさん。自ら取材で見た、ふるさとの惨状を語ってくれました。
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アルテムさん
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「埋葬も間に合っていません。死者数があまりにも多くて集団墓地で埋葬していますが、放置された遺体は野良犬に食べられてしまっています。街で被害を受けていない建物はありません。消防署も爆撃されていて火災があちこちでおきていても消火活動ができないのです」
アルテムさんは現地で取材を進めていましたが、車の燃料など取材に必要な物資を確保することが難しくなり、3月8日にマリウポリを離れざるをえませんでした。そのときの光景が今でも焼き付いていると言います。

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アルテムさん
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「マリウポリをあとにするとき、小学校入学を控える息子が入学準備のために通っていた学校が空爆された光景を見ました。それだけでなく、友達の家や30年暮らした街すべてが破壊されました。万が一帰ることができても、思い出の場所は何もありません」
街の外からの支援も阻まれる
ロシア軍に包囲され消耗戦に突入しているマリウポリ。近郊の街、ザポリージャから食料などの支援物資を届けていたマクシム・テレシチェンコさんは、物資を送ろうにもロシア側の妨害にあうといいます。

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マクシムさん
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「マリウポリまでの道路が完全に封鎖されています。地雷も仕掛けられているし銃撃もあります。ウクライナ軍は一部の地雷を除去しましたが、ロシア軍が200台のバスの車列を砲撃しました。車列が動き出すと攻撃してくるのです。それでバスが動けません。同じことが何回も繰り返されます」

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マクシムさん
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「多くの運転手はこの運転をやりがたらない、バスの中で撃たれるかもしれないからすべてが“ロシアン・ルーレット”のようなものです。最後まで無事に運転を完了できるかもしれないし失敗するかもしれない。すべてはギャンブルです」
“これは戦争ではなくジェノサイドです”
ロシア軍の攻撃で避難もままならず、マリウポリには3月下旬の時点で20万人の市民が街に残っていると言われています。

電気やガス、水道などのインフラは遮断され、暖房や医療、通信もほとんどない状況で、厳しい生活を強いられています。
3月上旬に車で街を脱出したディアナ・ベルグさんは、避難の途中でリモート取材に応えてくれました。ディアナさんが住んでいた町を離れるのは、今回が初めてではありません。2014年にも、ロシアの侵攻を受けて、東部の都市ドネツクからマリウポリに移った経験がありました。そして今回、再びロシア軍に街を追われることになったのです。

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ディアナさん
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「死ぬ覚悟で逃げました。奇跡だったと思います。マリウポリのことを思うと、本当に苦しくなります。避難ルートも攻撃されました。一般市民は爆撃され、子どもは血まみれでした。これは戦争ではなく、ウクライナ人のせん滅、大量虐殺、ジェノサイドです」
その数日後の取材で、ディアナさんがしきりに口にしたのは、マリウポリに残る親族や友人たちの安否についてでした。通信状況が悪く、音信不通の状態が続いていると言うのです。

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ディアナさん
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「もう6日間、マリウポリに残っている私の親族や愛する友人と音信不通です」
ディアナさんがいま、情報を得るために活用しているのが、「マリウポリナウ」と名付けられた、現地の動画や写真が投稿されるSNSのコミュニティーです。

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ディアナさん
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「マリウポリナウが唯一の情報源です。親族たちにひとこと伝えられるなら、『皆さんを愛しています』ですね。『がんばって』とか『あなたを迎えに行きます』という言葉は無責任です。何の助けにもなりません。最後の最後に誰かに伝える言葉は、愛についてだと思います。そして寂しいです」
マリウポリの今

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ミコーラさん
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「みなさんこんにちは、3月12日です」
マリウポリ市内にある大学の学長、ミコーラ・トロフィメンコさんが大学近くの状況を報告する動画を投稿しました。
この発言の直後、激しい爆発がミコーラさんを襲い動画では間一髪、建物に逃げ込む様子まで記録されています。
少しでも多くの人にマリウポリの実態を知ってほしい。
「マリウポリナウ」のコミュニティーには、今も様々な人が街の様子を記録し、激戦地から発信を続けています。
4月4日夜7時30分からの「クローズアップ現代」ではマリウポリをはじめウクライナ各地から届いた市民の映像記録などから、最新の情勢を伝えます。
クローズアップ現代
「戦火の下の映像記録 最前線ウクライナ・市民たちの闘い」
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/episode/te/Y15K25Z5K5/
2022年4月4日(月)午後7時30分放送
※放送から1週間はNHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。