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主婦歴13年 統一地方選に挑んで見えた現実

今月行われた統一地方選挙。当選した議員のうち女性は19.9%と過去最高の割合になりましたが、それでも政治の世界ではまだまだマイノリティーです。

何が女性たちを阻んでいるのでしょうか?

市区町村議会の女性議員比率が全国ワースト1位(2021年末)の長崎県。今回、選挙に初挑戦したある女性候補の戦いに密着すると、女性が圧倒的に少ないが故に直面する困難が見えてきました。

(長崎放送局ディレクター 鈴木 璃子)

【関連番組】NHKスペシャル「“男性目線”変えてみた 第2回 無意識の壁を打ち破れ」

2023年4月30日(日) 総合 夜9時~放送
※放送から1週間は、NHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。

主婦歴13年 政治の世界に飛び込むと・・・

長崎市議会議員選挙に立候補した阿部希さん(41)です。長崎の主産業である漁業で市の活性化を図りたいと訴えています。

(阿部希さん)
阿部さん

「長崎には海がある。この海を生かしきれないのに、新しい産業をどうにかしていくことなんて難しいだろうと思うんです。やっぱり海を生かして、しっかり稼いでいかなければいけない」

阿部さんは大学を卒業してから13年間、主婦として子育てや家事が中心の生活を送ってきました。
政治の世界に関わり始めたのは、4年前のこと。地域活動がきっかけで県議会議員の選挙の手伝いをしたところ、政策秘書に抜てきされたのです。県内のあちこちをまわり、政策立案の仕事に取り組みました。

中でも力を入れたのが、漁業政策です。生活の中で培ってきた消費者目線を生かして特産である海産物を全国にPRするなど、仕事に打ち込んできました。

(漁業の政策について話す阿部さん)
阿部さん

「漁業は長崎の一大産業なのに目立っていないという課題があると感じて、私には発信ができるかなと。多様な人が入って魚を売っていくことができれば、今よりもっと市場範囲が広がっていくとか効果的に売れるとかできるのかなと。いろいろなアイデアを考えました」

議員事務所のインターンの学生とともに出場した3年前の政策コンテストでは、全国1位に選ばれました。漁業関係者からも、その知識や行動力に信頼を置かれる存在になっています。

(政策コンテストに出た学生たちと 阿部さん右端)

一方で、男性中心の政治の世界でさまざまな偏見に苦しむようにもなりました。仕事のため男性の政治家と一緒にいるだけで、根も葉もないうわさを立てられたこともありました。

阿部さん

「偏見との陰での闘いというのはすごくあって。『何でこの男社会の世界にいるのか』『誰か(男性政治家)が引っ張ったとやろ』じゃないですけど。こんなに一生懸命仕事をしてるのに、男性のそばにいたら仕事をしているという事実が吹き飛んで『女だから』とかいう解釈にしかならない。そういう色眼鏡でしか見られないことが悔しいから、また一生懸命仕事をするみたいな状態でした」

足りない“三ばん” 家庭は「犠牲にせざるを得ない」

自分の名前で仕事をしたい。そう思った阿部さんは、無所属で市議会議員を目指すことにしました。

しかし後ろ盾もなくひとりで戦う選挙は、簡単ではありませんでした。

一般的に、日本の選挙で勝つためには、3つの「ばん」=地盤・看板・かばんが必要だと言われています。地盤は自らを推してくれる組織、看板は知名度や肩書き、かばんはお金という意味です。

結婚を機に北海道から移り住み長い間主婦だった阿部さんは、3つの「ばん」を持ち合わせていませんでした。

阿部さん

「ここで生まれ育っていない事で、地縁がない、血縁がない、主婦歴が長くて人脈もない。当然お金もありません。あれがない、これがないがちょっと多すぎました。そうすると、政治の場で何かやりたいという思いはあっても、ステージに上がるまでのステップを踏む事ができないんです」

そこで阿部さんがとった方法は、とにかく有権者に知ってもらう努力を重ねること。選挙の4か月前から街頭に立ち続け、地道に自分の政策リーフレットを配ることにしました。

(街頭で政策リーフレットを配る阿部さん)

ただ、この戦略には時間が必要です。

街頭での活動以外にも企業への訪問や夜の会合などが重なり、朝から晩まで不規則な生活が続くことも。わずかな隙間の時間にも、支援者にメールを返したり電話をしたりが欠かせません。

小学生の子どもが2人いる阿部さん。実の母にご飯の支度や子どもの世話など家庭のサポートに入ってもらい、なんとか成り立つ状況でした。

(家族と食卓を囲む阿部さん)
阿部さん

「家庭と選挙との両立は、もう今の時点で全くできてないです。はっきり言って、そんなことしていたら落ちます。私は母がいるから活動できていますが、女性が1人で入れる世界じゃないです。とにかく家族を持ちながら選挙活動をするための仕組みが、全く整っていないです」

打開策は? 同じ思いを抱える女性議員との連携

そんな阿部さんに手を差し伸べたのは、同じ女性の候補者でした。長崎県議会選挙に立候補した、ごうまなみさんと協力して活動に取り組むことにしたのです。

(一緒に地域を回る ごうさん:左 と 阿部さん:右)

女性どうしでタッグを組んだことで、悩んできた「周囲の目線」を気にしなくてすむようになりました。

さらに子どもの学校行事など家族の予定が立て込んだときにも、気軽に相談できました。

ごうさん

「選挙の活動なんて、別にその日じゃなくてもいいんですよ。でも、子どものことでその日じゃなきゃダメなことってあるじゃないですか。家事や育児のこともあって、制約がある中での活動時間しかとれない。私も子育て経験者なので、よく理解できるんです」

(街頭に立つ、ごうさんと阿部さん)

互いに協力しながら、2人は街頭に立ち支持を呼びかけ続けました。

果たした当選 結果を残すことが女性の未来を切り開く

4月23日の選挙当日。即日開票の結果、阿部さんは長崎市議会議員に当選を果たしました。

ごうさんも、長崎県議会議員に当選。手を取り合って、当選を喜びました。女性がまだまだ少ない政治の世界で、まずは結果を残すことが先につながる1歩だと考えています。

阿部さん

「まずは風穴を開けないと話にならない。そこでちゃんと仕事をして『やっぱりもっともっと女性が増えていかないといけない』って世の中が認識してくれないといけないと思っています」

ごうさん

「私たちがいま、風穴を開けるところですね」

取材を通して

今回、阿部さんは当選を果たしましたが、長崎市議の女性の数は選挙の前と変わっていません。その数は40人中4人。わずか1割です。もともと立候補の段階でも、候補者57人のうち女性は6人しかいませんでした。政治に興味を持っても、立候補をする前にハードルを感じている人が少なくないのかもしれません。

密着している間だけでも、男性ばかりの世界に入っていくことの難しさや家庭との両立など簡単には越えられない壁がいくつも見えました。どんなに思いを持っていても、家庭や「三ばん」などで支えてくれる多くの人の協力がないと戦えない現実の厳しさを目の当たりにしました。

しかし、多様な人が議員となり政治の場に立たないと、多様な意見が反映された政策の立案は難しいはずです。政治の多様性をどう実現し、そのあり方をどう考えるのか。私たち有権者ひとりひとりに突きつけられていると感じました。

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