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卵子凍結 メリットとデメリット 将来に備える女性たち

渋谷区の婦人科クリニックで行われた、将来の妊娠・出産に備える卵子凍結についてのセミナー。そこには仕事帰りに駆けつけた30代前半~半ばの女性たちの姿が多くありました。講師の話に耳を傾けながらメモを取る手を休みなく動かしていました。

「年齢を考えると、1日でも早く選択肢を残さないと後悔するかも…」

妊娠・出産に対する年齢や身体の不安。38歳の私も何度も感じたことがあります。

取材を進めると、卵子凍結に関心が集まる背景や、その限界も見えてきました。

(「ニュースLIVE!ゆう5時」ディレクター 浅岡 理紗)

なぜ今、卵子凍結に注目が?

(左)卵子を凍結するタンク (右)卵巣から取り出したばかりの卵子

卵子凍結は卵巣から取り出した卵子を-196℃の超低温の液体窒素の中で凍結させ、自身が出産したい・できるタイミングまで保存することです。超低温では化学変化はほとんど起こらないため、卵子の状態を数十年も変化させないまま保存することができます。

がんなどの病気が原因で妊よう性(妊娠するために必要な力)の温存のために行う場合のいわゆる“医学的適応”と、健康な女性が将来の妊娠に備えて行う場合の“社会的適応”があります。

いま多くの女性たちが関心を寄せているのは“社会的適応による卵子凍結”です。

日本では2013年に初めて、日本生殖医学会の倫理委員会が近年の未受精卵子および卵巣組織凍結技術の急速な進歩とその臨床応用の現況を考慮し、『未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン』を提示。主に不妊治療を行うクリニックを中心に、未受精卵子凍結の医療技術が提供されてきました。

ただ、卵子凍結は保険が効かない自由診療で、個人の意志と費用で行うものであるため、公的な支援や助成は多くはありませんでした。

その潮流が変わったのは去年(2022年)12月、自治体が社会的適応による卵子凍結に言及したことがきっかけの一つでした。東京都の小池百合子知事が危機的な状況が指摘される少子化への対策として「健康な女性が卵子を凍結保存する際の支援策を検討する」という考えを示し、ライフプランの選択肢を支援するとして、2023年度予算に関連経費を含め1億円を計上したのです。

新聞などで“1人当たり30万円程度の助成になるのでは”と盛んに報じられたことで、一気に女性達の関心が高まりました。

私が取材した、渋谷で行われた卵子凍結セミナーにも「ニュースを耳にして訪れた」「東京都の助成が始まったら申し込めるように勉強して準備しておきたい」と話す女性が複数いました。

東京都福祉保健局によると、2023年度は「卵子凍結を行った場合、その後数年間にわたって追跡調査を実施。凍結卵子を使用して出産に至ったかなどを調査することに同意を得られた場合に助成を行う方針」とのことで、今年度いつから実施するのかはまだ決まっていません。本格的な実施は2024年度を見込んでいるということです。

さらに民間企業でも、社員の長期的なキャリア形成を支援するとして福利厚生の一環で卵子凍結の費用を補助する動きが相次いでいます。

今、社会で卵子凍結の受け皿が多様化してきているのです。

「卵子凍結」を望む理由はさまざま

初めて卵子凍結のための「採卵」を受ける都内で働く33歳のエリさん(仮名)

東京都内にあるクリニックで、卵子を体外に取り出す〝採卵〟を初めて受けるエリさん(仮名)に話を聞くことができました。

エリさんは33歳で独身。都内の企業で働いています。突然会社から海外転勤を命じられたことがきっかけで卵子凍結を決めたと言います。

エリさん

「海外勤務は2~3年を予定していて、その間は結婚や出産が難しくなる。年齢と共に卵子の質が低下するので、日本に帰国するときの年齢を考えると、転勤前に卵子凍結をしておいた方が安心材料になると思いました」

取材を始めるまでは「今はパートナーがいないが、将来パートナーができたときのために卵子凍結をしたい」という人も少なくないのではと想像していました。

しかし前述の渋谷で行われたセミナーの参加者をはじめ多くの女性に話を聞くと、エリさんのように「職場で責任ある立場になり、これから数年間は出産が難しいと思って」や「夫婦共働きで夫は勤務地が異なり別居婚をしているので、卵子か受精卵の凍結を考えている」など、未婚・既婚に関係なく、本人やパートナーの社会的な立場や職場環境による影響を受けて卵子凍結を選択する人も多いことに気がつきました。

女性の社会的立場が変化してきたことが背景にあると感じます。

卵子凍結どのように行われる?

実際に卵子凍結はどのような手順で行われるのか。身体にはどんな負担があるのか。クリニックでエリさんの“採卵”の過程を密着取材させていただきました。

卵巣は子宮の左右に1つずつあり、通常は毎月どちらかの卵巣で1~2個の卵子が育って放出されます。これを「排卵」といいます。

卵子凍結では一度の採卵でなるべく多くの卵子を回収することを目指すため、卵子の発育と排卵を促す排卵誘発剤(錠剤や自己注射)を使用して、両方の卵巣で複数の卵子を育てます。

排卵誘発の錠剤や自己注射を使用して、子宮の左右にある卵巣で複数の卵子を育てる

一般的にホルモン剤は頭痛や倦怠(けんたい)感やむくみなどの副作用がある場合があります。

エリさんは2週間近くにわたりさまざまな種類の排卵誘発剤を服用して採卵の準備を進め、服薬を続けている間も複数回クリニックに通いました。医師はエリさんの卵巣内に存在する卵胞(卵子が入っている細胞)の育ち具合をエコーで確認し、卵子が育つスピードが遅かったり小さかったりすれば、その都度ホルモン剤の種類や使用頻度を変えるなど判断します。

エリさんの服薬スケジュール さまざまなホルモン剤を一定期間服用する

エリさんは平日のこの日、午前中に休みをとってクリニックを訪れました。卵巣内に複数の卵胞が存在することが確認され、そのまま採卵することが決まりました。

エリさんの採卵を行う医師と看護師 

エリさんは午後には仕事に復帰する必要があったため、数時間の静養が処置後に必要となる全身麻酔ではなく、局所麻酔を選びました。

採卵の前に細菌感染を防ぐために膣(ちつ)の消毒や洗浄を行い、それから卵巣内に細い針を刺して育った卵胞を回収します。エリさんは自分の卵巣内に針が刺さり、卵胞が吸い取られていく様子が映し出されたモニターをじっと静かに見ていました。

(左)卵子を針で吸引 (右)エリさんの卵巣内

麻酔から採卵までの時間は15分ほど。エリさんの両方の卵巣から14個の卵子が回収され凍結されました。

エリさん

「採卵のときに痛みがあったら嫌だなと少し緊張していました。


でも私の場合は局所麻酔がよく効いたのか、(子宮に針が刺されたときに)おなかの中を“トン”と押された感じがしましたが、痛みはありませんでした。


妊娠や出産などを気にしながら、慣れない海外生活を送るのは負担になると思ったので、これで向こうでの仕事に注力できると思います」

“社会的適応による卵子凍結”は保険適用ではなく自由診療のため、費用は各クリニックによって異なります。

エリさんが行ったクリニックではおよそ40万円かかりました。

卵子凍結のメリット

決して安くはない卵子凍結。どのようなメリットがあるのか、日本産科婦人科学会の木村正監事に取材しました。

日本産科婦人科学会 木村正監事

卵子凍結のメリット

●「卵子の老化の時計を止められる」
年齢を重ねると卵子の質と量が低下して妊娠しにくくなるため、若い卵子を凍結し、年齢による変化に備える。

●「将来の妊娠に影響する病気に備えられる可能性がある」
年齢が上がるにつれて子宮や卵巣の病気のリスクが上がるため、あらかじめ(妊娠に)備えることができる。

●「精神的な安定につながる」
妊娠する方法の選択肢が広がることで、仕事やパートナー探しなどに集中しやすくなる。

女性は一生涯分の卵子の元となる原始卵胞を持って生まれてきます。原始卵胞の数は時間と共に減る一方で、精子と違って新しく作られることはありません。また、卵巣にどれらくい卵子の残り数があるかは人それぞれ。年齢相当の卵子が残っている人もいれば、年齢平均より残り数が少ない人もいます。

これは「AMH」というホルモンの血液検査で調べることができます。私も37歳のときに検査を受けたことがありますが、既に40歳に相応する卵子の残り数だと分かりました。

さらに加齢と共に卵子の染色体異常は増え、妊娠したとしても流産する可能性も高まります。卵子凍結によって卵子の時間を止められることにメリットと感じる女性は少なくないかもしれません。

卵子凍結の限界

一方、卵子凍結は万能薬ではなく“限界”があります。

今年(2023年)5月、日本産科婦人科学会は社会的適応による卵子凍結を検討している人に向けて「参考にしてもらいたい」と詳細な情報の動画を公開しました。その中で未受精卵を用いて精子と受精させて子宮に移植する〝胚移植〟ごとの妊娠率や出生率などに触れています。国内のデータはないため、諸外国の論文などをからまとめられたものです。

それによると、採卵した全ての卵子が胚移植に使用出来るわけではありません。採卵しても卵子が凍結に適さず変性したり融解する際に破損したりしてしまう可能性があるからです。

凍結未受精卵子を用いた胚移植で子宮内に着床する確率は17~41%。さらにそこから流産や死産などの原因によって、卵子1個あたりの出産に至る確率は4.5~12%です。

日本産科婦人科学会制作の動画「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」より

日本産科婦人科学会のホームページの「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」はこちら(NHKサイトを離れます)

卵子凍結には限界があり、必ず妊娠や出産できるわけではありません。卵子凍結をしたことで「かえって出産が先送りになるのではないか」という懸念も日本産科婦人科学会は示しています。

日本産科婦人科学会 木村正 監事

「出産年齢が上がれば、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がり、早産や低出生体重児で赤ちゃんが生まれるリスクがあります。日本は医療技術が発達していますが、母子どちらにとっても命がけだということを認識してほしい。


卵子凍結は、あなたの生き方が問われる医療技術。要(い)るか、要らないか。要るならいつ凍結していつ産むのかこの先の人生設計を考え、理解を深めた上で検討してほしいと思います」

卵子老化の時間経過は止められても、身体や臓器の加齢は止めることができるわけではありません。

卵子凍結を検討するときは「凍結した卵子を使って、いつ出産するのか」までをしっかり考えて決断し、その後の生活を送る必要性があるのです。

イギリスでは9割の凍結卵子が使われずに破棄されるという問題も指摘されています。

卵子凍結は〝緊急補助的なもの〟

今回取材を通していちばん心に残ったのは、卵子凍結を行っているクリニックの医師に尋ねた「卵子凍結の需要は今後増えるのでしょうか?」という質問に対する答えです。

卵子凍結を行っているグレイス杉山クリニックSHIBUYA 岡田有香 院長
グレイス杉山クリニックSHIBUYA 岡田有香院長

「日本の卵子凍結の技術は高く、女性たちの選択肢の1つになるように安全な医療技術を提供していきたいです。ただ、卵子凍結はあくまで〝緊急補助的なもの〟で、本当はこういった医療技術に頼らなくても当事者やパートナーが子どもを欲しいと望むなら望んだときに障壁なく産める社会構造であるべき。それが目指すべき社会だと思います」

今、女性たちは〝働くこと〟と〝産むこと〟両方の役割を求められるケースが増えています。

女性が自らの身体について知る機会が増え、不妊治療の経験などについて少しずつ語られ出すようになるにつれ、「このまま(働きながら)いつか自分は子どもを持てるだろうか」「将来のために何かしておいた方がいいのでは」という、漠然とした不安や焦りを感じている人もいると思います。

不妊治療の保険適用をはじめ、育児中の子育て支援だけではなく、将来の妊娠のために自治体、企業、クリニックなど社会が卵子凍結を支援する動きはとても心強く思います。

だからこそ卵子凍結を一種の流行のように扱うのではなく、技術をうまく将来の自分の味方にするために、決断したならばその後の人生をどう組み立てていくか考える責任も同時に伴うのだとも感じます。

そして考えれば考えるほど「これって、女性のみが考えることなの?」という疑問も沸いてきます。出産が現実になる前から向き合い、常に女性にのみついてまわる問題のようで、複雑な思いにもなります。

「妊娠や出産は超個人的なことで、それぞれで考え解決すべき」とせずに、社会全体で考え行動に移せるようになれたらいいなと思います。

これからも、女性の身体と心を見つめる取材を続けていきます。

【関連番組】ニュースLIVE!ゆう5時『社会的な適応による卵子凍結 現状と課題』

2023年7月25日(火)17:00~ <総合>
※放送後1週間、見逃し配信(NHKプラス)でご覧いただけます。

みんなのコメント(1件)

感想
もー
2023年9月16日
そこまでして子供を産まないといけないの??って最初は恐怖を感じました。なんでこんな大変な世の中で子供産まないといけないのって。

でも、卵子を凍結すれば、もし世の中が良くなった時に子供を産めるんですよね。
いまは産みたくなくても。興味が湧きます。