
“普通”に働きたいだけなのに・・・男社会へのモヤモヤ 解消するには?
「“残業できない”というだけで半人前扱いされる」
「飲み会に行ける人だけがえらくなる」
モヤモヤしている人は多いのに、なかなか変わらない慣習や暗黙のルール。「OBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)」と呼ばれています。
5月25日(木)放送の『あさイチ』にあわせて行ったアンケートには、「職場でモヤモヤしている」という声が200件近く集まりました。
「OBN」をめぐるモヤモヤをどう解消すればいいか、ヒントを探ります。
関連番組
『あさイチ』5月25日(木)午前8:15~<総合>
※放送後1週間、見逃し配信(NHKプラス)でご覧いただけます。
職場のモヤモヤ 原因は「オールド・ボーイズ・ネットワーク」!?
「オールド・ボーイズ・ネットワーク」とは、男性中心の組織で固定化してきた人間関係や、その中で通じるあうんの呼吸や暗黙の了解のことを指します(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。
『あさイチ』ではLINEを通じて「職場のモヤモヤ」についてのアンケートを実施。女性を中心に200人近くから回答が集まりました。会社の規模や業種、地域にかかわらず「オールド・ボーイズ・ネットワーク」に戸惑った経験があるようです。

多くあがったのが、閉鎖的な場で物事が決まり進んでいくという声。仕事の割りふりや評価にも影響しているようです。
たばこ部屋で大事なことが決まっていて、たばこを吸う人と吸わない人で情報伝達速度に差がある。(30代後半・東京)
会議のあとの無駄話タイムにいろんな事が決まることが多く、育児などですぐに帰らなければならない女性社員は蚊帳の外だった。こんな状態でどうやって出世しろと言うのか。(40代前半・神奈川)
私が大きく関わっている作業を、私の意思を全く聞かずに男性たちだけで決めて押しつけられる。仕事を奪われるし誰もやりたがらないことを増やされる。(50代前半・北海道)
プライベートの時間を考慮しない働き方や、子育てや介護など家庭でのケア労働を想定していない上司や同僚の言動にモヤモヤするという声も。
休みの日の前日に突然「明日出勤できる?」と言われる。たまになら都合つけるけど頻繁にありすぎる。(50代前半・奈良)
自分は残業好きで時間もあるからという感覚でありえない量の仕事を1人に押しつける男性上司がいて、(私は)結局体調を壊して退職するはめになった。(40代前半・大阪)
すぐに「飲みに行こう」という男性陣。こちらは飲みに行く前にスケジュール調整、子どもの面倒の手配…などいろいろあるんです。あなたが気楽に「飲みに行こう」と言えるのは、おうちを奥様がきちんと回してくれているからだよね。(30代後半・東京)
男性と女性で仕事の割りふりを変えられるなど「無意識のバイアス」を経験している人も多くいました。男性どうしで仕事をする中で当たり前になってきたことの弊害があるようです。
私がチームに入るとアシスタントだと思い込んでいる。気を遣っているつもりかもしれないが、そんな気遣い頼んでいない。(50代前半・兵庫)
雑用や書類作りは女性任せ。それで褒められたら男性の手柄。男性に言われたら(女性はその仕事を)急いでしなきゃという空気があります。(30代後半・長崎)
育休明けの社員に対して、”時短(勤務)”というより何も仕事をさせない。日数を伸ばせば時短でもできる仕事も深夜残業前提の業務設計で不可能。(30代後半・東京)
「オールド・ボーイズ・ネットワーク」は、働く人がモヤモヤするだけに留まらず、職場の雰囲気や仕事のパフォーマンスにも大きく影響することが分かります。
「女性の問題は女性で解決して」にモヤモヤ

地元の小さな不動産会社でパート社員として働いていたソリさん(仮名・40歳)。会社では「雑用は女性の仕事」という暗黙の了解がありました。給湯室の食器類や男性が吸ったタバコの吸い殻を片づけたり、男女共用だったトイレを掃除したりするのは必ず女性だったといいます。
ちょうど新型コロナの感染拡大が懸念されていた時期。衛生面で不安になりましたが、慣習を変えるのは簡単ではありませんでした。女性従業員の要望は、社内でただ1人の女性管理職に相談することになっていたからです。

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ソリさん(仮名・40歳)
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「女性管理職の方は周りの男性社員や社長にあまり強くは言えないので、要望が上にいかないんです。しょうがないので朝礼のとき、あまり分かってないふりをして『はい』と手を上げて、『使ったものはその人がきれいにするのはいかがでしょう』と全員にお伺いを立てました 」

その場で反論はなく了承されたものの、数日たつと給湯室は元の状態に戻っていました。さらに、朝礼で全員に対して呼びかけたことを後から責められたと言います。
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ソリさん
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「女性管理職に呼ばれて『なんで(朝礼で)あんなこと言ったの』って。たぶん社長や男性からあまりおもしろくない話がおりてきたんだと思います。職場をただ良くしたいだけなのになかなか理解してもらえないことが寂しいですし、男女が一緒に話ができず『女性のことは女性でなんとかして』という構造にされているのは何でなんだろうっていう不信感が積み重なりました」
小さな習慣の改善についてさえも、女性の声が届かない職場。仕事の上でも、効率の悪い手順や目的が分からない業務が変わらず続いていて、ソリさんは会社を辞めることを決意しました。
“配慮”という名の過小評価がやる気をくじく
男性の悪気のない行動で、逆にモチベーションをそがれたという声も寄せられました。

情報サービスの中小企業で営業職だったマミさん(仮名・35歳)。育児休業から復帰した直後、事前の相談もなしに、担当する営業エリアを変えられたと言います。元々担当していたのが遠方の地域だったため、子どもを抱えて出張できないだろうという男性上司の“配慮”からでした。
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マミさん(仮名・35歳)
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「慣れてないお客様ばっかりになったことで逆に私はすごく負担が大きくなりました。復帰する前に夫と話をして『出張もあるだろうから、お互いやりくりしようね』と相談して臨んだ復職だったのに、そのやる気をくじかれた気持ちになりました。最初にヒアリングしてくれてさえいれば解消された問題だと思うのですが…」

しばらくは同じ会社で働く夫と育児を分担して、子どもが熱を出した時などは交互に対応していましたが、それも次第に難しくなったと言います。
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マミさん
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「夫と半々で休暇を取っていたら、夫の方が上司から『これ以上休んだら評価できない』とお叱りを受けました。『男が休みすぎ』って見られたんだと思います。それ以降は私がずっと休むことになりました」

新しい取引先への対応や、育休中に変更された社内システムへの対応など、復帰直後のマミさんは多忙を極めました。周りに迷惑をかけられないと、家に仕事を持ち帰って深夜に対応することも。しかし、その努力や働きが十分評価されていないと感じています。
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マミさん
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「上の人から『お前、もう子どもを産んだから仕事できないだろ』って言われたんですよ。それは衝撃的で。頑張って会社のために働いてるのに、それを分かってくれない。お母さんっていう色眼鏡で『無理無理』っていうのではなく、普通の一社員として見てほしいです。ここであと1~2年評価されなかったら転職しようかなと。ちょっと揺れている感じです」
重要なのは「マジョリティーの側」を巻き込むこと
男性が無意識に行っている行動や、時によかれと思ってしている“配慮”など、職場の多数派(マジョリティー)からはそもそも気づくことも難しい「オールド・ボーイズ・ネットワーク」。その弊害をどうしたら無くせるのでしょうか。

男性管理職向けの意識啓発活動を行うNPO「J-Win」に4年前に参加した栗原健輔さん(40)。「オールド・ボーイズ・ネットワーク」という言葉にピンときたのは、自分自身もモヤモヤしていたからでした。
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栗原健輔さん/デロイトトーマツ パートナー
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「子どものお迎えのために17時半に帰るようになって、最初『これって自分のキャリアに不利なのでは?』と思ってしまったんです。それまでの働き方や仕事へのコミット度合いと比較すると不安になってしまう。逆に、なぜ今までは定時以降も働くことが当たり前だと思っていたんだろうと。どうしても男性中心に会社が回ってきたので、自分では“普通”だと思っていることが男性に得なように決まってしまっているのではと思いました」
あまり知られていない「オールド・ボーイズ・ネットワーク」という言葉に気づきさえすれば、男性自身も変われるのでは?と考えた栗原さん。NPOで学んだことを社内に持ち帰り、「男性ネットワーク」という名前で勉強会を始めました。
1年目の去年は30人以上の男性管理職が参加し、次のような取り組みを行いました。

① “いいことあるの?”に応える座談会
オールド・ボーイズ・ネットワークを「変えていいことあるの?」「変える必要あるの?」という疑問を男性どうしで話し合える場を作る。「◯◯しなければならない」ではなく「◯◯するといいことがある」というアプローチにすることで理解が広がる。
② “アンチ感覚”に向き合う模擬討論会
変わる必要性を頭では理解していても、心情的に「組織が混乱するのでは?」「自分が割を食うのでは?」とためらいや納得できない気持ちを抱えている人の立場に立って議論する。普段は面と向かって言いにくくても、役割を演じる「模擬討論」にすることで、本音で話すことができ解決方法を考えられる。
③ “自分ごと化”するためのマイノリティー疑似体験会
「女性ばかりの会議で男性1人だけ」などふだんとは逆の状況をあえて作り、マイノリティーの疎外感などを疑似体験する。立場やパワーバランス、会議の進行の仕方によって話しやすさが変わることを実感できることで、どんな配慮があればよいかを想像できる。
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栗原さん
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「会社組織として本当に変わろうと思うんだったら、困っているマイノリティー側に『やっておいてね』と放り投げるのではなく、マジョリティー側の変える力を持っている人を巻き込む必要があります。一方で男性は、こういう組織の多様性の問題について“男性は触れてはならない”“女性の問題”と尻込みしがちです。男性のなかでも置かれた環境や考え方は本来さまざまなので、『それぞれの立場から発言していい』という空気を作り、できるだけ多くの人に『自分に関係する問題だ』と思ってもらうことが大事だと思っています」
「“普通”に働きたい」をかなえるために
取材を通して印象に残ったのは、ソリさんとマミさんが口々に言っていた“普通”という言葉です。
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ソリさん
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「別に『女性活躍』とか『輝いて働きたい』わけじゃなくて、男性と同じように“普通”に働いていきたいだけ。普通に認められて評価されて、同じ仕事を同じ目線でやっていきたい。いろんな女性がいて、いろんな働き方があって良いはずなのに、選択肢が限られていることが苦しいです」
職場や社会に根づいてきた“これが普通”という慣習や暗黙のルールは大勢の人にとってあまりに当然で、疑うことすら困難です。“普通”と思っている側が「そうは思えていない人がいるかも」と想像し、モヤモヤしている側も臆せず声を上げていくことで少しずつ変わっていくのではないかと、男性たちの活動を取材して感じました。
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『あさイチ』5月25日(木)午前8:15~<総合>
※放送後1週間、見逃し配信(NHKプラス)でご覧いただけます。
『NHKスペシャル』“男性目線”変えてみた 第2回 無意識の壁を打ち破れ
初回放送 4月30日(日)※放送内容のまとめ記事もご覧いただけます