みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

女性管理職も男性育休もアップ!北九州市のジェンダー改革

ジェンダー平等を掲げても、足踏み状態の組織も多いのが実状です。そんな中、15年前からコツコツと取り組みを続けてきた自治体があります。福岡県・北九州市役所です。その結果、女性管理職の割合は上昇。男性育休の取得率は6割に達しています。NPO法人の子育て支援ランキングでも、政令市トップの常連になるまでに。

いったいどうやって生まれ変わったのでしょうか?市役所の歩みを取材しました。

(福岡放送局ディレクター 安藤 陽子)

【関連番組】NHKスペシャル「“男性目線”変えてみた 第2回 無意識の壁を打ち破れ」

2023年4月30日(日) 夜9時~放送
※放送から1週間は、NHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。

市の存亡が危うい!?改革のきっかけは危機感

2007年から16年にわたり北九州市長を務めた前市長の北橋健治さん。就任1年目の春、2日連続で市役所の式典に参加した際あることに気が付きました。1日目、職員の退職の式典に参加したとき女性職員は1割程度しかいないのに、翌日の新人職員を迎える式典では半数が女性だったのです。

(北橋健治さん 前北九州市長)
北橋さん

「将来、男性・女性の(職員の)比率が同じになる日が必ずやってくる。ところが幹部職員を見ると、市役所のイニシアチブはほとんど男性がとっている。これを変えないといけないと危機感を覚えました」

5年に一度実施される国勢調査では、北九州市は2005年から人口減少数が4回連続でワースト1位。中でも女性の流出が目立っていました。

北九州市は、鉄鋼や港湾労働など男性が中心の産業で発展してきた都市。北橋さんは “男性は仕事、女性は家を守る” という意識が根強く残り、女性が力を発揮しにくい街になっているのではないかと考えました。人口流出を食い止めるためには、女性が住みやすい市にすることが急務です。

しかし、街作りを担う市役所自体に女性のリーダーがいません。北橋さんは役所をあげた変革に乗り出します。

無意識の意識を変えるって、難しい…

改革を実践する専門のチームが、すぐに結成されました。そのメンバーの一人が、当時人事部の係長だった池永紳也さんです。

しかし池永さん自身、当時は女性管理職がいないことになんの疑問も持っていませんでした。ほかの職員たちも同様です。ジェンダー平等という言葉が、まだ一般的でない時代。ジェンダー平等の必要性を感じていませんでした。

(元 北九州市女性の輝く社会推進室長 池永紳也さん)
池永さん

「男性からは、女性だけ取り立てて制度的に支援し後押するというのは、逆に男性差別じゃないかとかいう声がありました。一方女性の中からも、私たちは管理職ではないけれどそれぞれの職場で活躍しているのに、私たちの活躍は活躍じゃないのかという声があって、とてもつらい立場でした」

しかし取り組みを進める中で池永さんの意識は変わっていきます。データを見続けるうちに、なぜ同じ仕事をしていながら男性と女性でこれだけキャリアに差がつくのか疑問に思うようになったのです。その原因を探るため行ったのが「職員全員を対象にした意識調査」でした。

意識調査を分析していくと、女性職員が管理職を目指さない理由が見えてきました。

例えば、昇任試験を受けない理由。男性は「今のままで充分満足」が最も多い一方で、女性は「昇任したら家庭と家事の両立が不安」が最多。

また「仕事と家事の両立についてどのように感じているか」を聞いた設問では、女性の86.9%が「時々困難/いつも困難」と答え、男性より29.7%も高かったのです。家事・育児が女性のキャリアアップの障壁になっていることが明らかでした。

意識を変えるために、制度を変える

池永さんたちはこの状況を変える制度を次々と打ち立てます。

そのひとつが女性職員の育成プランの見直しでした。従来の標準的な育成プランはまず窓口業務や庶務などを担当し、中核的な業務などを担うようになるのは10年ほど経ってからでした。

(従来の育成プラン)

しかし多くの女性職員がちょうど10年目頃に妊娠・出産などをむかえ、中核的業務を担う時期と重なります。その後復職しても、育児との両立を考え女性たちは負荷の高い業務を避ける傾向にありました。

(従来の育成プラン)

そのままキャリアアップの機会を逃し、仕事の経験が積めないことが原因で管理職への挑戦に消極的になる女性職員も少なくありませんでした。

そこで始めたのが女性職員の「短期ジョブローテーション制度」(キャリアの早回し)です。20代での異動スパンを短縮し、中核的な業務など様々な経験を早めに積めるようにしました。

(新たな育成プラン)

さらに昇任試験の制度も変えました。2段階あった係長への昇任試験を一つにしました。育児をしながら昇任試験を受けるのが難しいという女性職員も多かったため、負担を減らしたのです。

これらの取り組みによって女性職員の管理職試験の受験率は2割アップしました。

そしてもう一つ、ワークライフバランスの見直しに着手します。管理職の意識を変える取り組みを行いました。それが「イクボス宣言」です。“イクボス”とは、部下が子育てや家庭のことに取り組みやすい環境を整えるとともに部下の能力を向上させる上司のこと。北九州市役所では、2015年から管理職全員がこの“イクボス”であることを宣言しています。

(北九州市役所イクボス宣言書)

イクボスの行動ができているか否かは、賞与の査定にも反映されます。

こうした様々な制度を見直し激変したのが、男性職員の育児休業の取得率です。取得率は右肩上がりで日数も平均1か月以上取っています。

(北九州市役所の男性の育児休職取得率)

女性への家事・育児の偏りを是正するには、男性が家事・育児を担うことが必須。今これを市役所だけではなく市全体に広げていこうと、市内の企業などにもイクボスを推進しています。

ジェンダー平等の取り組みを15年続けて思うこと

ジェンダー平等の取り組みを地道に続けてきた、北九州市役所。今年4月には、初めての生え抜きの女性副市長も誕生しました。

(北九州市副市長に就任した 大庭千賀子さん:右)

ジェンダー平等の施策を担当してきた人事部の池永さんは15年の取り組みをふり返り、組織が確実に変わり活力が増しているのを実感しているといいます。

(元 北九州市女性の輝く社会推進室長 池永紳也さん)
池永さん

「普通に女性が活躍する、できる組織に変わってきている。多様な目線が入ることで、市民が求めている幅広い政策が立案できるようになっていると思います。それから男性・女性問わずいろんな方がこの組織の中で活躍するということは、組織が強くなるといいますか、そういった効果も大いにあるんではないかなと実際に携わってきて感じますね」

取材を通して

ある企業で取材をしていたときに人事担当者が悩んでいました。「女性の管理職を増やせといわれるけど、社員にアンケートや聞き取りをしても女性がなりたいと思っていないから進められないんですよ」

一方で、北九州市は女性が管理職を目指さない原因を探り当て、その原因を潰していく作業をコツコツとやってきました。職員の声の背景に何があるのか、家庭の状況やジェンダー意識まで分析したといいます。そこまで踏み込まないと意識は変えられないと改めて感じました。

この記事へのご意見・ご感想を「この記事にコメントする」(400字まで)か、ご意見募集ページ(800字まで)からお寄せください。みなさんの声をお待ちしています。

みんなのコメント(2件)

感想
かっぱ
50代 女性
2023年5月14日
男性が圧倒的多数の職場で働いています。
以前の当たり前のキャリアの積み方を変える、異動のスパンを早回しする発想転換の大事さに共感します。
こういう番組をこれからも作っていってください。
感想
ゆっきー
30代
2023年4月30日
北九州市の取り組み、まずは一歩前進と思いましたが、女性のキャリアプランだけを早回しにするというのは、裏返せばまだ子育ては女性の仕事とも捉えられているということなのかなと感じました。